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岸辺露伴は動かない 第4~6話感想

その「境目」に触れることなかれ

相変わらず改変が見事なドラマ化である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2020年に実写化されたドラマ版『岸辺露伴は動かない』。『ジョジョの奇妙な冒険』のスピンオフ漫画を原作としたドラマ化でしたが、原作の雰囲気を残しつつオリジナリティ溢れる作品として好評を博しました。高橋一生さん演じる露伴も魅力的であり、それ故か翌年2021年に追加エピソードが放映されました。僕も去年(先週)リアルタイムで視聴しましたが、新たなエピソードも期待を裏切らない面白さでしたね。今回はそんなドラマ版露伴の感想を、原作との違いなどを中心に触れながらまとめて書いていきたいと思います。

 

 

第4話「ザ・ラン」

 2021年最初の露伴は何と原作屈指のとんでもエピソードでびっくり。筋肉に憑りつかれた「橋本陽馬(はしもと・ようま)」の異常な執念が巻き起こす事件が展開されましたが、そんな彼が如何にして狂っていくかがじっくり描かれていったのがこの回の特徴でした。

 当初はジムで何から手に付けていいのかわからない微笑ましさがあったのですが、自分の好みの鍛え方を覚えていくことでそれに執着していく様子がはっきりと映し出されており、見ているだけで恐怖を覚えていきます。また同時にランニングマシーンを取る一般客や街中の自転車等、陽馬のトレーニングの妨げになる要素も彼の視点で描かれた結果、それを「排除」しようとする陽馬の負の情念が伝わってきたので非常に怖かったですね。あとマンションを丸ごとボルタリング化するシーンは残念ながら実写では見られませんでしたが、一室だけでも十分に狂気に満ち溢れていました。

 そんな陽馬に対し露伴が喜々として勝負を挑んでくるのがまた印象的。原作では危機感を覚えて焦りを見せていましたが、こちらは逃げ出すべき状況で好奇心に負けてしまう様子だったのが興味深いです。陽馬が恐ろしかったのが当然だったのですが、相手の露伴もある意味で狂っていると感じました。(そのため事前に陽馬に書き込んだことで難を逃れたオチも、彼の余裕のある行動として見られます)そしてラストの独白からして、こちらの露伴は全く反省してないと思いましたね。

 

 

第5話「背中の正面」

 5話目はスピンオフ元であるジョジョ第4部のエピソードを元にしたドラマオリジナルエピソード。劇中に登場した「チープ・トリック」は怪奇要素の強い4部の中でも一際妖怪染みていたので、他のエピソードと違和感なく溶け込んでいましたね。

 そんなこの回は何と言っても市川猿之助さんが演じる「乙雅三(きのと・まさぞう)」及び彼に憑りついていた怪異が魅力的でした。決して背中を見せようとしない男の奇妙な動きと体勢で笑わせてもらった後、彼の姿をした怪異が露伴に憑りつく展開には膝を打ちました。「前に憑りついた人間の姿で別の人間に憑りつく」という、スタンドの像を上手いこと改変した設定には舌を巻きます。(露伴の姿で泉ちゃんに憑りつくイメージ映像には笑ってしまいました)何より怪異になってからの市川さんのねっとりとした演技は凄まじく、いちいち後ろから話しかけてくるウザさと背中を見られるかもしれない恐怖をまとめて味わわせられました。

 そしてこの回でもう1つ取り上げるべきは「振り向いてはならない小道」。こちらもジョジょ4部で登場した怪奇スポットですが、今回は怪奇性がより強くなっていて驚きました。普段は何の変哲もない「平坂」という小道ながら、流れる音楽が切り替わっている間は決して振り返ってはいけないというルールが敷かれたことで、Jホラーとしての雰囲気が濃くなっていたと思います。他にも振り返るという要素から「かごめかごめ」やさらにこの世とあの世の境目と化していることから「黄泉比良坂」など、よく知られる伝承を見事につなぎ合わせているため余計恐怖を煽ります。ラストの無数の手(そして貞子染みた長髪の人間の影)に怪異が連れていかれるシーンは、露伴が怪異と倒す爽快感とゾッとする感覚を同時に覚えました。

