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機動戦士ガンダム 水星の魔女 第9話「あと一歩、キミに踏み出せたなら」感想

遅すぎた青い心

僕の中のセルゲイとアンドレイがシャディクに「最初からそれを言えよ!」と訴えかけてくる……

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  • 天の邪鬼の切ない末路

 シャディクの規約追加によって設立する直前で足止めを喰らってしまった株式会社ガンダム。規約を元に戻すためミオリネたちが決闘を挑むことになったのが今回の始まりですが、やはりというかなんというか…………シャディク側の面倒くさいキャラクターがこれでもかと目立っていましたね。ミオリネを手元に置いておきたいばかりにこういう手段を選んだ割には、彼女との戦いを避けたい本心が見え隠れしていたのがわかりやすかったです。

 それもこれも自分の本心をさらけ出すことに怖がっている本人の気質が問題だったのは明白。ミオリネやグエルといった親しい相手を前にした時ほど素っ気ない態度を取ってしまう……そんな天の邪鬼な性格が災いしてここまでこじれたことが考えられます。シャディクの過去に何があったのかはわかりませんが*1、「ホルダーになって君を守りたい」と言えば済む話をここまで引っ張ってしまった結果、こんな回りくどい手を使わざるを得なかったと思うと少々呆れ返ってしまいますね。

 

 それ故どこまでも自分の本心に正直なスレッタとの違いがひたすらにエグいです。「ミオリネを助けたい」「みんなとたくさんのことに挑戦したい」といった純粋な気持ちをそのまま出力していくスレッタは、シャディクからすればかなり羨ましい存在だったでしょう。ミオリネの花婿になった件も含めて、決闘中に彼女への嫉妬と羨望が入り混じったような心情を吐露するシーンはあまりにも生々しかったです。この辺りのシャディクの描写はどこまでも湿っぽくて、見ていて胃がもたれそうになりましたね。

 そしてその本音を隠してきたツケが後半回ってきたのも印象的。最後に自分でガンダムに引導を渡すつもりが、倒したと思っていた地球寮のメンバーに撃ち抜かれる展開には驚愕と爽快感を覚えました。他人を信用せず前に出てしまった挙句、眼中になかった連中に逆に引導を渡されるというのは何とも皮肉が効いています。(ミオリネのことで視野が狭くなっていたシャディクと、新しいことを初めて見聞を広めていったスレッタたちで対比が出来ている構図も面白いです)そのうえ敗北後はようやくミオリネに自分の言葉を伝えられたものの時すでに遅し、彼女に届かず終わる結末は何とも悲しかったです。言ってくれなきゃ、何も分からないじゃないか!」とはまさにこのことである。

 何もかも自業自得とはいえ、ここまで行くと少々気の毒に思えてきますね。若いうちから大人たちの世界で競い合っていった結果、感情が成熟しないまま自分を見せないようになってしまったのがシャディク・ゼネリという若者だという印象を受けました。ラストシーンでミオリネが刈り取った青いトマトは、そんなシャディクの届かなかった想いを表しているかのようです。あまりにも切ないラストなので、この先のシャディクにも何かしらの救いが欲しいと思ってしまいますね。

 

 

  • 魔女を討ち取らんとする白磁の騎士団

 今回シャディクが搭乗した「ミカエリス」。グラスレー社によって製作されたMS(モビルスーツ)であり、西洋甲冑を身に纏った騎士を思わせる見た目が特徴的な機体です。スラリとしながらも細すぎない、本作のMSの中でもバランスのいいシルエットも目に留まりますね。またプロローグで登場した「ベギルベウ」と酷似した部分が散見されることから、あちらの後継機であることが伺えます。*2

