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岸辺露伴は動かない 第7~8話感想

「妥協」すべきか

「自分を乗り越える」か

露伴のファンは変な奴しかいないな!(露伴自身が1番変な奴だけど)

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 『ジョジョの奇妙な冒険』のスピンオフ作品『岸辺露伴は動かない』も、2022年で三度目のドラマシリーズ化を果たしました。2020年から始まった実写化もほぼ毎年恒例の作品となり、今年も見られたことに喜びを覚えます。

 

metared19.hatenablog.com

↑去年の作品の感想は上の記事を参照。

 

 原作のテイストを踏襲しつつ、実写だからこその表現を重視した作風はどれも唸らされるものばかり。高橋一生さん演じる露伴の魅力も相まって今回も楽しませてもらいました。去年までは3話連続で新作を見せてくれた中、今回は2話までと少なくなっていたのは残念でしたが、その1話1話の濃さは相変わらずで本当に面白かったです。今回はそんなドラマ版露伴の感想をまとめて書いていきたいと思います。

 

 

第7話「ホットサマー・マーサ」

 まず1つ目のエピソードは今年発行された「JOJOmagazine」収録の新作。先に謝っておくべきこととして、こちらに関して僕は存在をほとんど知らず、本放送まで原作の方をチェックしていませんでした。なので完全な初見感想となってしまいますが、ご了承ください。

 というわけでこの回の感想ですが、冒頭からコロナ禍での露伴のイラつきから始まるなど現代に即した設定になっていたのがまず目に焼き付きます。加えて執筆中の作品に出てくるキャラクター「ホットサマー・マーサ」の“丸が3つ”のデザインが著作権に違反する恐れ*1があるなど、色々な制約に苛立つ露伴の姿が印象的。漫画に関してどこまでも完成度を追求する露伴が、息苦しい世の中に苦悩する様子は何とも辛そうでした。

 それに対して偶然迷い込んでしまった御神木で今回の怪異「藪箱奉仕(やぶばこほうし)」のせいで自分の暗黒面に好き勝手されてしまうという話でしたが、その結果起こった様々な事件はその怪異とは全く別のものだというのが面白かったですね。いつの間にか露伴の家に居ついていた女性ファン「イブ」がヤンデレな本質を少しずつ表していく展開にはかなりゾッとさせられましたが、それはあくまで人間の狂気を描いたサイコホラーとしての恐怖だったのが興味深いところ。怪異はきっかけにすぎず、その後は露伴自身も含め全て人の為した異常というのがこの話のキモだったのだと思います。

 また露伴にとって最も許せなかった丸が“4つ”になってしまったホットサマー・マーサの件が、藪箱法師どころか暗黒面すら関わっていないというオチには膝を打ちました。ほぼ独断でデザインを変更したうえに、問い詰めてくる露伴に平然と答える泉ちゃんの鋼の胆力には舌を巻くばかりです。全てを元に戻してもダメだった……ということで露伴が悔しそうに悶えて諦めるラストは妙な痛快感を覚えましたね。

 そしてこのエピソードは全体を通して「妥協」を描いているのが大きなポイント。漫画のためなら妥協を許さない露伴から生まれた暗黒面が、過ぎ去った3か月間で起こした様々なことは全て露伴の鬱憤を晴らすための妥協がもたらしたものではないかと思われます。その後解決に奔走するもののあわや絶体絶命の状況まで追い込まれた露伴が、イブをヘブンズ・ドアーで操り時間以外を元に戻した件もある意味妥協。ホットサマー・マーサのデザインを諦めざるを得ないラストもまた露伴にとって辛い妥協でした。制約の多い世の中で妥協せずに生きることの難しさ、問題解決のためなら様々なことも妥協しなければならないことこそ今回のテーマだったのではないか、と考えます。

 

 

第8話「ジャンケン小僧」

 続く8話は5話と同じく、スピンオフ元であるジョジョ4部のエピソードを元にしたもの。これまた元ネタが露伴が単体で困難に立ち向かうエピソードであり、ある意味で怪異的な内容からこれまたピッタリだと思いましたね。

