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空想特撮映画 シン・ウルトラマン 感想

微かに笑え あの星のように

私は好きにした。君らも好きにしろ。

だが、私は君らのことを信じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今月公開された映画『シン・ウルトラマン』。2016年に『シン・ゴジラ』で日本に衝撃を与えた庵野秀明氏と樋口真嗣氏のコンビによって今度はかの『ウルトラマン』を手掛けた作品です。数年前に公開された「カラータイマーの無いウルトラマン」といったオタク心をくすぐる情報もあって、以前から注目されていましたね。

 かくいう僕もブログでウルトラマンシリーズの感想を書いている身。シン・ウルトラマンにも当然注目していました。果たして庵野氏と樋口氏は、どのような解釈を以てウルトラマンを描いてくれるのかと期待半分・不安半分で待っていたものです。

 そういて公開されてから数日、遅れて映画館で観ることになりましたが、とんでもない面白さでしたね。30分番組なら1クール(約12話)で描くであろう内容を2時間弱でまとめてみせた手腕にまず驚かされますし、何よりウルトラマンオタクによるウルトラマンオタクのための映画」と言うべき内容が見事。数分に一度、事あるごとにオタクの心を突き刺す映像が挿入され、最後まで目の離せない映画に仕上がっていたと思います。そのうえ様々な考えが浮かんでくる点も興味深いです。今回はそんなシン・ウルトラマンについて僕がどんな感想を抱き、どんな考えを得たのかを書いていきたいと思います。

 

※ここから先は映画の内容に触れているのでネタバレ注意!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  • 「愛」の出力と抑制

 本作の最大の特徴が何と言っても原作『ウルトラマン』への多大なるリスペクト。元となった初代ウルトラマンに対する敬意と、全力の愛情が注がれていることがわかる描写が連続してスクリーンに映し出されました。まず『シン・ゴジラ』のタイトルから変化していくタイトルコールが冒頭から炸裂した後、ゴメスといった『ウルトラQ』出身の怪獣ラッシュをわずか数分でかましてくるのでインパクト抜群です。その後初登場するウルトラマンAタイプ*1を意識した皺のよったデザインを見せるといったサプライズ(予告編ではフェイク映像でAタイプの存在が隠されていました)まで披露し、ウルトラマンを知る人ほど唸らされる要素が多くみられました。

 また劇中に登場する禍威獣(怪獣)と外星人(宇宙人)のチョイスも絶妙です。本作に登場する禍威獣は太古に封印された生物兵器という驚きの正体が明かされていますが、事前に酷似している4本足の禍威獣であるネロンガガボラを連続して出すことで、その設定に説得力を持たせています。*2その事件を利用し、それぞれ接近してきた外星人がザラブとメフィラスというのも興味深いです。どちらも原作において地球に友好的なコンタクト(メフィラスは少々怪しいのですが……)を取ったうえで、恐ろしい計画を企てていた宇宙人だったのでこれまた納得のいく配役でした。その後のゾーフィとゼットンの小ネタ*3も含め、約2時間でよくここまで収めたものだと感心するばかりです。

 

 このように本作は製作者たちのウルトラマンの理解度の高さが伺えます。しかしそれだけにとどまらず、シン・ゴジラと比べてもかなり“わかりやすい”ように作られていたことにも驚かされます。大衆向けになっていると言いますか、好きな人たちの独りよがりな部分が大分抑えられている印象を受けました。

 同じく本作を観た筆者の母の言葉を借りるならば「オタクの“衒学的”な面」、もっと噛み砕くと「言葉と情報の洪水」が控えめになったと言うべきでしょうか。専門的な用語などを少なめにする一方で、登場人物のリアクションを以て何が起きているかをわかりやすく視聴者に伝えようとするやり方が見られました。(早口な説明台詞は滝くん1人が担っていたからという理由もありそうです)何より多くの人が抱いているであろう「変身・巨大化し、怪獣と戦ってくれるウルトラマン」のテンプレート的イメージを損なっていなかったのが素晴らしいです。変に捻らず、ストレートにウルトラマンのカッコよさを見せてくれていたからこそのわかりやすさがあったと個人的には考えます。

