証明してみせよ、
その使命と運命を──
縛られることなかれ、今こそ汝が王道を示す時
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- 言葉と剣戟、2つの勇者の一撃が世界を穿つ
ハイデンの炉の真実を目の当たりにし、全てがどうでもよくなったクレンのシーンから始まったクレバテス最終回。あれだけ大切に扱っていたルナを置いていく姿に前回からショックを受け気が気でなかったのですが、初っ端からアリシアが激怒してくれたおかげでホッとしました。視聴者としても思うところがあったので、それを代弁してくれるかのように物申してくれる瞬間はかなり気持ち良かったですね。何よりここまでクレンとルナを見てきたからこそ、ルナに対する想いを問いかけてくれる彼女に安心感を覚えた次第です。
そしてアリシアに関してはもう1つ、ドレルとの死闘の中でそれでも自身を「勇者」だと言ってのける精神力にも目を見張るものがありました。勇者伝承や真の人属など様々な真実が襲い掛かり、自分たちが勇者の模造品だと突き付けられてもなお揺るがないのは素直に感心させられます。また本作の登場人物の大勢が「与えられた役割に縛られている」ことがわかった今、自分の意志で自分のなりたい勇者を目指すアリシアの志は最大の収穫と言えるでしょう。幼い頃からの夢をひたむきに追い続けるアリシアは、この世界における最大のアンチテーゼに当たるのかもしれません。
戦いの末ドレルとの決着を付けましたが、アリシアの勝ち方がこれまた良かったですね。如何にも不死身の怪物と思えた相手の本体が魔剣にあると睨み、そちらの破壊を試みて成功させる瞬間には膝を打ちました。返り討ちに遭ったと見せかけて実は……と視聴者の意表を突く戦い方も、絶妙に興奮を誘っていたと思います。(トアラの鎚による攻撃も功を為していたのがちょっとしたここすきポイント)意味を失いかけた魔獣王に赤子への感情を思い出させ、混沌とした戦場を終わらせたアリシア。今この場においては、まさしく彼女こそ「勇者」であると実感出来る一幕でした。
- 魔獣王ではなく、己として見る薄紫
そしてアリシアの叱咤を受けたクレン(クレバテス)が、ルナに対する今の意味を見出す流れが今回の大きな見どころ。世界の成り立ちも自分の立場も勇者伝承の再現のためのモノだとわかりやる気をなくしたところで、そもそもの目的であるルナの生き様を見届ける意味を思い出す流れにグッときましたね。これは1話で乳母に言われたこととはいえ、クレバテス自身が考え決めたこと。上述のアリシアと同じように、あの時のクレンの選択もまた運命に縛られない目的であると言えます。
この辺りに関してはやはり、ルナが必死に立ち上がるシーンが印象に残りますね。泣きじゃくるだけだった赤子がとうとう立ってこちらに向かってくる、というだけで込み上げてくるものがあります。子どもの成長への感動もそうですが、無価値と言われかけた人間の底意地を見せられたような気分にも味わえたのがカタルシスに繋がっていました。そんなルナだからこそクレンの心を動かしたのだと、見ていてハッキリ伝わってくる素敵な演出に心打たれましたね。
決着がついた後にルナをトアラの元に行かせるシーンもこれまた感涙もの。クレンがルナを1人前の王として扱い、彼自身の足で歩むことを尊重している描写により、目頭が熱くなってきます。その後ルナの魔術の教師になる──要は彼の裏で国を動かすつもり満々──ことを選ぶクレンのシーンは、諦めてなかったのかと苦笑いしつつもどこか微笑ましく感じました。魔獣王として以前の日々に戻るよりも、ルナやアリシアたちと共に世界を見定めることを選んだことにひとまず安心といったところです。
(ドレルの魔術で囚われた本体を解放するつもりがないのも、魔獣王ではなくクレンとして生きることを選んだからなのでしょう。そう考えるとこれまたほっこりしてきますね)
最終回として他にも色々見どころがありますが、個人的に印象的だったのはやはり戦争終結のシーンでしょうか。ドレルの敗北をきっかけにロッドが戦争の終わりを伝え、各陣営の兵士たちが剣を収めるくだりは妙に見入るものがありました。先ほどまで真剣に殺し合っていた中で、思うところがありながらも即座に戦いをやめられるのも人の面白さの1つと言うべきでしょうか。逃げ出す兵士などどこか生々しい場面がありつつも、この光景に切なさや安堵を覚えた次第です。
