最果ての淵で歌う精一杯
令和にガメラを復活させてくれたこと、本当にありがとうございました!!
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
2023年にNetflixにて配信され、今年の4月からNHKで新編集版として放送された『GAMERA -Rebirth-(ガメラリバース)』。人気怪獣映画の『ガメラ』最新作にして初のアニメ作品として、個人的に以前から注目していた作品でもあります。アニメでの怪獣バトルに着目し、同時に少年たちの物語も並行して描いていく内容に制作陣の「やりたいこと」がストレートに伝わってきましたね。
先に評価点について語りたいと思います。
まず本作の最大に見どころである怪獣の描写に触れておきたいところ。何と言ってもガメラを筆頭とした怪獣たちが暴れ回り、戦う光景にこれでもかと力を入れていました。監督の瀬下寛之氏が以前手掛けたアニゴジこと『GODZILLA』三部作の反動か、怪獣が縦横無尽に動くことを何よりも重要視していたように感じますね。*1そのうえ人間を直接襲って喰らうガメラ怪獣の特徴をしっかりと踏襲し、一般人の被害も序盤からスプラッタに描いていた点にも好感が持てます。
そんな大怪獣バトルは最大の見どころで、本作のCG技術を全てここにつぎ込んだとばかりの丁寧なモデリングで大迫力の一言。怪獣たちの3DCG造形は非常に自然で、ぬるぬる動いて戦う様子に何度も興奮させられました。また上述と同じようにスプラッタな場面が多く、体中に傷を負ったりなど痛々しい描写が多いのもまた素敵。他作品と比べてもやたらグロテスクで生々しいのですが、それがガメラらしいと言えるので個人的にも大いに肯定していきたいところです。これをほぼ全話(全6話とした場合)に毎回怪獣プロレスを導入してみせた、制作側の執念にも舌を巻くばかりでした。
怪獣たちがそれぞれ強烈なインパクトに満ち溢れていたのも印象的。定番のギャオスだけでなく、ジャイガーをはじめとした昭和ガメラの怪獣たちを現代風にアレンジしてきたのは絶妙でした。怪獣ごとの個性もバリエーション豊かで、海中専門のジグラなど毎回異なる特徴のおかげで怪獣襲撃のシーンは毎回見ていて飽きなかったです。思えば知名度の高いギャオスから始まり、終盤ギロンにバイラスと徐々に唯一無二のデザインに近づけて視聴者を慣れさせていた節がありました。おかげで見終わった後も、各怪獣のことを鮮明に思い出せますね。
そして主役であるガメラの扱いも大きな見どころ。他の怪獣とは異なり人間を襲わず、ボコら子どもたちを守るために戦う「人類の守護者」「子どもたちのヒーロー」としてのガメラ像を見事に遵守していました。毎回上の敵怪獣がすぐに襲い掛かろうとしているタイミングで颯爽と現れるので、ヒーロー性に関しては歴代屈指のガメラに仕上がっていたと思います。(ガメラが出現する際のBGMがとてもヒロイックなのもお気に入りなポイント)そして何度傷付いても立ち上がる献身的な行動もあって、ガメラの頑張りを応援したくなるのが見事。おかげで言葉を発さずともわかる、ガメラのキャラクター性が心に残った次第です。
もう1つの特徴として挙げたいのが少年たちを主軸に据えたストーリー。上でも書きましたが、ガメラが子どもたちの味方として描かれていることもあり子どもを主人公とした人間ドラマを展開していきました。ボコたち小学生が怪獣に襲われ、ガメラに助けられながら大きな陰謀に関わっていく……同時に劇中が夏休みということもあり、「ひと夏の冒険」のテイストの『スタンド・バイ・ミー』よろしくジュブナイルへの力の入れようにも感心しましたね。