 そして劇中でも禍特隊が度々現地に出撃するシーンが多く、展開も二転三転するため見ていて飽きが来ないようになっている構成も大きな評価点です。上述の通りも怒涛の2時間を、浅見さんを筆頭とした禍特隊メンバーの視点で見られるので毎回迫力がありました。浅見さんたちのように人間として、視聴者が間近でウルトラマンの存在を体験していくようなアトラクション的楽しみ方が出来るようになっていたのも見どころの1つと言ってもいいかもしれません。

 まさに本作は、多くの人に「ウルトラマンは何なのか」を示す作品だったと言えます。大多数の人にとってウルトラマンは巨大ヒーローの代表格として知られていますが、そもそもどのようなものなのかあまり知られていない……詳細は視聴者以外には案外理解されていない面があります。(これは関してはウルトラマンに限った話ではないのですが)そういった人に向けて、ウルトラマンとは何者なのか・彼らはどのような存在なのかを端的に見せてくれる力が本作にはありました。

 ここまで書いたものの、あくまでウルトラマンオタクの視点からしての見解であって、一般の人にどう映ったかはまだまだ未知数です。もしかしたらこの文章が全くの的外れになってしまう感想もあるかもしれません。しかしながら、本作を多くの人に見せようという気概だけは確かに感じ取りました。ウルトラマンへの「愛」に溢れているからこそ、出力を抑え、知らない人にも向けて作られたのが本作であると僕は信じてみたい……そう考えています。

 

 

  • 遠き異邦人から身近な隣人へ

 ここまで書いた特徴とは別に、シン・ウルトラマンに登場する「ウルトラマン像」のイメージも個人的には見逃せない要素でした。というのもウルトラマンは神なのか、それとも……という最近の作品にも見られる描写が何よりも衝撃的で、僕自身が抱いているイメージとどこか似通っていると感じたためです。

 本作のウルトラマン(リピア)は当初、まさに神の如き神秘性を以てその姿を見せました。突如として姿を現して禍威獣を撃退し、幻のように去っていく神々しさに溢れていました。人々の危機に颯爽と現れ、彼らに尊敬と畏怖の念を抱かせていく様子は実に超然的です。(加えてAタイプの得体の知れなさもどこか人間離れしていました)

 しかしそのイメージは早々に薄まっていきます。ウルトラマンの正体が現地で一体化した神永であると視聴者に示されてからは、どこか変人的キャラクターで劇中の面々を翻弄していきました。人間のルールをいまいち理解出来ないものの、知識を少しずつ吸収していく様子は中々にシュールでしたね。その後浅見さんといった禍特隊の仲間たちが困惑しながらも、徐々に仲間として彼と協力していくようになる過程も神と人間の関係とはかけ離れたものでした。

 そして劇中で「ウルトラマンは神ではない」と実際に明言し、ウルトラマンと人間双方が協力していく終盤も見事。人間を守ろうとしたウルトラマンが託した技術が、彼の信じる人間たちの手によって問題解決の糸口になっていく展開はベタながら非常に燃えます。何よりウルトラマンシリーズ共通のテーマである「人間の手で地球を守らなければならない」「人間とウルトラマンが肩を並べて戦う」を示しているだけでなく、ウルトラマンとの距離感を縮めていくストーリーとしてもわかりやすい点が素晴らしいと思いました。

 

 これらの距離感の変化は、ウルトラマンを「異邦人」として描いているからこそだと個人的には考えています。姿かたちが大きく異なる相手に当初は恐怖を抱いたり、別の存在としてみたりするものの、共に過ごしていくうちに自分たちと変わらない面も多々あることに気付いていく……そのような外国の人への印象の変化が物語の骨組みに組み込まれていると感じました。*4実際の歴史でも見られたこのイメージの変遷を、ウルトラマンという異邦人を使うことで描いてみせたのが本作の一面なのかもしれません。

 余談ですが、僕は以前当ブログにてウルトラマンの距離感の変化について書いた記事を投稿しました。その記事でも、ウルトラマンや宇宙人を「異邦人」として捉えた記述があります。

 

metared19.hatenablog.com

↑当時のウルトラマンへの所感についてはこちらの記事を参照。

 

 かつては近寄りがたいイメージがあったウルトラマンが、今では多くの個性と親しみやすさを以て愛されているヒーローになりました。その変化こそ、まさに異邦人への見る目の変化に即したものがあると僕は考えています。今や彼らは人間と共に立ってくれる「隣人」というイメージが強いことでしょう。

