翼を広げて 貴方を待つわ
愛しの彼ら2人を救うためのRTA、はーじまーるよー
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- 2人の彼と求める“自由”の果て
前回全てを持っていく勢いで地球へと突撃していったジークアクスとマチュ。そして辿り着いた地球で「ララァ・スン」との出会いを果たす物語が展開されました。何と言ってもララァの存在が今回最も重要で、それに合わせて彼女周りのオカルトチックな要素がより強調されているように感じましたね。夢の中で別の自分と繋がり、多くを見てきたというララァの話は初見ほど困惑するモノだったと思います。しかしファーストガンダム視聴済みの場合は、何となくですが彼女の不思議さを受け入れられるといったところでしょうか。
ともかくララァがマチュに語った「2人の彼の話」は実に興味深かったです。自分を見初めてくれた彼(シャア)と白いMS(モビルスーツ)の彼(アムロ)どちらも死なせまいと、ララァが様々な可能性を巡っている事実には大いに驚かされました。恐らく本作の世界は、シャアをガンダムに乗せることでその死を回避させた世界線であることも同時に読み取れてきます。ジークアクスの物語は、シャアを助けたいとするララァの平行世界を越えた挑戦の果てで生まれたのかもしれません。それだけに「RTAを再走しまくっているララァ概念が生まれている」のがちょっと面白いところ。「だから天パが出てくる前にガンダムを奪っておく必要があったんですね(メガトン構文)」
ただその結果この世界のシャアは行方不明となり、ララァも彼に迎えてもらうことなく今も娼館「カバスの館」に縛られている事実は悲しいところですね。原典であるファーストとは違い一年戦争後も生きていられているものの、現状が幸せそうだとはとてもじゃないですが言えません。彼女をお姉さまと慕う少女たちの態度からしても、この館での暮らしがどれだけ屈辱的なものだったかはそれとなく察せられますね。(娼館でことも含め、直接的な表現は避けているものの伝わってくる描写が中々に絶妙)劇中でララァが「向こう側の私は自由だった」と言っていたように、この世界のララァは館と地球に縛られた存在なのでしょう。
原典においてはアムロの攻撃からシャアを庇ったことで死亡したララァ。そのうえ自分とシャアの死を回避したらしたらで上述の境遇と、あまりにも救いがない話に顔を覆ってしまいます。マチュに連れられて逃げられるチャンスも、「彼の迎えを待つ」ために残る選択でふいにするのが何とも切ないですね。それだけに彼女にとっての“自由”とは、彼らと共に宇宙に旅立つことなのかもしれないと感じられました。漠然とした不自由を感じているマチュにとって、そんなララァの生き方は良くも悪くも大きな影響を受けるものだったでしょう。今回はまさしくララァという女性の、自由の在り方が響くエピソードだったと言えます。
- 大いなる時空を越え、薔薇は此処に咲き開く
本作における大きな謎の1つ「シャロンの薔薇」の全貌がついに判明。その正体は一年戦争中、ジオンで研究が進んでいたものの開発が中止されていた「この世界には本来存在しないはずのMA(モビルアーマー)」でした。完成しなかった幻の機体が完成品で存在している……この時点で異質ですが、その中にはララァらしき人物が乗っているのも不気味さを加速させています。内部はパイロット含め時間が止まっているような状態らしく、意思疎通はおろか生きているのかも怪しいところ。まさしくジオン側にとっては重大かつ危険なオーパーツだと言えるでしょう。
さてファーストこと『機動戦士ガンダム』を視聴した人ならわかると思いますが、この機体こそララァ・スン専用MA“MAN-08”「エルメス」。原典であるファーストガンダムにおいてララァが乗りこなし、上述の悲劇をもたらしたニュータイプ用の機体です。劇中でコモリ少尉が口にしていたように、チューリップを彷彿とさせる形状からして間違いありません。本作のMSやMAは全てデザインに何らかのアレンジが施されている中、このエルメスだけは原典と全く同じデザインでの登場となりました。これらの情報のおかげで本機はこの世界のモノではないこと、そしてファーストの世界からやってきたことが伺えます。
さらにコモリの発言によると本機は「屈折して見える」らしく、シャリアが「この世界では不安定な存在」と仮定していたのが興味深かったです。姿がブレていて直視するのが難しい点は、この機体が平行世界(パラレルワールド)のモノだからということなのでしょう。ファーストで死んだと思われていたララァが実はこの世界に飛ばされていたのは意外ですが、それ以上に別世界の異物として今もなお存在が固定されているのが微妙なところですね。生きているとも言えない状況なうえ、ジオンによってどのような扱いを受けるかわからないので見ていて少々不安になってきます。
