新・メタレドの楽しんだもん勝ち!

様々な作品について語ったり語らなかったりするサイト

機動戦士ガンダム 水星の魔女 第14話「彼女たちのネガイ」感想

届かぬネガイに手を伸ばして

フェネクス「私たちの作品をテレビ放映したのは今回のための布石だった……ってコト!?」

クスィー&サイコザク「ワ……ァァ……」

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

  • 戦場が襲い掛かる時、人はどうなるのか

 第2クールに入ってからいきなりフルスロットルをかましてきた今回の水星の魔女。何と言ってもオープンキャンパスの伝統行事「ランブルリング」にフォルドの夜明けの2人が乱入し、全てをひっかきまわしていく後半の展開に目を剥くことになりました。ホルダーを含めた各陣営の様々な機体が自由参加する乱戦として最初こそ9話のようなチームバトルが来るかと思っていたので、それらの期待を全てぶっ壊された気分です。何より1クール目ではまだ学園の外で繰り広げられていた殺し合いが、ついに学園内で行われることになったことへの衝撃は計り知れません。

 まずこの戦いに巻き込まれた学生・運営側それぞれの対応が多種多様で印象的でした。ランブルリングの参加パイロットが殺される瞬間を見てある人は唖然となり、ある人は泣き叫ぶ様子は見ていて何ともゾクッとさせられます。平和な学園生活を送っていた人々がいきなり戦場に放り込まれたようなものなので、こうなるのも仕方ないのでしょう。そんな生死が関わった殺し合いの場でこそ、その人の本質が図れるのかもしれません。

 それを強く感じたのはまずチュチュのシーンですね。プラント襲撃のトラウマがテロリストへの怒りに代わって殺人に乗り出してしまうかと思いきや、負傷したラウダたちを庇った際には思わず感激してしまいました。口では何かとスペーシアンに対する憤りを語りながらも、有事の際にはそのスペーシアンすら躊躇なく助けられるチュチュのヒーロー気質には惚れ惚れしてしまいます。流石はチュチュパイセンだぜ……

 一方で呆れと憤りを覚えたのがシャディク陣営。今回の事件がどさくさに紛れて養父・サリウスの失脚を狙ったシャディクの策略だと読み取れてからは本当に愕然としました。前々から見せていた野心をついに育ての親に向けてきたということでしょうか。彼の目的がどこにあるのかはまだわかりませんが、いずれにせよミオリネという未練を取り払ったシャディクは戦場でどこまでも汚くなっていくのだと感じざるを得ない事件だったと言えます。

 

 

  • 魔女の願いは儚く崩れていく

 そして今回の事件の実行犯であるソフィとノレア。中でもソフィの「欲しいもの」への執着が印象に残りました。ご飯のような切実なものからコミックといったそこまで重要ではないもの、そして「私を愛してくれる家族」と、それら全ての願いから彼女の境遇の悲惨さを察するように仕向けてきています。そのためなら人だって殺すし自分の身だって犠牲にする精神は狂気的ではありますが、裏を返せばそこまでしなければならないほど地球の魔女たちは追い詰められてたのでしょうね。

 しかしソフィはエアリアルの中にいる“彼女(後述)”を見て手を伸ばすものの、最終的にデータストームの情報に呑み込まれる悲惨な最期を迎えることに。ここまで大勢を巻き込んで暴れてきた報いとも取れるのですが、彼女の純朴な願いを聞いた後だとあまりにも報われないと悲しみを抱かずにはいられません。さながら分不相応なことを願った者の末路を見せられているような気がして、本当に気が滅入ってしまいました。(さらにエンドカードで「ソフィが学園生活をエンジョイしている姿」を見せつけられたのでダメージはかなり大きかったです)

 

 ただ個人的にはこのソフィとの願いと手段が、スレッタの「進めば2つ」に通じるものがあるかのように描写されていたのが興味深かったです。ソフィの殺して得るやり方に異議を唱えるものの、自分がミオリネの前で行ったことも同じなのではないか?と自己矛盾に気付いてしまったかのようなシーンはあまりにも残酷に映りました。あの日の殺人に対して疑いを抱けたのは良いことではあるものの、シチュエーションがシチュエーションなのであまり喜べなかったですね。

 加えてソフィがガンダムの呪いによって息絶え、間接的とはいえ再び相手を殺してしまった事実に打ちひしがれるスレッタの姿は見ていて辛かったです。ソフィが言っていた「ガンダムは暴力マシーン」「人が死ぬのが戦争」といった言葉を最後まで否定しきれず、スレッタがこれまで信じてきた理想を打ち砕かれた衝撃がありました。自分が願っていた未来は何だったのか?正しかったのか?とスレッタが考えているかと思うと胸が痛みます。

 最早「進めば2つ」の言葉を口にして気持ちを誤魔化しても、後戻りは出来ないことをスレッタ自身が何より理解しているようにも思えましたね。マルタンの通報によるニカの逮捕などスレッタが守ったはずものが別の形で失われていく光景を目にしつつ、彼女たちの願いが決して叶わない無情さに意気消沈する他ありません。

