たったひとつ望むものは
ゲルググ(GQ)「自分ジムじゃなくてゲルググなんです!信じてください!」
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- 諦めたくなかった“死にぞこない”
ジークアクスが今回から先行上映版の先の物語が展開されましたが……ショッキングな内容に空いた口が塞がらなかったです。マチュたちの前に現れた新キャラ「シイコ・スガイ」が、本作の空気感を一気に変えるほどの衝撃を与えてきました。一年戦争で100機以上を撃墜し「魔女」の異名で恐れられてきたトップクラスのパイロット、という経歴だけでもすさまじいところ。ですがおっとりとしているようで、その内に秘めた彼女のガンダムに対する執念に恐れおののくことになった次第です。
赤い彗星(シャア)が駆るガンダムにマヴを撃墜され自分は生き残ったものの、戦後結婚して夫や子どもと穏やかに過ごしていたであろうシイコ。そんな彼女が母の立場を捨ててまでガンダムへのリベンジに狂喜しながら挑む様子に終始圧倒されました。その復讐に「望むものを全て手に入れることが出来ない」という、彼女の人生観が関わっていたのが興味深かったですね。彼女の言う全て、恐らくは戦時中に失ったマヴの存在の大きさも読み取れます。きっとシイコはマヴの死を受け入れることを“諦め”として、認めたくなかったのかもしれません。
その結果ニュータイプに対する憤りを抱いていたのがこれまた印象に残りました。シイコにとってのニュータイプは“選ばれた勝者”。全てを手に入れた特別な存在=ニュータイプとして、自分は手に出来なかった理不尽をぶつける対象を探していたのが伝わってきます。ニュータイプという勝者に勝つことで、諦めかけていた自分が敗者でなくなると本気で信じていたのかもしれません。戦争に魂を囚われて、戦後も怒りを行き場を失った“死にぞこない”としてのイメージがあまりにも強烈でしたね。『トランスフォーマー アーススパーク』といい、近年の戦後を扱った作品は個人的にメチャクチャ刺さる……!
そしてシュウジの駆る赤いガンダムとの戦いの末、死亡する結末も衝撃的でした。最初こそそこまでする必要はあったのか?と困惑したものの、強敵として手加減出来なかったことと、上述のシイコの危うさからしてこうするほかなかったと今なら理解出来ます。むしろシュウジもまた特別ではない「たったひとつ望むもの」のために生きているとわかり、自分も「ぼうや」という大切なものを思い出せただけ救われたとも捉えられるでしょう。最期の最期に母親に戻れたものの全てが手遅れだった……という、あまりにも絶大なインパクト残したシイコのことは忘れられなさそうです。
- 怨敵に聖痕刻む、執念に塗れた魔女
ガンダム相手のクランバトルのために魔女ことシイコが用意した機体である“gMS-01”「ゲルググ」。予告の時点でジム系列と予想していた機体が、まさかのゲルググで度肝を抜かれました。凸型のバイザーからしてガンダムを知る人の9割はジムだと認識しそうなビジュアルなだけに、この意表の突き方は予想外です。とはいえ「ガンダムのデータを基に開発された」という公式の解説*1があることから、ファースト世界におけるジムと同じ立ち位置なのは間違いないでしょう。
そもそもの機体性能は連邦の軽キャノンとは比べ物にならないほど、という説明がされているほか、「モスク・ハン」博士による「マグネット・コーティング」が施されている模様。機体関節の可動摩擦部に磁力コーティングすることによって、抵抗を減らし反応速度を劇的に上げる効果があります。ここにシイコのスーパーユニカムとしての操縦技術が加わることで、従来の機体では追いつけないほどの操縦系統の強化が発揮されていました。(しかしファーストの世界ではアムロの乗るガンダムに使われていたコーティングが、ゲルググの名を冠したジムそっくりの機体に施されているというのも不思議な話です)
