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映画ドラえもん のび太と空の理想郷(ユートピア) 感想

僕らの「らしさ」が世界を救う。

本当に大切なことは、いつだって僕らの中にあるんだ。

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 毎年春休みシーズンに公開されるドラえもん』の映画(大長編ドラえもん)シリーズ。その中でも今年公開された新作を密かに観に行っていました。ドラえもん映画を映画館で観るのは『新恐竜』以来でしたが、あの時と同じようにゆったりと楽しめましたね。お母さんやお父さんに連れられて映画館ではしゃぐ子どもたちの様子も相まって実に微笑ましかったです。そんな親子連れの中に混じる良い年した大人お1人様というシュールさよ……

 さて今回観に行ったドラえもん映画は久々の完全新作ということで期待していましたが、その結果映画が終わるころにはボロボロ泣きながら映画館を後にすることになりました。不穏な要素満載の予告の時点で何かあるな?と公開前から予想させておき、予想通りの展開と少しの予想以上の展開で大いに楽しめる作品に仕上がっていたと思います。公開からだいぶ経ってしまいましたが、今回はそんな新作ドラえもん映画の感想をいきます。

 

※ここから先は映画の内容に触れているのでネタバレ注意!!

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  • 安心と意外性の物語

 今回の映画ですが、まず堅実なストーリーと大冒険が印象に残りましたね。空に浮かんでいるというユートピアを探す、いつものドラえもん映画の定番を行く流れをしっかり踏んでいたことに安心感を覚えました。空飛ぶ島の伝説を探して様々な国・時代を飛んでいく前半の冒険活劇はわかりやすくもあり、同時にドキドキも大きかったです。そこから探していた目的地「パラダピア」に到着してからはミステリー的展開が目立っていましたが、それはそれで新鮮味がありましたね。

 また本作はドラえもん映画にありがちなアクション要素はほとんどなかったのが意外でした。(精々がパラダピアに潜入した「マリンバ」とのバトルがあったくらいです)後述の物語においてもいつものメンバーはのび太ドラえもん以外終盤まで出番がなったのも寂しかったですが、その分ここぞという場面でのジャイアンたちの覚醒シーンにはテンションが上がりました。中でもクライマックスでのみんなで落ちていくパラダピアを止めようとタケコプターで空を飛ぶシーンは、まさに「いつも通りの5人」を見ている安心と興奮に包まれましたね。

 

 他にも本作の丁寧な伏線の貼り方も素晴らしかったです。序盤でのび太が見た謎の青い虫とパラダピアらしき空の建造物が、終盤の展開に繋がった時は本当に驚きました。(青い虫に関しては何か怪しいと最初から睨んでいたため、「へんしんビーム」でドラえもんが虫にされた時は膝を打ちましたね)タイムマシンがあるからこその時間トリックはドラえもんでは定番ですが、ここまで綺麗に繋げてきたのは結構珍しい気がします。子どもでもある程度予想しやすく、いざ判明した時は大人でも感心させられる、ちょうどよい見事な塩梅の伏線だったと思います。

 同時に今回登場したひみつ道具の使い方も興味深いです。冒険に使われた飛行船「タイムツェッペリン」や「インスタント飛行機セット」は終盤の救助に使われましたし、ドラえもんひみつ道具を自由に使えない理由にもなった「四次元ゴミ袋」はパラダピアの残骸回収に役立つという意外な活躍を見せていました。こちらに関しても事前の布石の貼り方が見事で、特にタイムツェッペリンの「居住スペースが広すぎて持てあます」くだりが大人数の救助で回収された際の感嘆はかなりのモノでした。予想通りが多かった安心感と、なるほどそう来るか!と唸らせてくれる意外性の両立が上手い、お手本のようなドラえもん映画でしたね。

 

 

  • 「宝物」はここにある

 そして本作最大の特徴と言えるのが「らしさ」。映画のキャッチコピーでもあるこの要素が、約100分の中に凝縮されていました。理想郷に行けば誰でも幸せになれるというのび太の願望から導入が描かれ、そこから彼らが自分の欠点と才能を見つめ直していく流れは実に素晴らしかったです。

