みんなの色で、
世界はあざやかになる。
“大好き”の気持ちは、きっと明るい未来を描き出す。
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毎年春ごろに公開される恒例の『ドラえもん』の映画(大長編ドラえもん)を今年も観に行ってきました。春休みということもあって平日でも親子連れの観客が多く、子どもの素直な反応が劇場にヒソヒソと響く中での映画鑑賞になりましたね。こうしたところに微笑ましいものを覚えるので、ドラえもん映画は同じ映画体験をしている子どもたちの反応も楽しみの1つになっています。
さてそうして鑑賞した安心と信頼のドラえもん。しかしここ数年の中でも特に満足感に満ち足りた作品となりました。ドラえもんらしいSF(すこしふしぎ)の世界観を、より緻密な設定と王道ストーリーで彩ってみせたという印象です。評判が良いことは鑑賞前から知っていましたが、なるほどそれも納得といったところですね。というわけで今回はそんな映画ドラえもんの感想を書いていきたいと思います。
※ここから先は作品の内容に触れているのでネタバレ注意!!
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- いつも通りの中に巡らされた“緻密さ”
まずドラえもん映画特有の安定感のあるストーリーについて。のび太がひょんなことからとある絵を手に入れて、それをきっかけにちょっとした冒険に旅立つことになる導入は良い意味でいつも通りでした。物語の流れも幻の国「アートリア公国」にて発生した謎や事件に立ち向かうというお約束をしっかりと踏んでおり、毎年恒例の安心感を今年も同様に味わうことが出来ましたね。このわかりやすさや取っつきやすさはまさにドラえもんの醍醐味と言えるでしょう。
それでいて本作は世界観設定や伏線回収が例年以上にしっかりしていたのが印象的。前者に関してはアートリアが13世紀のヨーロッパ付近の国ということもあり、その時代の世相を細かく表現していました。王様も貴族も基本手づかみで食べたり、絵の塗料に卵の黄身を使用したりと勉強になる描写も多かったです。転じてゲストキャラの1人「パル」の「不思議の国のアリス」発言から彼が未来人であることが判明するなど、その時代だからこその謎解き要素も膝にも膝を打ちました。本作の悪役である「ソドロ」の正体なども、そこから読み解くのが簡単で奥深かったです。*1
そして後者も巧みで、劇中の伏線のほとんどを自然に回収してみせたのが見事の一言。タイムホールの穴から降ってきたとある絵がどういった経緯で2つに割れてやってきたのかを、上述のパルとソドロの戦いでしれっと判明した時は大いに感心しました。他にも明らかな伏線がそこかしこに散りばめられており、それらが何らかの方法で物語で実を結ぶので、これまでの作品以上に今後の展開を予測するのが楽しかったです。(少々露骨に想える描写もありますが、子どもたちに自然と意識してもらうにはそれくらいがちょうど良い塩梅なのでしょう)何より「はいりこみライト」や「水もどしふりかけ」といったように、ひみつ道具が何かしらのカギになるのはドラえもんらしくてニヤリときます。
あとは本作のボスキャラ「イゼール」の圧倒的な絶望感が個人的に好みでしたね。はいりこみライトで絵が実体化しただけの存在故に、絵に描かれていた通りの「世界を闇に沈める怪物」として思う存分暴れていました。仲間を次々と色のない石像にしてしまうのはもちろんのこと、ドラえもんの作戦で湖の水で溶かそうとしても防がれた時の衝撃は計り知れなかったです。巨大な竜の姿でこちらの策を踏みにじっていく様はさながら大怪獣の如し。怪獣好きとしては、その絶望感が中々に気に入りました。
- “大好き”なモノへの想いを肯定する姿勢
もう1つの特徴である「絵」に関する話ですが、こちらもまたドラえもんらしい前向きさが印象に残るものになっていました。絵の宿題が上手に書けずに苦戦しているのび太が「良い絵とは何か?」と悩むところから始まり、絵の面白さを知っていく内容は実に見応えがありましたね。そして「大好きなモノへの気持ち」を込めるという理屈は、子どもに向けたメッセージとしては十分といったところ。ゲストキャラの「マイロ」が「クレア」に対する想いや美しさを絵で表現しようとしていたおかげで、2人の関係からその“大好き”への解釈が読み取りやすくなっていたのも素晴らしかったです。
そんなのび太の大好きが詰まったドラえもんの絵が、上述のイゼール戦で活躍する展開は本当に見事でした。本物のドラえもんが固められて絶体絶命といったところで、のび太の描いたドラえもんが出てきた時の感動と安心感は半端ではなかったです。またその絵のドラえもんは目が顔の白い部分からはみ出てしまっているなど、「子どもが描いたドラえもんの絵」としての理解度が高いのも余計に実在感を高めていましたね。総じて決して本物そっくりではないものの、常に笑顔でどこかホッとさせられる絵柄はのび太のドラえもんが大好きであることをこちらにも意識させてくれる説得力があったと思います。
あとはやはりのび太のパパ(野比のび助)が絵についてのアドバイスをしてくれる存在として目立っていたのも見逃せないポイント。パパが元々画家志望であることは原作漫画やテレビアニメなどでたまに描かれていましたが、まさかそれを拾ってくるとは……!という驚きを味わえましたね。悩むのび太に少々だらけた感じで「上手くなくてもいいさ」とアドバイスしてくれる様は、絵の何たるかを知っている人物としての印象を強めてくれました。何より上述のドラえもんの絵が発掘された際にその絵の価値を誰よりも見抜いているなど、本筋に関わらなかったもののテーマに関わるキーパーソンだったことは間違いないでしょう。
一見子どもっぽい理屈を肯定し、その憧憬をストレートに描く……個人的にドラえもんに求めている要素をキチンと出してくれた点には好感が持てます。子どもたちに向けたメッセージがわかりやすく込められており、大人になっても突き刺さるものがある作品としても大いに評価したいところです。
ということで絵世界物語の感想でした。映画ドラえもん45周年記念作品として制作されたとのことですが、その気合いの入りようも納得のいく名作でしたね。のび太の絵に対する愛着を抱かせたり、クレアとマイロの関係にニヤリときたり、キャラクターへの印象も良いものばかり。ひみつ道具が例年以上に数多く使用される点も魅力的で、ここは『のび太のひみつ道具博物館』を手掛けた寺本幸代氏ならではの手腕を感じます。
他にも冒頭のOPにて世界中の絵画の世界に入り込むパートは、のび太たちがその絵のテイストに入っているのもあって見応え抜群でした。上でも書いた良い絵の在り方も含め、この映画を鑑賞した子どもたちに絵の興味を持ってもらう切り口としても良く出来た作品だったと思います。僕自身、大人になってから基本やったことがなかった絵にちょっと挑戦したくなった次第です。
さて次回作についても気になりますが、こちらはラストの映像を見る限り「海」が舞台になる模様。大海原に出て冒険する映画は『のび太の南海大冒険』を筆頭にいくつかあるので、それらと如何なる差別化を図るのかに注目したいところですね。ともあれ毎年何かしら満足感を与えてくれるドラえもん映画を、また来年楽しみにしていく所存です。
ではまた、次の機会に。
*1:また劇中でソドロが演じていた宮廷道化師がメジャーになったのは14世紀ごろというヒントも密かに隠されている。
