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劇場版ポケットモンスター ココ 感想

君に伝えたい

これは、とある親子が紡ぐ「絆」の物語

劇場版ポケットモンスター ココ (小学館ジュニア文庫)
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨年の夏からの延期を経てようやく公開されたアニポケ映画最新作『ココ』。昨年12月は風邪をひいたことで観にいけなかったのですが、1月になって落ち着いてからようやく映画館に足を運べました。ネットでの評判の良さ、先に観にいった母からの「今までのポケモン映画で1番面白かった」という言葉から良作だということは何となく察していたものの、果たして自分はこの作品を素直に楽しめるのかとちょっとひねくれた疑心暗鬼に陥っていたのですが、当日映画館でボロ泣きしてしまいました。

 予告映像などである程度内容を想像していたのですが、想像以上にストレートな内容を叩きつけられて自分の涙もろさを改めて実感することになりました。なるほどこれは絶賛されるわけだ・・・・・・と思いつつ映画館を後にしましたね。

 

※ここから先は映画の内容に触れているのでネタバレ注意!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  • 異なる「親子」の物語

 既に映画、あるいは予告編を見た人にとっては言うまでもないことですが、本作は主人公である「ココ」とその父親である「とうちゃんザルード」の「親子」の物語となっています。「人間とポケモンの異種親子」という今までありそうでなかった設定を本作はひっさげてきました。自分が父と同じザルードだと思っていたココがサトシと出会うことで自分が人間であることを知っていくことでとうちゃん共々「親子とは何か?」という問題に直面していく物語が展開されていくのが特徴的です。

 そうして本作で提示された親子の定義とは端的に言えば「命」あるいは「宝物」、劇中でとうちゃんが言っていた「自分よりも守りたい大切な存在」です。血の繋がりの問題があろうと種族の違いがあろうと、大切にしたい他人がいればそれは間違いなく親子もとい「家族」であることがスクリーンで示されました。とてもありふれた、もっと言えば陳腐とも言える答えですが、それを斜に構えることなくストレートに描ききった点こそがこの映画の最大の感動ポイントと言えます。ココととうちゃんがそれぞれ悩み抜き、その上で自分たちが親子であると答えてくれる瞬間は僕自身涙なしでは見られませんでした。

 

 それでいて下手に感動させ過ぎない点も素晴らしいです。親子の問題は最低限視聴者にわかるように控えめにしておき、悩み過ぎずに描いていたのが印象的でした。中でも本作はサトシとピカチュウが人と「ポケモンの理想的な絆の体現者」として登場していたおかげでココたちが前述の答えに至ることにも納得がいくのが良かったですね。本筋はどちらかというと後述の「共存」のテーマに主軸を置いていたおかげで非常に見やすかったです。

 また同時にココがとうちゃんの元を離れるラストには感心しましたね。これまで父に守られてきた子が今回の事件をきっかけに外の世界に興味を抱き、自分に出来ることを見つけて冒険に出るラストはまさに「親離れ」そのもの。とうちゃんも自分だけが使える技をココが使い助けてもらったことで息子はもう自分に守られなくても強くなったと知り「子離れ」していく・・・・・・そんな親離れ・子離れの描写を含めて本作は「親子の物語」だったと言えます。

 

 

 ここまで親子としての物語としての本作の素晴らしさについて触れましたが、その他にもその延長線上にある「共存」の物語も描かれていました。

 本作におけるポケモンはそのほとんどがメイン舞台である「オコヤの森」のジャングルに棲む野生のもの。隣のミリーファタウンにて人と共に暮らすポケモンたちも登場するものの、基本的には森で暮らすポケモンたちが話の主軸になっています。ジャングルのポケモンたちはきのみを食べ、他のポケモンたちと時にケンカをしたり、時に協力したりしながら暮らしています。何よりトレーナーたちによるポケモンバトルなど、ポケモン同士の本格的な対立が全く描かれなかったのが印象的です。*1これまでの作品から見ても“野生生物”としてのポケモンの側面を色濃く強調しています。

 そんな様々な種類のポケモンが暮らすジャングルが2つの脅威に晒されます。1つはザルードの群れ。縄張りの集落を守るだけでなく、他のポケモンたちの住み処にまで踏み込み荒らしてしまう困った存在です。“神木”とそこから湧き上がる“治癒の泉”を守るためとはいえ、掟を遵守するあまり他者を虐げるその様子はジャングル全体から見れば“異分子”そのものでしょう。