小学生である彼らが進学という岐路に立たされている背景を踏まえて、内心秘めた感情の成長に触れていくのが個人的にかなり好みでした。将来への漠然とした不安を抱きながら、未知なる大冒険に胸躍らせる様子は微笑ましいものの危ういのが興味深かったです。夢中になるあまり周りが見えなくなる浅はかさを抱えつつも、一方で過去の諍いなどを引きずらずドンドン前を向いていく子どもの姿勢に感嘆の一言。ケンカしてもすぐに仲直りしようと動いていける、子どもだからこその衝動を抱えたエピソードは大人になった今だからこそ突き刺さるものがあると思います。
子どもを主役にしているだけあって、それぞれの家庭事情についてもさり気なく触れていく過程も見逃せません。面白かったのがジョーの家族の話でほぼセリフだけで説明されているのに、いつの間にか彼のキャラ造形としてすんなりと受け入れられていたことに自分でも驚いています。あくまで各人物がそうなるまでに至った経緯として割り切っているからなのか、具体的な回想などなくても察せられる絶妙な塩梅にあったのかもしれません。子どもだけでなくエミコが評議会に反旗を翻した動機も最小限語られるのみでしたが、それだけでも十分に彼女の内心が読み取れました。
エミコについて触れたので本作の大人たちの話もしたいところ。タザキを筆頭にクセの強いものの、それぞれの責任を果たそうとする大人の存在も印象に残りました。タザキとエミコ以外は終盤まで影が薄いのですが、それでも多くが“為すべきこと”を理解して行動していたと感じています。特に終盤ようやく活躍した科学者や自衛隊たちには、大人としての頼もしさを覚えましたね。他にもボコの母親のように、厳しいだけかと思いきや子どもへの愛情を持ち合わせた親が出てくるのも好印象。エミコ含め一側面では測れない要素を抱え、徐々にイメージを変えていく大人の妙というものを味わった気分です。
ガメラシリーズとして歴代作品のオマージュを多分に用意しているのも素晴らしかったです。昭和ガメラシリーズの怪獣はもちろんのこと、平成3部作を彷彿とさせる設定や『小さき勇者たち〜ガメラ〜』の青春劇など、各作品の“良いとこどり”とも言うべきテイストが詰め込まれていました。特に子どもたちの扱いは上述のように重要で、彼らのアイディアが状況を打開する展開の数々はまさしくガメラらしいスタンスだったと捉えられます。(また主人公たちに外人枠が存在するなど、昭和ガメラを見ていないとわからないようなネタの入れようにニヤリときますね)
ガメラひとつとっても足だけを収納しての飛行形態と回転ジェット飛行の両方を披露し、歴代ガメラの必殺技や特徴を数多く踏襲しています。ファンとしてもこれが見たかった!となる部分をしっかり用意して魅せてくれるので、ガメラの活躍だけも十分に満足感を得られました。総じて制作側がガメラシリーズの本質とは何か?魅力はどこにあるのか?を真剣に考えて、それをアピールするためにリソースを注いでいたのが十二分に伝わってくる内容だったと思います。
さてここからは本作での不満点と問題だと思った点。見たくない方はブラウザバックを推奨します。
先に触れておきたいのが人物のCGの件。怪獣のCGと比べて人間側の3DCGのクオリティに思わず首を傾げた人も多かったことかと思います。どこかカクカクしていて前時代的な絵面なので、昨今の洗練されたCGアニメと比べるとどうしても出来の低さが気になってきます。小道具のCGなど細かい部分にも粗さが残っており、それが原因で視聴するのを躊躇ってしまうという話も聞きました。たったそれだけで敬遠するのはもったいなく思う反面、何となく理解出来てしまうのが辛いところです。
人間たちがその出来栄えのため、怪獣に襲われるシーンもどこか緊迫感が薄くなっているのも気になりました。しっかりと喰われている描写を入れている反面、表情が見えないのもあってマネキンを倒しているように見えてしまう状況もありましたね。(最もそう感じたのは街が舞台になった序盤くらいですが)主要人物はかなり表情豊かで自然と愛着が湧いてくるものの、怪獣のモデルと並ぶとやはり見劣りしてしまうのが残念なポイント。予算がないからこそ怪獣に全振りしている事情が伝わってくるだけに、余計に世知辛いものを覚えてしまいます。