さらにシイコ機のゲルググは彼女が得意とする「スティグマ戦法」によってさらに恐ろしいモノへと昇華されていました。相手の機体にワイヤーフックを引っ掛け、その遠心力を利用して通常では不可能な軌道変更を行うという、割ととんでもない戦法です。急激な動きの変化で相手の視界から消え攻撃してくるのは確かに強力ですが、パイロットと機体の双方に絶大な負荷がかかるのは劇中の描写を見ても明らか。ワイヤーが付いた腕部が破壊されてもなお戦い、追い詰めていく様は感嘆よりも恐怖が勝りましたね。まさにシイコの執着が形となって現れた、捨て身の戦いぶりだったと言えます。
- 普通じゃないもののために飛び込めるか
戦場に囚われたシイコの凄まじさもさることながら、その様子を眺めることになったマチュについても見逃せないポイントが多め。序盤からクラバで連戦連勝を重ね絶好調、さらにはシュウジが行きたがっている地球に同じく行ってみたいとはしゃぐ有様でした。そのうえシュウジの普通ではないところに憧れていることもハッキリと描かれており、前回に続いて彼女の非日常への渇望がこれでもかと言うくらい溢れていたと感じています。(ニャアンから若干引かれているっぽいのが何ともおかしなポイント)
加えて今回はマチュが普通であることにうんざりしているのが読み取れました。学校でクラスメイトの輪に馴染めないばかりか、母親からの説教を受けて「母さんって普通だな」と呟くシーンは中々に鮮烈でしたね。この平穏無事な日常に辟易としている様子からは、これまた思春期特有の“現状への反発”が感じられます。シュウジとのクランバトルやキラキラは、まさに彼女の今の日常を反抗するために行われているのでしょう。この時点では微笑ましいと思う一方で、やはり一歩間違えば後戻り出来ないかもしれない危うさを抱えていると言えます。
と思っていたらシュウジとシイコの死闘を目の当たりにして、自分が踏み込もうとする領域の恐ろしさにようやく気付いた模様。しかしそれをわかったうえで、シュウジの側にいるためにいつかは自分も……と覚悟しかかっているのがショックでした。生き死にの関わる世界に足を突っ込んだ自覚を持ったうえで、引き返す選択を取らないのは本当に危険だと思いますね。歴代のガンダム主人公と比較しても戦う理由があまりにも希薄なマチュですが、その理由を得るためにそこまでしてもいいのか!?と視聴者としても困惑するほかありません。果たしてマチュは本当に一線を越えてしまうのかで、この先何度もハラハラさせられそうです。
今回は他にも「薔薇」や「ララ音(ララおん)」といった謎のワードが飛び交っていたのも印象的。いずれも詳しい説明が全くされておらず、過去作品にもないワードなので頭にクエスチョンマークを浮かべてしまいましたね。
前者の薔薇に関しては映画の方でキシリアが口にしていた「シャロンの薔薇」なのは間違いないでしょう。そのシャロンの薔薇についてはこれまた何もわかっていませんが、シュウジの口ぶりからして地球にあることは確実。その薔薇に辿り着くことが、本作の1つのゴールなのかもしれません。
後者は恐らくキラキラ(ニュータイプ空間)に突入する時の「ラ……ラ……」といったSE(声)のことを指しているのかと思われます。ニュータイプのみ感知出来るものらしいのですが、どこか派生しているのか気になるところ。というかBGMからしてやっぱりララァが関わっているだろコレ!などと内心ツッコんでしまったり。
さて次回はマチュに緊急事態が発生する模様。どうやらエグザベに拘束されるようで(未成年を連れ込むのは流石に事案だぞエグザベくん)、そのせいでクラバが間に合わないと大変なことになるとのこと。予告からしてニャアンが何とかするようですが、もしや彼女がジークアクスに乗るのかとつい身構えてしまいますね。初登場からイマイチパッとしなかったニャアンがようやく活躍するのかで、期待したいところです。
ではまた、次の機会に。
*1:公式サイト「MECHA」のページ(https://www.gundam.info/feature/gquuuuuux/mecha/21/)を参照。