 

 

第6話「六壁坂」

 ラストは原作でも初期に発表された「六壁坂(むつかべざか)」のエピソード。(タイトルに「六」が入っているからドラマでも「6話」に据えたのではなかろうか?なんて考えたり)原作では妖怪が住む一帯という設定でしたが、本作では何やら「人ならざる怪異」が存在するキースポットとなっていました。上述の2つのエピソードとも密接に関わっており、平坂と同じく「この世とは別の世界を繋ぐ境目」として描かれているのが面白いです。

 この回の実質的な主人公である「大郷楠宝子(おおさと・なおこ)」と「釜房郡平(かまふさ・ぐんぺい)」の過去はかなりサスペンス染みていました。うっかり殺してしまった群平の出血を止めるためにありとあらゆる手段を用いるものの、悪化していく状況に対する楠宝子の焦りがよりわかりやすくなっています。また群平が死んでからは画面がモノクロになる演出も面白かったです。血が見えにくくなっていたのが難点でしたが、楠宝子の視野が狭くなっていることや日常が非日常に切り替わったことがわかりやすく表現出来ていたかと思います。(原作の出血は少々ギャグみたいに多かったのである意味英断でした)

 そのうえでミイラみたいに干からびた群平を水にかけて元に戻す過程、そうして群平に魅了されていく楠宝子の様子は上述のエピソードとはまた違った恐怖を醸し出していました。それ故彼女の娘が勝手に死んで露伴に憑りつこうとしていたシーンの緊迫感がより鮮明になっていたと感じましたね。あとは楠宝子のもう1人の子どもが泉ちゃんに憑りついたかもしれないというオリジナルのシーンですが、「妖怪も憑りつく人間を選別する」というオチには一転して爆笑しました。当初は息子の方は群平との子どもではないなどと予想していたので肩透かし感がありましたが、泉ちゃんらしいどこか間の抜けた話で個人的には結構好きなオチです。

 

 

 各エピソードの感想を書き終えてみて感じたことですが、今回は「触らぬ神に祟りなし」とでも言うべき内容だった、と思いました。3編それぞれが出来ることなら避けるべき事態、決して踏み込んではいけない領域として描かれており、そのタブーを破るとどれだけ恐ろしいことになるかという共通点があるのが興味深いです。そんなタブーにも好奇心故に飛び込んでしまう露伴の危うさ、そして降りかかってきた危機に彼がどう対処するのかが本作の魅力と言えます。

 他にも前作同様、泉ちゃんとの絡みが印象深いです。担当編集として露伴に積極的に絡んできては彼に邪険にされる流れが今回も健在だったのは嬉しかったところ。高慢ちきな露伴を相手にしても決してめげない泉ちゃんの天然さはドラマ版の貴重な癒し要素だと再確認しましたね。

 

 

 というわけでドラマ版岸辺露伴は動かないの感想でした。前作と同じように原作を踏襲した独自性が非常に面白い作品だったと思います。無理に原作を忠実に再現せずとも、実写の強みを活かした絵作りにすれば良いことを改めて実感しました。

 そんな素敵な作品なので今年の年末にもまたやってほしいところなのですが、もしやるとしたらどのエピソードが選出されるのかが気になるところ。個人的なお気に入りエピソードである「密漁海岸」は是非やってほしいと思っているものの(僕だけでなくネット上でもそういった声が多いのが嬉しいです)、密漁という犯罪行為意をNHKで放映出来るのかとかトニオさん役をどうするのかといった立ち塞がる壁も多いので、過度に期待せずに待っていたいと思います。

 

 

 ではまた、次の機会に。