あとは細かい部分でしたが、戦闘機や戦車による戦闘シーンもしょぼいと感じてしまう時がありましたね。人間と比べればCGモデリングは悪くないのですが、怪獣同士の戦いに対して迫力が劣っていたように見えました。そもそも怪獣VS怪獣に対する怪獣VS人間の構図があまり活かされておらず、数えるほどしか登場していないのも気になります。怪獣作品は自衛隊たちの活躍も見どころの1つだと考えているので、そこが微妙に終わってしまったのは何とも歯痒いですね。
他にも本作は6話(12話)という尺に展開を詰め込めるだけ詰め込んでいるので、いくらか説明不足な点も目立っていました。怪獣が造られた背景は終盤明らかになるのですが、ボコが見たヴィジョンを覗けばほぼ口頭の説明だけで終わるのでどうにも味気なかったです。何といいますか、本作の怪獣の設定資料集を聞かされている気分になっていましたね。10万年前の出来事など劇中の人物は体験していないのでそうなるのも当然。しかし代わりにボコが見るヴィジョンを増やして、当時の人物視点で話を進めていく方法もあったのではないか、と思わなくもありません。
また日本政府や在日米軍、自衛隊など如何にもメインを張りそうな組織が終盤まで出番がなかったのも引っ掛かりました。ちょくちょく登場する割に話の本筋に中々関わらないので、彼らは何のために出ているのか?と疑問に思うことは少なくなかったです。終盤になってようやく活躍の機会を得られましたが、長い待機時間の割にはあっさり終わってしまったことが気になりました。上でも書きましたが怪獣映画などでは重要な役回りが多く期待していた人も多いだけに、それらが中途半端に終わってしまった印象になってしまいます。
それ以外にも上述の歴代シリーズのオマージュがかえってネックになってしまったと思われる部分があります。ガメラがボコを守る理由のどこに絆があるのか?など、過去作を見れば違和感なく見られる部分も未視聴の人にはわかり辛かったかもしれません。限られた尺に重要な要素とやりたい要素を詰め込んだ結果、初めてガメラに触れる人には不親切な作りになってしまったようにも捉えられます。予算の問題とガメラの知名度の低さが、本作の足を引っ張ってしまった印象は否めませんね。
あとこれは個人的な感情についての話ですが、終盤ジョーが犠牲になる展開には色々と思うところがあります。というのもショッキングな展開が必要だったのはわかる一方で、まだ幼い彼を死に追いやったことにどうしても嫌悪感が拭えなかったからですね。周りを省みずに好き勝手してきたボコたちが受けたしっぺ返しを描くとしても、正直ここまでする必要があったのか?と考えずにはいられません。
何より怪獣が出てくる作品において子どもが犠牲になること自体に胸糞悪いものを覚えます。古今東西怪獣映画において子どもが直接的な被害に遭うのは滅多に存在しないので、本作での展開は意外性はあるものの生理的に受け入れがたいところがありました。特にガメラという子どもとの関係を重視したシリーズではあればなおさらです。そんな作品の不文律を破ってまでジョーの死はやるべきだったのかどうか、視聴し終わって時間が経った今でも疑問を抱いています。
総評としては「ファン歓喜のツボをおさえた意欲作」といったところでしょうか。人間のCGをはじめとして残念な部分がまず目に飛び込んできますが、実際に見てみると悪くなくむしろ良いと思える要素のてんこ盛りは大変気に入りました。怪獣プロレスと子どもたちの成長物語、そして数々のオマージュと見たいものが全て詰め込まれたガメラ好きのための作品といったイメージが湧いてきます。制作側のやりたいことと視聴者が見たいもの、それぞれが見事合致して本作が生まれた感触です。