また余談ですが、このエルメスはその名前からくる曰く付きの機体でもあります。というのもフランスの有名ファッションブランドである「HERMES(エルメス)」と同じ名前だったことから、商標の都合上立体化された際「ララァ・スン専用モビルアーマー」という商品名にされた経緯を持っています。*1それ故昔から名前を呼べない機体としてネタにされていたわけですが、本作ではそれを逆手に取ってシャロンの薔薇という別名を付けたのでしょう。そうしたオタク的なネタの利用法には、思わずニヤリと来るばかりです。
- 向こう側の正体と見えてくるモノ
というわけでララァ関連の重大な事実が次々と明かされたことで、もう1つの謎である「向こう側」の正体も間接的に判明しましたね。前回の感想で予想として書いた通り、向こう側とはあちらのララァが存在する別の宇宙世紀もとい「別のガンダム世界」であることがほぼ確定と見ていいでしょう。シャアとアムロが生き残る世界を模索していたララァがいくつもの世界の自分と繋がって結果、ジークアクスの世界に辿り着いたのかもしれません。
40年以上の歴史を持つガンダムシリーズですが、数あるガンダム作品の中でもパラレルワールドまたはマルチバースの概念を取り入れているのは珍しいので、これには思わず興奮してしまいます。またファーストの世界は『THE ORIGIN』など様々なリメイク作品がありますが、それらの多くがララァの試行の中の世界の1つとも考えられるのが面白いですね。ここにきて宇宙世紀のスケールがより一層深くなったように思えてきます。
そしてこの事実から、前回から考えていたキシリアの目的も何となく見えてきました。何故ゼクノヴァを起こそうとしているのか不思議だったのですが、恐らくは向こう側とから資源や技術を手に入れる算段なのではないでしょうか。キシリアはシャロンの薔薇がこの世界のモノではないこと、ゼクノヴァは薔薇が存在する世界に繋がることを知っているのかもしれません。それ故もう1度ゼクノヴァを発生させて、その世界の未知の技術を得てギレンに対抗する可能性があります。まだ確定ではないものの、個人的にはかなりに有力かも?と睨んでいますね。
あと気になるのはシュウジについて。ここまでの真相の中で彼の正体に関してだけは未だに不明なのが何とも不気味です。向こう側(ファーストの世界)からやってきた平行世界の人物とも予想していますが、それでもまだまだ謎が多いですね。彼はどこからやってきたのか?何故シャロンの薔薇を探しているのか?それらの謎は今後明かされるのでしょうか。
ララァ関連の物語が大きく掘り下げられかなりテンションの上がる内容になっていましたが、肝心のマチュに関してはまだまだ不安が大きかったのも見逃せないポイント。自力で大気圏突入したとばかり思っていましたが、それも謎のメールの差出人の手引きによるものだったので少々肩の力が抜けてしまいました。そのうえシャリアの思惑にまんまと嵌められて、シャロンの薔薇を見つけるための体のいい道具にされていたのが目に付きましたね。アンキーたちから離れてもまた別の大人に利用されっぱなしで、未だに自分自身を見つけられていない……無力な子どもから抜け出せていないマチュへの心配が止まりません。
そんなマチュが描かれていたのもあって、コモリ少尉が魅力的に見えたのが今回のちょっとしたここすきポイント。無謀なことばかりのマチュにお小言を口にしながらも、要所要所で面倒見の良さを発揮しているので見ていて安心させられます。中でもわざわざ私服を渡してあげるくだりのおかげで、彼女が根っからのお節介焼きであることが読み取れますね。エグザベと並んで本作屈指の良識人であり、マチュにとっては貴重な「まともな大人」であるコモリに注目が止まりません。
あとはマチュを地球まで連れて行ったジークアクスも、彼女の保護者としての一面を出していたかのように思えます。海に落ちる際に自力で判断してコアファイターへと分離し、マチュを助けたり海の底に戻ったりと明らかに自我を持ってマチュを導いているようです。やたらジークアクスに詳しいハロについても「ジークアクスがハロを通じてマチュに語り掛けている」可能性がありますね。ここまでくるとメールの差出人こそこのジークアクスという妄想すら出てきますが、その自我はどうやって生まれたのか気になるところです。
さて次回はところ変わってニャアンサイドの物語が展開される模様。地球環境修復用のソーラ・レイという設備が予告で語られていましたが、これこそがサブタイにもなっている「イオマグヌッソ」なのでしょうか。名前の仰々しさもあって、正直ただの平和的なブツではないのが伝わってくるので思わず身構えてしまいます。
さらにその竣工式にキシリアとギレンの2人が揃って出席するとのこと。ジオンの権力争いを繰り広げる2人が相まみえるというだけで嫌な予感しかしません。暗殺なども行われるドロドロの戦いが、本格的に勃発するかもしれませんね。(あとチラッと映った大量のビグザムが非常に気になる……)
ではまた、次の機会に。
*1:ガンダムとは全く関係ないが、似たような事例として『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』の登場キャラクター・エルメェス・コステロがある。(彼女の商品のほぼ全てが「E・コステロ」表記になっている)
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