(他にも散り際のドレルの複雑な心情が明かされたり、裏で暗躍する魔獣王「ヴォーデイン」の忠告がされたりと敵側の描写がしっかりしているのも気に入っていますね)
そして最終回の感想からそのまま簡単な総評をば。岩原裕二氏原作の世界を支配する魔獣の王とそれを討たんとする勇者の戦い、そんなわかりやすいファンタジー作品が「魔獣王の子育て」という要素で一気に独自のテイストを出していく点にまず惹かれました。その後は山賊や国同士の戦争など、ダークな世界観を魅せつつそこで生きる人間たちの懸命さが印象に残る内容になっていたと見ています。作品内を流れる重苦しい雰囲気もクレンのパワハラに辟易するアリシアといった、コミカルな描写で中和していたので非常に見やすかったですね。
また振り返ってみると物語の要所要所に「決められた役割からの脱却」というテーマ性が見えてくるのが面白かったです。生まれながら山賊に育てられた少女から始まり、この世界そのものが伝承の再現のために配役されている大スケールに繋がる展開に息を飲みました。そのうえで運命など知ったことか、自分の生き方は自分で決める!とばかりに抗うアリシアたちの生きざまに惹かれる構成が、見ていて胸打たれる大事な要素として感じています。1話で出てきたセリフ「子どもは生まれを選べない」に対して、まさしく「生まれた後、どう生きるのかは自分で選べる」ことを一貫して描いていたことわかる作風でした。
あとはアクション・バトルシーン要素なのですが、こちらは監督の田口清隆氏の手腕が光っていたと思います。『ウルトラマンブレーザー』などのニュージェネウルトラマンをはじめとした特撮作品を手掛けていることもあり、魔獣などの巨大生物の描写は圧巻の一言。建物の破壊などは実写でミニチュアを作ってアニメに落とし込んでいるとのこと*1ですし、そこに等身大のアクションも迫力カメラワークで魅せていたのが実に見事でした。特撮畑の技術を余すことなく活かしつつ、作品のテイストを崩さず魅力的に仕上げた田口監督の塩梅にはファンとして感嘆するばかりです。(余談ですがスタッフクレジットを見ると近年のウルトラマンに関わっている人の名前がちょくちょく映っているのが面白かったですね)
というわけでクレバテスの感想でした。あの田口監督が初のアニメ監督に!?という話題だけで原作も知らずに視聴したのですが、思った以上に楽しめましたね。子育て要素をフックにして、重厚な世界観とバトルで魅せる内容がかなり刺さりました。運命に抗うわかりやすいテーマも提示されており、多くの見どころが個人的な好みにハマった印象です。2025年夏アニメの中でも、意外なほど熱くさせてくれるダークホースとしておすすめしたいところです。
そしてクレバテスも何とアニメ2期が決定し、クレンとアリシアたちの物語がまた見られるという朗報が舞い込んできたのも嬉しい限り。*2勇者伝承の謎やルナの教育係など気になる点がまだまだ残されているので、それらをアニメでまた見られるというだけでテンションが上がります。そんな第2期『クレバテスⅡ-魔獣の王と偽りの勇者伝承-』の詳しい放送情報はまだ先ですが、続きを楽しみにしつつ気長に待っていく所存です。
ではまた、次の機会に。
↓以下、過去の感想が書かれた記事一覧です。
*1:ちなみに当ブログでもその撮影方法について触れている。詳しくはリンク先(https://metared19.hatenablog.com/entry/2025/04/18/223000?_gl=1*918vpg*_gcl_au*NTgyMDExMzQuMTc1NDMwOTg0Ng..)を参照。
*2:リンク先(https://x.com/clevatess_anime/status/1968321544372867514)のポストを参照。
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