制作費などは潤沢ではなかったかもしれませんが、そのうえで何を魅せるか取捨選択してみせた内容もグッド。限られたリソースで工夫を重ねて良い作品を作ろうとする姿勢は、60年前に始まった初代『大怪獣ガメラ』ひいては日本の特撮作品全般に通じるモノがあると思います。そういった意味では、本作はまさに怪獣映画の系譜をしっかり受け継いでいるかもしれませんね。個人的にもそんな制作陣の気概を買いたいと思います。
では以下、各キャラクターについての所感です。
ボコ(和多大輝)
本作の主人公。仲間の中でも背が小さく頼りなさそうな見た目をしていますが、その実繰り出される行動の数々は見事なモノでした。理不尽に怒り立ち向かおうとする正義感、仲間に提案して引っ張っていくリーダーシップは彼が物語の中心にいるのだと印象付けるのには十分だったと思います。筆者の母の感想を借りるのであれば、ボコのような少年が「勇者」と呼ばれる資質を備えているのでしょう。*2
ジョー(松田了)
何だかんだで頼れる兄貴分。少年たちの体力担当であり、苦労人として序盤からお労しさを感じさせてきました。楽観的なメンバーに苦言を呈するなど必要な場面が多かった反面、家庭の事情もあって「大人にならざるを得なかった」のが伝わってきて切なかったですね。極めつけはシャトル脱出の際の自己犠牲で、これにショックを受けずにはいられなかったです。ラストシーンに生存が確認されていましたが、何故生き残っただけでも明かしてほしいところ。
ジュンイチ(市原純)
好奇心旺盛なチームの頭脳。何と言っても中盤で女子だと明かされた時に最大の衝撃を与えてきたキャラでした。しかしそれを踏まえればオカルトオタクの知識や発想を使って打開策を考案するなど、子どもたちきってのアイディアウーマンとして頼もしさに溢れていたと言えます。他にもエミコとも数少ない理解者になりえた人物として、彼女の活躍は特に重要で見逃せなかったですね。
ブロディ(ダグラス・ケン・オズボーン)
昭和ガメラ特有の外人少年枠。最初こそ嫌味ないじめっ子として登場しましたが、仲間に入ってからはそのお調子者感溢れるキャラクターにほっこりしましたね。怪獣にビビる描写やジュンイチへの扱いの変化など、作中で最も表情がコロコロ変わるので見ていて飽きなかったです。それでいて面倒見の良い一面も持っており、最終的にはしっかりボコの仲間の一員になれたと実感を覚えました。
ジェームズ・タザキ
嫌味な大人枠。これまた子どもが嫌いなことを隠そうともしない態度を見せつけていましたが、徐々に情けない印象の方が勝っていったのが面白かったです。閉所恐怖症ですぐ慌てるものの、いざという時は交渉役としての手腕を発揮するので案外頼れる大人の1人でしたね。今となってはボコたちに対する態度も、彼らを子どもだからと舐めずに見ているとも取れるかもしれません。
エミコ・メルキオリ
優しいお姉さん、に見せかけた悪女。ぶっきらぼうなタザキに対して子どもたちへの配慮に満ちた大人かと思っていたので、終盤の本性には度肝を抜かれました。表情や声色もほとんど変化していないのに、残酷な性格を表に出してからはまるで別人のように見えたことにも驚きましたね。それでいてジュンイチへの特別な感情や叔母に対する憎しみなど、人間臭い部分も持ち合わせているので何だかんだ悪役として気に入っています。
というわけでガメラリバースの総評でした。いやぁ本当に久しぶりに、かつ初めてアニメとなったガメラを堪能出来て非常に楽しかったですね。人気の平成シリーズだけでなく、全作品を意識したハイブリッドガメラを作ろうという気概も感じられて最後まで見どころたっぷりでした。何より令和の時代にガメラを蘇らせて、新たなシリーズ展開の兆しになろうとした製作スタッフには感謝しかありません。それだけに続編も作ってほしくなるのですが、ここは無理を言わずじっくり待っていこうと思います。
ではまた、次の機会に。
↓以下、過去の感想一覧です。