 何といっても舞台であるパラダピアの設定が印象的。誰もが完璧(パーフェクト)になれる理想郷での生活パートは最初こそ素敵な光景のように描かれていたものの、徐々に不穏な気配を漂わせていくことになりました。予告の時点で怪しいと思っていた理想郷の正体が「人の心を操る光」の実験場だと明らかになった時の納得感、そして仲間たちが模範的な子どもたちに洗脳されていく様子への恐怖は計り知れなかったです。いつもと比べると少しだけ優しいジャイアンに違和感を抱きつつ、最終的にスネ夫や静香共々貼りついた笑顔丁寧口調を見せるシーンで日常が侵食されていく感覚を味わうことになりました。

 そんな恐ろしい状況に対し、「これが僕なんだ」「色んな人がいるから世界は面白いんだ」と啖呵を切るドラえもんのび太は実にカッコよかったです。自分や他人の欠点をその人の個性と認め、心と個性を奪う黒幕たちに反抗するシーンカタルシスに満ちていました。上述のジャイアンたちの活躍シーンも、のび太が彼らの欠点・短所と美点・長所を同時に語っていく様子も相まって最高に興奮しましたね。

 そしてラストに「僕らが暮らしているこの世界は素晴らしい」という答えを出すのび太にも感動させられました。ダメな自分を変えたくて理想郷を探した少年が、理想の世界はすぐ目の前の景色にあったことに気付く……物語の着地点として、ここまで美しいものは中々ないと思います。(様々な非日常へと飛び込むドラえもん映画において、戻ってこれる日常が存在することの素晴らしさは何度も描かれているからこその感動もありますね)子どもたちの友情を描きつつ、ありのままの「らしさ」が溢れる人と世界を肯定していくストーリーには大人ほど沁みる内容だったろうと感じました。

 

 また本作のゲストキャラである「ソーニャ」とドラえもんの友情物語も良かったですね。のび太が仲間たちとのいつもの友情を担っていたのに対してドラえもんがゲストキャラと関係を育んでいくのはかなり新鮮でした。礼儀正しいソーニャのキャラがドラえもんたちとの交流で徐々に崩れていき、最終的にタメ口で話せるほどになる流れも美しかったです。

 ソーニャ自身がコンプレックスを抱いたキャラとして描かれていたのも印象的。そのためパーフェクトでないと捨てられるかも知れない恐怖を乗り越えていき、ありのままの自分をみんなに晒してくれるのが何よりも胸に突き刺さりました。おかげで終盤で自分を犠牲にするシーンからメインメモリーが無事だと判明するまでの流れは泣きっぱなしになってしまいましたよえぇ。近年のドラえもん映画ゲストキャラの中でも、ひと際印象に残る良キャラだったと思います。

 

 

 では以下、各キャラクターについての所感です。

 

 

ドラえもん

 ご存じ22世紀のタヌキネコ型ロボット。のび太と共に主人公として活躍しましたが、のび太が終盤まで迷っていたのに対して最初から自分の欠点を受け入れていたのが印象的でした。パラダピアの真実を知ってからはパーフェクトにならなくてもいい、とはっきり口にする意志の強さを見せてくれたのはファンとしても嬉しかったですね。

 そして上述通りソーニャとの友情も素敵でした。のび太の描写に力を入れていたためそこまでじっくり描かれてはいなかったものの、短い時間で彼らなりに仲良くなれていることを実感することが出来ましたね。おかげでソーニャの犠牲に反対するくだりにも大きく共感され、ドラえもんと同じように感情が揺さぶられました。

 

 

野比のび太

 ご存じ主人公である小学生。そもそも本作の冒険がのび太がパーフェクトになりたい一心で始めたこともあって、彼の迷いが徐々に大きくなっていくのが興味深かったです。理想郷だと思われたパラダピアの真実を知っても最初は否定してしまう様子は、のび太の戸惑いと困惑が生々しく溢れている名シーンだったと思います。(探していたものが嘘っぱちだったことが信じられない気持ちも理解出来ますね)

