だからこそ手にする幸せ
約37兆個もの細胞たちが働く、世界最小の物語をここに。
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清水茜氏原作の細胞擬人化漫画『はたらく細胞』。初登場時から大きな話題を呼び、アニメ化や数多くのスピンオフ作品を輩出してきた人気作です。細胞や細菌・病気についてをコミカルに学べる作品として何かと取り上げられていた本作が実写映画化したということで、僕自身以前から注目していました。
↑映画初報時の感想については上の記事を参照。
年末は忙しく観に行く暇がなかったのですが、2025年を迎えた元日にようやく映画館に足を運んで鑑賞しました。その結果、凄まじい原作へのリスペクトに興奮しつつと衝撃的な展開に愕然となりました。あの細胞の世界を見事に再現しながらも、原作では敢えてやらなかったシビアでハードな要素の数々に触れていく大胆な改変のインパクトはあまりにも絶大。コメディ映画だと思って行くと面食らいますし喪失感も半端ないのですが、その分医療要素に真摯に向き合った証明でもありました。というわけで今回はそんな実写版はたらく細胞の感想を書いていきたいと思います。
※ここから先は作品の内容に触れているのでネタバレ注意!!
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- 独自に描かれるワンダーランド
まず本作の特徴の1つである「原作の世界観の表現」について。原作でも印象的だった「細胞の世界」を、どこか不思議なファンタジーランドのように表現してみせたことにまず唸らされます。元々が団地のような風景だったのに対してこちらは中世ヨーロッパを彷彿とさせるもの*1でしたが、大量の細胞たちがひしめき合う絵面などで細胞の世界であることを一気に印象付けてきました。細胞たちのアニメチックなビジュアルも、こうした馴染みの薄いファンタジーテイストだからこそ違和感なく溶け込んでいたと思います。おかげで血小板ちゃんやキラーT細胞といった各細胞の個性豊かなキャラクターを、本作でも堪能することが出来ました。
他にも個人的に気に入っているのが戦闘シーンのクオリティ。肺炎球菌や化膿レンサ球菌といった雑菌とのバトルシーンはかなり気合が入っており、縦横無尽に動き回る白血球たちにはかなり驚かされました。(中でも白血球のアクションは実写版『るろうに剣心』のアクションシーンとの既視感を覚えるものがチラホラあったのでニヤリときたり……)CGといったVFXもこれまた違和感なく馴染んでおり、ある種特撮作品としても見ることが出来ます。特撮作品が大好きな身としては、ここまで見応えのあるバトルが見られただけでも嬉しい限りです。
総じて細胞たちを擬人化しているという点を上手く意識させて、こちらに彼らの世界へとすんなり入り込めるようになっているのは見事の一言。原作の世界と似たようで異なっている点も「人間の数だけ細胞たちの世界がある」と考えれば納得がいきますし、むしろその設定を活かしているからこその世界観を構築していると漢字ました。(そもそも原作のスピンオフの時点で大概フリーダムですし)原作漫画を読みこんでいるからこそ出来る、独自の世界観は最初に評価しておきたいところですね。
- 人間と体内のリンクの面白さ
そして実写の挑戦的な要素として、宿主である「人間の世界」が描かれていた点も見逃せません。原作では敢えて触れてこなかった領域に踏み込んだことには最初こそ不安を覚えましたが、蓋を開いてみれば人間の世界があるからこその演出で大いに楽しませてもらいました。何と言っても人間側の描写と細胞側の描写がリンクしているシーンの数々が秀逸で、人間からしてみれば大したことのない擦り傷が体内では大爆発と大穴として表現されるギャップには思わずクスっとさせられます。宿主の人間がどういった状況にあるのかを見せることで、体内での出来事もスッと入り込めるようになっていましたね。
またメイン登場人物である親子の片方を使ってスピンオフ作品である『はたらく細胞BLACK』ベースの世界を同時に用意しており、良い意味で意表を突かれる点になっています。これまた原作とは異なる世界観ですが、主人公の父親が持っている持病の数々がこれまた体内でリンクしてくるので不思議な臨場感が出ていましたね。肛門のシーンは下ネタなどクドいところもあって人を選びそうですが、現実なら悲惨な症状をある程度コミカルに仕上げていたのは個人的には好感が持てました。