 それだけにシン・ウルトラマンでこのイメージにあったウルトラマン像を見られたのはとても嬉しかったです。どこか遠い存在だった異邦人が、様々な過程を経て隣人になっていくストーリーを映画で見られたことには感激するほかありません。製作者たちのイメージがもしかしたら僕の持つイメージと近いものがあるかもしれない……そんなわずかな可能性にも顔が綻んでしまいます。ある種僕にとって理想の描き方だった本作のウルトラマンにまだまだ胸が躍ってしまいそうです。

 

 

 このようにとにかく楽しく面白い作品だったシン・ウルトラマン。しかしながら、個人的にはどうしても見逃せない問題点・不満点がありました。(ここから先は批判が多いので見たくない方はブラウザバックを推奨します

 

 その問題点こそぎっしり詰まった内容。2時間でここまでまとめあげた手腕は賞賛すべきものの、次から次へとさらなる展開が発生するので息をつく暇がありません。前の展開を咀嚼しようとしたところで、次の展開が襲い掛かってくるような構成だったのが引っ掛かりました。おかげで見ている最中は感情の整理が全くつかなかった覚えがあります。前述の通り飽きが来ない内容ではあったものの、裏を返せば飽きる間もなくドンドン新展開が襲い掛かってくるようなものでした。

 そのためかウルトラマンが人間のことを必死になって守る理由、そして禍特隊がウルトラマンを信用していく要素があまり見られなかった点も気になります。登場人物のほとんどが状況をすぐ理解してくれるので話がトントン拍子で進むのは良いのですが、ここまで聞き分けがいいと逆に違和感を覚えます。何よりウルトラマンが人間をそこまで気に入っている話もピンとこないところがありました。ラストのゾーフィの「そこまで人間が好きになったのか、ウルトラマン」というセリフには、正直こちらも同じセリフだ!と思ってしまいましたね。

 どうせならウルトラマンと禍特隊が信頼しあうエピソードを途中で挟んでほしかったです。当初はウルトラマンに対して疑心暗鬼になるメンバーが1人くらいいるものの、彼に守ってもらうことで信用するようになる過程があれば、彼らの信頼関係により説得力が生まれたかもしれません。あの尺でこれ以上話を入れるのは不可能だと理解していますが、登場人物に対して思い入れが出来ただけに彼らのひと悶着をもう少し見てみたかったと思ってしまいますね。

 

 

 では以下、各キャラクターについての所感です。

 

 

神永信二/ウルトラマン(リピア)

 本作の主人公。どこか近寄りがたい雰囲気を放つ変人が、実は地球を守る超人だったというヒーローらしさ溢れたキャラクターが彼の最大の魅力でした。どんな状況でも真顔を崩さない不思議っぷりが、かえって彼の愛嬌になっていたと思います。個人的には浅野さんに対するデリカシーに欠けた発言が印象深いですね。

 全体的にヒーローらしい主人公ではあったものの、元の神永がどういった性格だったのかが結構気になります。少なくとも仕事場を抜け出しても同僚に怪しまれなかったくらいには、神永自身もまた変人だったのでしょうか。この辺りの掘り下げもちょっとばかり見てみたかったですね。

 

 

浅見弘子

 本作のもう1人の主人公。地球の人間側代表とばかりにあっちこっちに向かって活躍する様子は見ていてかなり気持ちが良かったです。変人の神永に対して一切臆することなく、ハッキリとした物言いをしてくれるので安心感があります。自分や仲間の尻を叩いて気合を入れていく癖も特徴的で、神永を信じて送ってくれる「バディ」らしさを見事に発揮してくれていました。

 あと彼女を語るうえで忘れてはいけないのが「巨大浅見さん」について。(元ネタは言うまでもなく「巨大フジ隊員」ですね)メフィラスによって巨大化させられた絵面には衝撃と共に変な笑いが込み上げてきました。メフィラスにいいようにされた挙句、ネットに晒されて悶絶するシーンは、浅野さんの親しみやすさに一役買ってくれていたと思います。

 

 