 その分ドラえもんを虫に変えられて、自力で洗脳を解いてからの覚醒は最高でした。普段は情けない一面が多く見られるものの、ここぞという場面では揺るがず頼もしい……子どもの頃から見てきた安心と信頼の「のび太像」が本作でも発揮されていたのが喜ばしかったです。

(また余談ですが、序盤でのび太が四次元ゴミ袋に入れた0点の答案用紙がパラダピアを入れたゴミ袋の爆発後に落ちてくるのが密かなここすきポイント。のび太らしさの象徴でもある0点は、偽りの理想郷でも焼き払えなかったとも取れますよね……

 

 

ソーニャ

 本作のゲストキャラその1。何気にドラえもん映画では珍しいネコ型ロボットの映画ゲストキャラということもあって公開前から注目していたキャラでした。穏やかで物腰丁寧な態度の裏に何かを隠していそうと睨んでいましたが、案の定捨てられた過去から来る恐怖を抱えていたことには胸を締め付けられましたね。三賢人に「また捨てられたいのか」と脅されるシーンは特に可哀想でした。

 そういった背景から来るキャラクターだっただけにのび太側についてからの活躍、そして自分を犠牲にした最期には本当に泣かされました。そして映画ゲストのお約束でそのまま消滅するかと思っていたので、メインメモリーが生きていたオチには衝撃を受けつつも感激しましたね。短い時間ながら、心に大きな感動を与えてくれるキャラに仕上がっていたと思います。(EDでのび太そっくりの子どもたちと暮らしている様子が描かれているのがまた良き)

 

 

マリンバ

 本作のゲストキャラその2。予告編ではパラダピアを襲撃してきた悪者として如何にも怪しく紹介されていましたが、蓋を開けてみればそうではなかった例でした。僕自身公開前からミスリードだと踏んでいたので、ネタバラしのシーンでもあまり驚くことはなかったです。

 ただドラえもんのへんしんビームで終盤までテントウムシの妖精みたいな姿になっていたことにはびっくり。変化前の女スパイっぽさ溢れるビジュアルから一気にマスコット然としたものに変化したので衝撃も大きかったです。その姿故活躍こそ少なかったものの、ちょっとやかましい態度と何だかんだで正義感溢れるキャラもあって好感が持てましたね。

 

 

レイ博士

 本作の黒幕。三賢人の正体や博士の名前が出た時からある程度予想していましたが、想像以上に怪しい博士が出てきたのでギョッとしてしまいました。(『ウルトラマンデッカー最終章』に続いて中尾隆聖さん演じるヴィランが出てきたのも意外)自らのび太のように「誰からも認められなかった」という悲しい過去などを語っていましたが、それを差し引いてもやること為すことがとんでもなかったですね。

 パラダピアをのび太の町に落とす暴挙に出て逃げ出した後はタイム・パトロールに逮捕されたようですが、まぁのび太たちにとってレイ博士の件はそこまで重要なことではなかったのだろうとも思います。それどころか「可哀想な人だったのかも」とフォローを入れられており、極悪人というよりも哀れな犯罪者という側面が強いキャラだったのかもしれません。

 

 

 さて上述通り久々に映画館で観たドラえもん映画でしたが、やはりこうした映画は安心感があって楽しいことを再確認することが出来たのが1番の収穫だったかもしれません。最終的に僕らの世界は素晴らしいと言ってみせたのび太のように、「毎年同じように公開してくれるドラえもん映画は素晴らしい」という答えを得られた気分です。

 他には映画終了後に流れた次回作についての映像も気になるところ。ドラえもんが指揮者としてロボットオーケストラを率いていましたが、来年は音楽関連の映画が公開されるのでしょうか。現時点では内容が全く予想出来ないので、何ともワクワクさせられますね。

 

 

 ではまた、次の機会に。