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『サウナウォーズ』最終話を読み終えて

 

 

 週刊コロコロコミック(コロコロオンライン)にて連載していた漫画『サウナウォーズ』が先日最終回を迎えました。連載開始してから約2年という歳月の中、長いようで短いような、非常に濃密なストーリーで最後まで勢いのみで突き抜けていきましたね。僕自身1話目から何か変な漫画が始まったぞ……!?くらいの感想だったのですが、いつの間にか独特なカオスとシリアスにハマりにハマってしまいました。それだけにこれで終わったことに嬉しさと寂しさを同時に覚えます。

 

 さてサウナウォーズは「ギエピー」の通称で有名な月刊コロコロ版『ポケットモンスター』の漫画を手掛けた穴久保幸作氏初めてのオリジナルストーリー漫画であり、そのぶっ飛んだ内容で1話掲載時から大きな話題を呼んだ作品でもあります。当初は作者本人が出てくるエッセイ漫画かと思いきや、「SSS(世界サウナサークル)」を名乗る集団が起こすデスゲームを止めるアクションバトルに発展してからは終始シュールでトンチキ展開を連続して描く作品と化しました。劇中で当たり前のように描かれる謎の流れを、何度読みながらそうはならんやろとツッコんだか……

(※以下、本作の作者のとしての穴久保幸作は「穴久保氏」、劇中の登場人物としての穴久保幸作は「穴久保先生」と呼称していくのでご了承ください)

 それでいて登場人物は次々と容赦なく死んでいきますし、穴久保先生も度々危険な目に遭うハードな展開もキッチリ魅せていくのが面白いところ。SSSがサウナを舞台に引き起こすデスゲームはいずれもドン引きするほど非道ですし、それを止めようとする穴久保先生たちにも終始ハラハラさせられます。その辺りは長年月刊コロコロコミックでギエピーを描いてきた、穴久保氏の技量と言えるでしょう。とにかく初見は困惑するかもしれませんが、合う人にはとことん合う漫画だと思うので是非ともおすすめしたい所存です。

 

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↑気になる人はまず第1話をチェックだ!ここで作品のノリを理解しよう!

 

 

  • 壮絶な結末から見たモノ

 というわけで最終回の感想ですが、まずSSSを操る黒幕の正体「内閣総理大臣 咲羽鳴(サウナ)大統領」(総理大臣なのか大統領なのかハッキリしろ)の狂った計画に軽く引くこととなりました。SSSが高齢者をターゲットにしていることは序盤から言及されていましたが、「国の財政を回復するために年金受給者を減らす」と明言した時の衝撃は凄まじかったですね。さながらお荷物である老人がいなくなれば国は助かる、というネット上でも見られそうな極端な考えが実際に行われた際の醜悪さを見せつけられているかのようです。

 加えてこの計画は浅はかだったと咲羽鳴大統領自ら認めたうえで、責任を取ってSSS所属の金持ちごと飛行機事故で自殺する話も仰天ものです。自分たちの遺産と保険金で国家予算を賄うつもりとのことですが、この計画もまた浅慮と言わざるを得ません。そのくせ「みなさんを道ずれにするのは、実に心苦しい!!」と迷いなく言い放つ辺りにこの人の狂気を感じます。自分は正しいと信じて疑わない人間の恐ろしさに、本作の登場人物特有の「即断即決即実行」が加わるとここまで厄介な怪物になるということでしょう。

 

 そんな咲羽鳴大統領に慄いた中、穴久保先生が死亡するエンドはそれ以上にショッキングでした。正直作者が自分自身を漫画で殺すわけはないとタカをくくっていたので、このオチは結構予想外です。*1これまで銃弾を避けたり爆発から無事に生き延びたりしていた穴久保先生ですら、死ぬときはこんなにも呆気ないとは思ってもみませんでした。実は何だかんだで生きていた!という描写もなく完結しましたし、死ぬことの無情さにおいて本作は最後まで一貫していたと言えます。でも僕は穴久保先生が飛行機から落ちたくらいで死ぬか!どうせサウナマットをパラシュートにするなりして助かってるはずさ!と思っていますがね。

 しかし落下直前の穴久保先生と谷くんの会話は、中々に感動的なものとしての印象が深いです。自分のような老齢のために、谷くんのような若者を死なせてはいけないと後を引く先生の決意は悲壮的ながら若い世代への希望に溢れていました。他にも部下に撃たれた咲羽鳴大統領を救い「法の裁きを受けてください!!」と鼓舞するなど、命を失わせないとする点に好感を抱きます。上述の咲羽鳴大統領が死ぬという仄暗い手段で目的を果たそうとしていただけに、生きて未来を切り拓く姿勢はその考えに真っ向から対立する肝要な在り方であることが読み取れましたね。