そのため劇中に登場する人間たちにも愛着が持てたのが嬉しい誤算。基本の世界の宿主である「漆崎日胡(うるしざき・にこ)」と父親の「漆崎茂(うるしざき・しげる)」、それぞれの細胞たちの働きと共に彼らのドラマもしっかり描かれていました。不摂生な生活で一度は倒れる茂には笑いつつもゾッとしましたし、さらに後述の展開で日胡が衰弱していく様子は辛くて見ていられなかったです。だからこそ支え合う親子関係や共にいてくれる日胡の彼氏の存在に救われますし、彼女たちが生きていけるよう頑張ってくれた細胞たちのありがたみも間接的に伝わってきました。まさに人間がいるからこそ出来る作品作りには感心するばかりです。
- ショッキングな結末、だからこそ見事
さて本作で最も衝撃をもたらした後半の展開ですが、本当に胸がザワつきましたね。健康優良児であった日胡が突然倒れた原因として、白血病が出てきた時の恐怖は計り知れなかったです。遺伝子に異変が見られた骨髄芽球が白血病細胞へと変貌するのは予想通り*2でしたが、その結果体内が徐々に荒廃した世界へと変貌していく様子は怖くて仕方がなかったです。キラーTやNK細胞もあっさりと殺されていくので、見ている最中は本当に気が気でなかったです。原作と似て非なる世界観とはいえ、愛着のあるキャラクターを情け容赦なく全滅させていく展開には本当に思い切ったことをしたものだと感じました。
同時に人間側の描写も深刻になっていくのが恐ろしいところ。徐々に衰弱していく日胡の様子はこちらの胸が締め付けられましたし、「何で俺じゃないんだ」と涙を流す茂のシーンにはこちらも涙ぐんでしまいます。また日胡が受けた抗がん剤や骨髄移植のための放射線治療の描写が、体内では細胞が消えていく要因にもなっていたのでかなりショッキングでしたね。(綺麗なオーロラ(放射線)によって細胞たちが服だけを残して消滅していくシーンは結構なホラーです)必要なことなのはわかりますし仕組みも理解出来て勉強になったものの、細胞たちが無情にも消されていく光景は恐ろしくも美しく映りました。
原作やアニメのコミカルな内容を期待していると絶句すること間違いなしの結末ですが、それがかえって「体のために働く細胞たちのドラマ」に繋がっていたのは素晴らしかったです。健康な体にも異常が発生して惨状を引き起こしてしまっても、どんなに絶望的な状況でも体を生き延びらせようと戦う細胞の懸命さに胸打たれました。闘病生活を送る日胡たちの描写もまた密接にリンクしており、笑ったことで免疫力が高まり白血球が立ち上がるといった物語が続いていく過程もまた絶妙。医療作品としても真面目に作られていることが伝わってきますし、細胞たちの生き様を丁寧に描いてたと言えるでしょう。消えた赤血球と白血球そっくりの2人が出会うラストがちょっとした救いになっている点*3も含め、心穏やかではいられないもののしっかりとした作品に仕上がっていました。
というわけで実写版はたらく細胞の感想でした。いやぁ原作とは別物の展開が待ち受けていましたが、ちゃんと面白かったので何だかんだ満足度はかなり高かったです。人間側の描写や細胞たちの一時全滅エンドなど、原作ではなかったことに挑戦していますが、それは決して原作を蔑ろにしているわけではないというのが伝わってきましたね。むしろ原作への理解があるからこそ、実写ならではの形で1つの作品に昇華してみせたのでしょう。こうしたリスペクトに溢れた作品は個人的にも大いに評価したいです。
同時に自分の体をもっと労わってやろうといった意識も湧かせてくるので、「笑えて泣けてためになるエンターテインメント」として十二分の働きをしてくれたことにも感服させられます。年明け早々凄まじいものが観れて、楽しいひと時を送れた次第です。
ではまた、次の機会に。
*1:ちなみに体内のパートで使われたロケ地は和歌山県にあるテーマパーク「ポルトヨーロッパ」(https://www.marinacity.com/porto/)とのこと。
*2:ただし原作漫画では「がん細胞」が体を脅かす敵になっていたため、原作同様がん細胞が出てくると思っていた身としては白血病細胞は意外なサプライズであった。
*3:余談だがこうした「登場人物が全滅した後に主人公たちのそっくりさんが再開を果たす結末」はそこまで珍しいものではなかったりする。(有名な一例としては『ジョジョの奇妙な冒険 第6部 ストーンオーシャン』がある)