 そんなジャンケン小僧のエピソードはまず出だしが上手い!と感じました。原作では矢に刺されたことでスタンド「ボーイ・Ⅱ・マン」を発現した勢いで露伴に挑んでいた「大柳賢(おおやなぎ・けん)」少年が、露伴のファンとしてホットサマー・マーサのデザインに物申すところから始まったことに驚かされました。「丸が3つじゃないのはおかしい」と“3”という数字の美しさを追求しており、そこから全てが“3”すくみで決まる「ジャンケン」に繋がる流れは見事の一言。前回の丸が3つか4つか問題が、そのまま今回の話の動線となる展開には感動すら覚えます。

 ジャンケン小僧こと賢のキャラクターも良かったですね。演じている子役の可愛らしさもあって原作のウザさは当初感じられなかったのですが、それを劇中の振る舞いで補ってみせたことには色々と唸らされるものがありました。様々な方法で露伴を苛立たせる様子は、まさに年相応の生意気盛りといったところです。加えて『ピンクダークの少年』に対する深い造詣と好意から、「自分の方が優れている」という子どもらしい思い上がりを見せている点も興味深いですね。

 そうして始まった小僧とのジャンケン対決では原作通りの「“自分を乗り越える”運の強さ」を説きつつ、最終的には露伴が彼の「怒る時こぶしを握りしめるクセ」を利用して勝利するオチに衝撃を受けました。(この「クセ」のくだりは同じくジョジョ4部のエピソードの1つエニグマは謎だ!」を彷彿とさせます)単純に自分を乗り越え運と度胸で勝つだけでなく、漫画家としての洞察力でも上を行くことで小僧に完全勝利する展開にはかつてない爽快感を味わいましたね。

 加えて思い上がった子どもを打ちのめしつつ、その後小僧に丸が3つのホットサマー・マーサを描いてあげて「考えていることは同じ」と通じ合い和解する流れにもスカッとさせられます。露伴らしい生意気な相手を徹底的に倒す点と、尊敬する相手に敬意を払う点を両方満たした見事なオリジナル要素が素敵なエピソードでした。

 

 

 改めて今回のエピソードを振り返ってみると、いずれも露伴のファンが襲い掛かってきているのが面白いですね。自分こそが露伴先生(あるいは先生の作品)を理解していると思い込み、それに応えない彼に対して攻撃的な「厄介ファン」と化す流れにはちょっと苦笑いしてしまいます。相手のことをわかっているつもりと思い上がるのは危険、といった教訓をエピソード内に残してくれているようにも思えてきます。

 そして今回はどちらも「辻神(つじかみ)」が関わっていたのが特徴的。別れた道で誤った選択をさせてしまうかのような神の存在に、不思議な感覚を覚えました。辻神が取り憑く場所である「四つ辻」が、今回のキーワードである“3”とは異なる“4”に因んだものである点も色々な妄想が膨らみますね。

 

 

 というわけで今回のドラマ版岸辺露伴は動かないの感想でした。毎回毎回原作のアレンジが素晴らしく、例年と同じように楽しむことが出来ました。上述の通り2話だけだけでも、全体の話の密度はこれまでと引けを取らなかったと思います。余談ですが今回は露伴が飼っていた犬の「バキン」*2が妙に可愛くて癒されましたね。7話の途中で子犬から一気に成長してしまったことには最初ショックを受けてしまったものの、大きくなった姿も実に愛らしかったです。

 

 さてこうなると次もまたやってくれるのかという期待、そして今度はどのエピソードを取り上げるのかという疑問が湧いてきます。気になったのがラストの泉ちゃんの発言で、フランス・パリのルーヴル美術館の名前を口にしていたことから、次は「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」になるのではないかと既にネット上で話題になっています。まさかの次回はフランスロケなのか!?とつい考えてしまいますが、あくまで仄めかした程度ということを忘れてはいけません。やってくれるという保証はないのであまり期待せず、されどワクワクしつつ現在放送中の『ジョジョ』6部のアニメを楽しみながら待っていたいと思います。

 

 

 ではまた、次の機会に。

*1:言うまでもなく、ディズニーの「ミッキーマウス」のことを指しているのであろう

*2:名前の由来は恐らく江戸時代の読本作家「曲亭馬琴滝沢馬琴」かと思われる。