 

 

  • 「後悔せず挑戦し続けろ!」というメッセージ

 サウナウォーズ最終回を読んで、この作品が何なのかについてですが、これはまさしく「穴久保氏による死生観とチャレンジスピリッツが形になったもの」なのでしょう。上にも書いた通りSSSの目的が高齢者を殺そうとしているのに対して、主人公たちはあくまでも生きて立ち向かうことの強さを訴えていることが度々描かれていました。(途中穴久保先生も敵を容赦なく返り討ちにしていましたが、上述のように最後にはこの姿勢に戻ったのがここすきポイント)同時に避けられない死を迎えても、後悔しないように生きる姿勢の強さについても忘れてはいけません。

 最終回の穴久保先生の最期がまさにそれですが、個人的には谷くんの兄貴もかなりその姿勢が強く表れているキャラクターだったと捉えていますね。息子の一輝くんを救うために無茶を続け、その結果死亡する結末はあまりにも切なかったです。しかし一輝くんを無事助け出して死ねたという点では、兄貴は悔いはなかったと思います。生きようとする意志と、やりたいことをやりきって死ぬことを同じように成立させるのは地味ながら重要な本作のテーマなのでしょう。

 転じて何事にも果敢に挑戦することも、忘れてはいけない本作のもう1つのテーマ。劇中のデスゲームを止めるために傷付いた体を押して現場に向かう、穴久保先生を見ればそれは一目瞭然ですね。また3話のSSS構成員との会話、漫画を打ち切られた腹いせでこんなことに参加している若者を説得する場面も印象的です。「失敗から学べ」「こんなことで一生を棒に振るな」という穴久保先生の熱い叱咤激励からは、先生の後輩漫画家に送るストレートなまでの“願い”が込められていることが伝わってきました。

 

 

shueisha.online

 

 余談ですが本作の連載中に書かれた作者・穴久保氏のインタビュー記事(上のリンク先を参照)には、まさに上述のメッセージ性が克明に語られていました。恥ずかしながら本作の完結後に読ませてもらいましたが、身に迫る体験談などに心が震えましたね。もっと早くこの記事を見つけておきたかったものです。(もっと短く終わる予定だったのものの、SNSで話題になったおかげで少しだけ長く続いた話もこの記事で初めて知りました)

 5年前*2には奥さんを亡くし、自分の死も身近になってきたからこそ初めてのストーリー漫画に挑戦するモチベーションは見事なものです。そして「究極のことを言ってしまえば、机の上で死にたいですね(笑)」という言葉通り、最後の最後まで漫画家であり続けようとする姿勢に感心するほかありません。1話冒頭に語られた「じーさんになってもマンガを描き続けられる方法」とはまさにこれであり、サウナウォーズは穴久保幸作氏の情熱が詰まった渾身の作品だということが改めて理解出来ました。そんな氏の熱い志を漫画やインタビューから知ることが出来て感無量の一言です。

 

 

 というわけでサウナウォーズの感想というか、ここまでの想いをまとめました。まぁサウナだからといっても上半身裸でうろつきすぎだろとかサウナマットがあまりにも便利アイテムすぎるとか、そもそも漫画で作者が死んだなら誰がこれを描いているんだよとか笑えるツッコミどころもドンドン湧いてくる作品でしたね。他にも最初は如何にもお年を召した穴久保先生が、1話の終盤の時点からいつの間にか筋骨隆々になって漫画の経験を活かした超人として大活躍するのも腹筋に悪かったです。元がギャグ漫画家とはいえ、どこまでが狙っててどこまでを真面目に描いているのか判断に迷うのも面白さに拍車をかけていましたね。

 その一方で上でも触れたように作者の真面目な考えが伝わってきたのも熱かったです。どんな人にも死は残酷に訪れるシビアな世界観で、必死に生き抜く者たちの在り方を描き切ったのは本当にすごいと思います。まさに本作はシュールギャグに笑ったり、真面目な展開に燃えたりを繰り返して心を整えていく、サウナのような漫画だったのかもしれませんこの文を思いついた時内心ドヤ顔してしまったのは内緒。

 そして最後は穴久保幸作氏に感謝で筆を置きたいと思います。

 熱い作品を読ませていただき、本当にありがとうございました!!

 次回作も楽しみにしています!!

 

 

 ではまた、次の機会に。

*1:しかし後述のリンク先の記事を読む限り、作者・穴久保氏は劇中の穴久保先生が死ぬラストをネームの段階で決めていたことが読み取れる。

*2:※2024年のインタビュー時点