「少女漫画界の母」とも呼ばれるレジェンド漫画家・萩尾望都氏の短編が現在無料公開されています。(公開期間は9月10日までなのでお早めに)その中で読める作品の中に短編集のタイトルでもある『半神』もあり、萩尾望都ファンの1人としては興奮せずにはいられません。氏の漫画は『ポーの一族』をはじめとした数多くの名作が存在していますが、半神はその中でも個人的にかなり印象深い作品となっています。
というのもたった16ページに込められた内容の密度と、物語の分厚さが凄まじいからですね。体が繋がっている双子の片割れの視点で進む中で、もう1人の自分とも言える妹への愛憎が非常に濃く描かれています。そして妹の方を天使のように可愛がる両親や大人たちの残酷さも相まって、ラストに胸が締め付けられること必至。この機会に僕も改めて読んでみましたが、主人公にとっての“影”にして“神”がどういったものだったのかを思い知らされるラスト2ページは特に情緒が揺さぶられます。周囲が天使と持て囃した妹の本質を、彼女だけが理解していたかもしれない……そういった考えを巡らせるだけでこれまた切なくなります。
といった感じに短編の名手でもある萩尾望都氏のテイストを思う存分味わえる傑作の半神、おすすめです。上述の通り16ページなので読むこと自体はサラッと出来ますし、それでいて余韻は半端ないのでとても面白い体験が出来るかと思います。そしてこれを機に、他の萩尾望都作品にも興味を持っていただければ幸いです。
というわけで以下、今週の簡易感想です。
※今週の『【推しの子】(2期)』はお休み(特別総集編)のため感想はありません。
狼と香辛料 MERCHANT MEETS THE WISE WOLF
第22話「教会の教えと父の記憶」
ホロが思いついた作戦が結構セコい件。信仰に厚い聖職者を神の前に引きずり出して、嘘が言えない状況下で質問してくるやり口には思わず苦笑いしてしまいました。とはいえ神への信仰が何より重要な世界で有効な手であることはわかりますし、エルサが思いのほか物分かりが良かったのもあってすんなり話が進んだことにはホッとします。ホロの正体に気絶したものの、神に誓って他者を貶めたりはしない……そんなエルサの真面目で不器用なところに救われたとも言えるでしょう。そしてエヴァンを尻に敷く様子も相まって、彼女への好感度が上がってきますね。
またエルサの口から神を信じる在り方に関する悩みが吐露されたのも興味深かったです。賢狼ホロという神を目の当たりにした結果、「なら自分たちが信じた神は嘘になってしまうのか?」といった考えに突き当たる姿に驚きつつも納得しましたね。異端に対して苛烈になってしまう教会のように、一神教を基本とした世界観ならではの苦悩と捉えられます。(それでいて当のホロは「神が人が勝手に考えあげただけ」と一笑に付すのがまた面白い)それ故に様々な神について調べたフランツ司祭が残した、調べ上げた多くの神の存在を認めてほしい、狭い世界ではなく広い心を持った人たちに判断を委ねた願いの“意味”についても意味深に思えてきます。
かつて魔法少女と悪は敵対していた。
第9話「クリスマスの夜に」
ついにやってきたクリスマスの日のお家デート。もどかしい空気が静かに蔓延していくものの、何かとぶっ壊れるミラのメガネ芸の連続でそれどころではなくなってしまいました。レンズが割れては即座にスペアをかける流れを何度もやるので腹筋が持たなかったです。そのうえ買いものの時点で新婚さんといったよからぬ妄想を巡らせる、ミラの煩悩の爆発っぷりがいちいち笑いを誘ってきましたね。中でもハンバーグのタネの形がハートであることに対して、いらぬ考察や思惑を垂れ流すパートがちょっとしたお気に入りです。
それでいてニヤニヤが止まらない描写は相変わらず。特に今回はミラと白夜が互いに名前を呼び合うシーンに顔を綻ばせずにはいられなかったです。何度も呼び合う過程は素敵と言えば素敵なのですが、御使いがツッコミを入れるのもまぁ仕方ないかなとも思ってしまいますね。ともあれクリスマスという日だからこそ、悪の参謀やら魔法少女といった役割に縛られず自分の気持ちに正直にいられた様子は実に尊かったです。(他にもミラが購入した白夜のノルマのケーキを、他には悪の組織の幹部が楽しむシーンがここすきポイント)
時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん
第10話「遅ればせながら、誕生会」
おいおい普通にグイグイ日本語でもデレる隣のアーリャさんになっているぞどうしたことだ!?誕生日のお祝いに食事に誘ってきただけでも驚きなのに、当日の積極的な態度の数々に動揺を隠せませんでした。デートと言われてからなのかもしれませんが、アーリャが自分が優位に立った途端ここまで調子に乗り出す性格だったのは少々意外ですね。ありとあらゆる方向で政近をからかい、彼を手玉に取る姿はかなり新鮮で愉快でした。しかしここまで好意を隠さなくなると流石に政近への想いを隠しているのは無理がるのではないかと思わなくもないような……
さらに後半では三者面談のために学校にやってきた政近の祖父に印象を持っていかれることに。有希に負けず劣らずの愉快なキャラクターで、白服サングラスのビジュアルも相まってインパクトが凄まじかったです。さらにはロシアに憧れがあるという理由でアーリャに近づく奔放さには笑いが止まりません。アーリャの母親も娘の恋を大いに応援していましたし、大人たちが大人げなく子ども世代の出歯亀となっているシュールさは何とも言えないおかしさを生んでいたと言えます。
ちびゴジラの逆襲
第36話「ゴジラが一匹」
寝れない悪夢みたいな内容かと思ったら普通に夢オチだったでござる。ちびゴジラがツッコミを重ねる時点でいつもと異なる雰囲気を感じていましたが、トンチキな状況自体が夢だったという荒業には感心しつつも笑うほかありません。しかも山寺宏一ボイス(おはスタに山ちゃんが久々登場……!)の謎の声がいい味を出しており、普段はボケのちびゴジラを見事に困惑させまくっていたと思います。
また今回の話のキモである「眠れないから羊ならぬゴジラを数えてみる」様子もおかしさ満点。謎の計算問題が出題されたり、ゴジラの具だくさんスープが出来上がっていくなど非常にカオスの一言でした。ちなみに個人的には怪獣の音ゲーが始まる瞬間に笑いが止まりませんでしたねえぇ。眠れないネタからここまで様々なギャグへと広げていくセンスには感服するばかりです。
萩尾望都作品は上述以外にも『トーマの心臓』『スター・レッド』『イグアナの娘』『残酷な神が支配する』『メッシュ』『レオくん』などジャンルが多岐にわたり、いずれも魅力的。どの作品も面白いのでおすすめしたいところです。
しかし個人的に1作挙げるとするならば、『11人いる!』がイチオシですね。本作はSF&ミステリーサスペンスの要素を持っていながら、細かい設定などはないのでスラスラ読めるこれまた見事な作品となっています。ラブストーリーもわかりやすく、ヒロインのフロルの可愛さは今でも萩尾氏ヒロインの中でもトップクラスだと思いますねハイ。中編漫画でこれまたすぐ読み終わるので、機会があれば11人いる!も是非読んでほしいです。
ではまた、次の機会に。