 

 

  • 命を殺傷する暴力の化身たち

 ランブルリングに乱入する形で登場したルブリス・ウルとルブリス・ソーン。その2体がGUNDフォーマットを利用して操縦したガンビット何と無人MS(モビルスーツ)でした。「ガンヴォルヴァ」という名称のこの機体は見た目こそガンダムそっくりですが、その本質はエアリアルガンビットと同じ遠隔操作型の兵器である模様。通常の機体と同系統の人型兵器を操るコンセプトは、ガンダムX』に登場したビットMS(Gビット)を彷彿とさせますね。(ビットMSは本体の機体の性能に迫るほどのチューンアップされているようですが)

 さてこのガンヴォルヴァ自体の装備はビームサーベルビームライフル(+シールド)という至ってシンプルなもの。しかしウルやソーン同様、設定されている出力は実戦使用になっているため決闘用のMSには苦戦を強いられるものに仕上がっています。たった1発のライフルで決闘上の外壁が大きく破損したことからも、決闘の際の出力とは一線を画すものになっているのは一目瞭然。これまでは人死にの存在しない戦いだった学園の決闘でしたが、この無人機を連れたソフィとノレアによって学生たちは突如「殺し合い」の場に引きずり落されてしまったように感じました。

 その兵器としての威力でエアリアル相手にも途中までは猛威を振るっていましたが、エアリアルが6話のファラクト戦で見せたオーバーライドで空間そのものを掌握・ガンヴォルヴァの操縦権はあっさり奪われていました。出力の差や数の暴力を以てしても乗っ取ることで戦況を覆してしまう、エアリアルの兵器を越えた力の踏み台にされた印象です。まぁ最も恐ろしいのはエアリアルなのかもしれませんが、このガンヴォルヴァもMSが簡単に施設や人を破壊出来る「戦争の道具」であることを知らしめる役割をしっかりと果たしたと思います。

 

 

  • データストームの先にいるモノ

 このようにあまりにも情報量の多い回でしたが、最もとんでもなかったのはエアリアルの正体。プロローグ以降全く詳細が明らかになっていなかったエリィことエリクト・サマヤがエアリアルの中に組み込まれている事実には言葉を失いました。これまでの描写からある程度予想出来ていたものの、やはり衝撃的といえば衝撃的です。経緯は不明ですが、エリィの意識そのものがガンダムのデータストームの中に入り込んでいるということでしょうか。いずれにせよ、人間をMSに組み込む非人道さは本当にエゲツないと感じました。(そして1クール目と2クール目に挟んだ『ハサウェイ』『サンダーボルト』『NT』の放送がある種この展開を視聴者に受け入れさせるためのモノだったのかもと邪推してみたり)

 さらにプロスペラとデリングが共謀していた「クワイエット・ゼロ」の詳細も少しだけ明らかに。GUNDフォーマットを利用した兵器の掌握によって争いのない世界を作り上げること、それを計画したのはミオリネの母・ノートレットだったことなどそれぞれの思惑が何となく読み取れるくらいには色々わかりましたね。具体的な方法はまだ不明ですが、少なくとも全ての兵器を使用不能にするだけでは争いを止められるとはあまり考えられません。本当に人々が争わないようにするには人間そのものを変える必要があると思うので、兵器どころか人間の心を支配するくらいのスケールではないかと睨んでいます。

 しかしプロスペラの目的はその先にある模様。パーメットスコアを6以上に引き上げることで「世界を書き換えたい」「エリィが幸せになるために」といった言葉からはさながら人間そのものの変革を狙っているように思えます。上述のエリィの意識がエアリアルのデータストームの中にいる仮定を真実とするならば、プロスペラは全人類をエリィと同じデータ生命体にしようとしているのではないでしょうか。だとすればプロスペラの母としての狂気に寒気を覚えますね。

 しかしここまでの事実が明かされた中、肝心のスレッタは一体どこから来たのかが全く説明されていない点が気になります。プロスペラが別の相手との間に作った子どもなのか、はたまたクローンなのか……いずれにしても、プロスペラにとっての娘はエリィであり、スレッタはあくまで駒に過ぎない可能性があることに愕然としてしまいますね。

 

 

 さて次回のサブタイトルは「父と子と」。サブタイトルを読み上げていたのがミオリネだったことから、この父と子とはレンブラン親子のことを指しているのが伺えます。これまでまともに話をしてこなかった2人の仲に、いよいよ何かしらの進展がみられるのでしょうか。何はともあれミオリネ自身の出番がガッツリありそうで良かったです。

 …………と素直に喜びたいところですが、そうはいかないのがこの作品の辛いところ。今回の内容が内容もあって次回にも戦々恐々する他ありません。しかもガンダムシリーズの先輩にあたる『Zガンダム』で似たようなサブタイ(あちらは「父と子と…」ですが)あるのが不穏なんですよね。あちらのエピソードは主人公のカミーユが父とわかり合えぬまま……だったので正直こちらも似たようなことになりそうな気がしてなりません。果たしてミオリネとデリングの運命や如何に。

 

 

 ではまた、次の機会に。