外星人メフィラス

 外星人第0号。そして個人的なイチオシキャラです。紳士的な態度に隠し切れない胡散臭さを放つ絶妙なキャラクターでした。元となったメフィラス星人と同じように、話し合いを重視するスタイルが特徴的です。(それでいて元ネタほど短気ではないのがカッコいいです)「○○○、私の好きな言葉です」という通称「メフィラス構文」もキャラ付けとしてわかりやすかったです。

 それでいて絶妙に俗っぽい点がまた素敵ウルトラマンに割り勘を要求するところなどは実に小狡くて、だからこその愛おしさを覚えました。本作に登場する外星人が軒並み人間離れした精神性を持っていただけに、表面だけでも人間臭さを見せていたメフィラスがとても魅力的に見えたのだと思います。

 

 

ゾーフィ

 光の星からの使者。原作最終回でウルトラマンを迎えに来てくれたゾフィーがまさかまさかのラスボスを連れてきての登場です。(上述の脚注の通り、児童誌のネタが元となっていると思われます)性格も事務的で、地球の人間を守ろうとするウルトラマンと真っ向から対立することになっているのが興味深いですね。

 人間に対してはどこまでも無関心・冷酷である一方で、同郷のウルトラマン(リピア)のことを最後まで気にかけていた点も印象的。ギリギリまで彼を説得して光の星に帰らせようとしていた辺り、当人なりの人間味が感じられました。劇中ではリピアと初対面のようでしたが、案外面識があるかもしれない……といった妄想が捗りそうです。

 

 

ゼットン

 本作のラスボス。原作ではゼットン星人が操る宇宙恐竜という扱いでしたが、本作では意外にも兵器という形での登場となりました。見た目もどこかエヴァ使徒を彷彿とさせるのが面白いです。それでいて巨大な威圧感とウルトラマンを物ともしない強さは間違いなくゼットンのそれでした。(また原作のゼットンの無機質さや「別の侵略者に操作される怪獣」としての側面を考えると実に納得のいく解釈だと思います)

 「ピポポポ……ゼットォン……」という鳴き声の不気味さ、そして恐ろしさも相まって、最後の敵に相応しい存在だったかと思います。そのような強大な敵だったからこそウルトラマンと禍特隊が協力して撃破したカタルシスも得られましたね。

 

 

 というわけでシン・ウルトラマンの感想でした。うんうん唸りながら何とか感想を形にすることが出来ました。映画を観てから大分経ってしまいましたが、無事感想を書けて良かったです。

 シン・ウルトラマンはこの時期の話題作な分、僕にとってどのような作品だったのかというのを文章に落とし込むのが個人的に最も大変でした。最終的にはウルトラマンを「異邦人」と捉えた内容でまとめられたことに今ホッとしています。多くの人が既に様々な感想をネット上に残した中、自分なりの感想を書けたのではないかと思います。

 

 さてウルトラマンといえば来月にはテレビシリーズ最新作である『ウルトラマンデッカー』が待っています。その他にも現在ツブイマで配信している『ウルトラギャラクシーファイト』なども気になるところ。(早くYouTubeで配信してくれないかな……)シン・ウルトラマンを皮切りにさらに盛り上がってくるであろうウルトラマンシリーズ。今後もどのような作品が来るのか心待ちにしつつ、様々な形のウルトラマンを楽しんでいく所存です。

 

 

 ではまた、次の機会に。

*1:初代ウルトラマンの撮影に使われたマスクの1つの俗称。口が動いて喋れるという設定を反映したため(実際は没になった)か、口元が開いているのが最大の特徴である。1話から13話まで使用され、その後はBタイプのマスクに変更された。

*2:初代ウルトラマンにおいてネロンガガボラのスーツはどちらも「『フランケンシュタイン対地底怪獣』に登場したバラゴンのスーツを改造したもの」という裏話がある。本作の設定も恐らくその話も反映させているのだろう。

*3:初代ウルトラマン放送当時、ゾフィーはゾーフィという名で児童誌などに「ゼットンを連れてくる敵宇宙人」と紹介されていた。ネット上のオタクの間では有名なネタである。

*4:初代ウルトラマンの製作者である上原正三(うえはら・しょうぞう)」氏金城哲夫(きんじょう・てつお)」氏が共に太平洋戦争下での沖縄出身という経歴、そして両氏によるマイノリティーとそこからくる差別表現もいくらか本作の異邦人のイメージに関わっていると筆者は考えている。