 武装は両腕から展開されるビームサーベルや左腕の小型シールドなど標準的なものもありますが、それ以上に目を引くのがやはり右腕の「ビームブレイサー」。巨大な蕾のような形状の兵装から先述のビームサービルはもちろんのこと、ビーム小銃や大型クローとしても使用可能となっています。さらにワイヤーでビームブレイサーをそのまま射出出来るなど、この複合武器1つで様々な局面に対応することを想定して作られた機体であるようです。(ボディの様々な箇所に用意した武器を使い分けるダリルバルデとは対照的ですね)

 ミカエリスをサポートするかのように戦っていたのが取り巻き5人が搭乗した量産型「ベギルペンデ」。こちらは大型のシールドとビームライフルというスタンダードな装備ですが、このシールドが上述のビームブレイサーのような役割を果たしている模様。中に収納されたビームサーベルを使用する他、シールド先端部でそのまま相手に刺突するユニークな戦い方も見られました。

 そんなミカエリスとベギルペンデ、この両機の共通点にして最大の特徴だったのが「アンチドート」ですね。ベギルベウも使用していた対ガンダム用のシステムで、無線ドローンの操縦を妨害して相手を無力化してしまうのは凶悪の一言。最終的に謎のオーバーライドでアンチドートを無効化したエアリアルたちに敗北したものの、この技術を使うタイミング、何よりシャディクたちの圧倒的なチームワークをこの機体たちは見事に印象付けてくれたと思いました。

 

 

  • その覚醒は祝福か?それとも……

 何かとシャディクの描写ばかりに目が行きがちですが、今回の決闘中にエアリアルが謎の力を発揮した件も忘れてはいけません。ザウォートなどに乗った仲間たちが次々と撃破され、さらにアンチドートで機能不全に陥ってしまった時はかなりハラハラさせられましたが、スレッタと“何者か”の会話と共に再起動する様子にさらなる驚愕を与えられました。先の戦いでルブリスを苦しめたシステムへの対策を取っているだろうとは思っていましたが、動きまでもが別物レベルで進化していたことには目を剥くばかりです。というか覚醒してからの動きはロボットというよりも人間に近いものに変化している気がするんですが……

 そのうえ上述の通りスレッタの会話シーンが最高に怖いです。追い詰められた状態でエアリアルそのものに語り掛けるのはまだいいとして(いやよくはないんですが)、覚醒後もエアリアルに導かれるように戦っていた様子に戦慄しました。「次はこっち?」と友達と一緒に遊ぶかのような口ぶりで相手を次々と撃破していく光景は、はたから見たらホラーでしかありません。これを通信越しで聞いていたミオリネたちが不審に思っていましたが、視聴者してもかなりゾッとさせられました。

 他にもオーバーライド時のパーネットの色合いがかつてエリクトに浮かび上がったそれを思わせるものだった点、その一部始終を見ていたプロスペラが涙を流していたことなど不気味な要素がこれでもかとありました。主人公の覚醒という普通なら胸熱なイベントを、ここまで恐ろしく仕上げた展開には舌を巻くほかありません。この先はエアリアルはどんな秘密を見せていくのか、ちょっと怖くなってきましたね。これは……視聴者に「あと一歩、キミ(スレッタとエアリアルの真実)に踏み出せるか」と試しているんですねわかります。

 

 

 さて次回のサブタイは「巡る思い」。今回とは打って変わって短いサブタイです。短いながらも色々と考えられる題のため、次回がどんな展開になるのか予想しづらくなっています。グエルにエラン、そしてシャディクとメインキャラとの対決が終わった今、次は誰との戦いが繰り広げられるのでしょうか。まぁ予想出来ない分、どうなっていくのか楽しみではありますね。株式会社ガンダムを設立出来て順調なスレッタとミオリネが新たに挑む困難は如何に。

 

 

 ではまた、次の機会に。

*1:孤児院から社の養子にまでのし上がってきた経歴から、「他人を信用せず疑い、相手取ることでここまでのし上がってきた」であろうことが予想される。本音を隠すタチはこうして出来上がっていったのではないだろうか。

*2:ただ名前からして、後述のベギルペンデの方が正式な後継機であると思われる。