 もう1つが本作の悪役「ゼッド博士」。治癒の泉の研究のためココを嵌め、ビオトープ・カンパニーの研究員たちと共にジャングルに踏み込みますが、その過程で木々をなぎ倒し、ポケモンたちの生存圏を奪うという暴挙に出ています。「偉大な研究のため」という大義を抱えながら、そこに住まう者たちのことを一切考慮しない姿は“侵略者”そのもの。他の命すら平気で奪う人間の恐ろしさをこれでもかと発揮した博士は今回の悪役に相応しいと言えます。(またカレンをはじめとした他の研究員たちもゼッド博士ほどではないですが、彼が神木に攻撃するまで協力していた無自覚さにも恐怖しましたね

 

 そんな2つの脅威を解決するのがココととうちゃんザルード。ゼッド博士から神木とジャングルを守るためにこの親子がそれぞれ立ち上がる様子が描かれました。中でもとうちゃんがココと仲のいいポケモンたちに協力を求めるシーンが印象的です。自分と息子以外には興味がなかったとうちゃんが他のポケモンたちに目を向けていくことで助け合うことの大切さを知っていく・・・・・・そして人間たちもその姿に感化され協力していくことで違う生物同士が共に生きていく「共存」を本作は見せてくれました。

 何よりココとサトシがそれぞれ共存を示してくれる存在として描かれていたのが注目ポイントですね。片や人でありポケモンでもあるからこそ両者の架け橋となる道を選んだココと、片やピカチュウというかけがえのない相棒と理想的な関係を築いているサトシはアプローチこそ違えどどちらも異なる生き物同士の共存を形にした“本作の象徴”と言えます。親子の物語であると同時に生き物たちが共に暮らすという2つの「絆」の物語として見事な出来であるこの映画に拍手をおくりたいです。

 

 

 では以下、各キャラクターについての所感です。

 

 

ココ

 本作の主人公。ポケモンに育てられたというポケモン版「ターザン」として描かれている点が魅力的なキャラです。自分が人間であると知ったことでとうちゃんとの関係に苦悩する“等身大の少年”でもあり、サトシという「トモダチ」を得ることで少しずつ前に進んでいく姿が心に残りました。家族を手にかけたゼッド博士を怒りに任せず捕まえるなど精神的な成長を見せ、人とポケモンの架け橋となることを決意するなど最後までこの「親子」と「共存」の物語の中心であり続けました。

 それとは別に主な言語が基本ザルードたちポケモンの言葉で、人間の言葉はほとんど喋ることが出来ないことには驚きましたね。上記のトモダチなど簡単な言葉は覚えるものの最後まで人間の言葉は使えませんでしたが、サトシと共に行動することで“言葉が通じなくてもわかりあえる”ということを示してくれたと言えます。人間の文化に興味深々な可愛らしい姿を見せてくれるなど、ポケモン版ターザンとしての魅力を存分に見せつけてくれて非常に満足出来ましたね。

 

 

とうちゃんザルード

 本作のもう1人の主人公。乱暴かつぶっきらぼうながら息子への愛情はとても強い良き父親。当初成り行きで人間の子どもを育ててみたもののその奔放ぶりに苦戦し一度は捨てようとするなど、ポケモンでありながら「育児に苦労する親」そのものとして描かれており、おかげですんなりとココの“父親”として受け入れて見ることが出来ました。息子と同じように親子の関係で悩みながらも前に進む人間臭さが非常に愛おしいと感じられます。

 他にもココを守るのに精いっぱいで他のポケモンたちに目を向けてこなかったものの、彼らとわかりあうことで息子はまた違う形で「共存」の道を示してくれたのも素晴らしかったです。それが出来たのもココが他のポケモンたちと心を通い合わせていたからであることを踏まえると、息子を育てていただけでなくとうちゃんも息子に育てられたのだと考えられます。父として彼もまた学び、成長したのでしょうね。

 

 

サトシ&ピカチュウ

 ご存じ我らがアニポケ主人公コンビ。本作ではココを街へ連れ出し人とポケモンの絆を教えてくれる他、彼らの暮らす世界を守るために戦ってくれました。ココたち親子を主役として描かれていた分影が薄かったのですが、ココの本当の親を探すための手助けをするなど終始彼を支え、ココに「人とポケモンの共存の理想の形」を見せてくれました。特にココがピンチの時に駆けつけるシーンは実にカッコよかったです。前々作『みんなの物語』でもそうでしたが、この2人は話の主軸に据えるよりも物語の主役を手助けしてあげる“ヒーロー”として活躍させたほうが栄えると思いましたね。

 またココたちと眠るシーンで彼の「パパ」の話が出た時は驚きましたね。これまでアニメでは全くと言っていいほど触れられてこなかったので存在自体を怪しんでいましたが、こうしてキチンとサトシにも父親がいることを教えてくれたのは嬉しい収穫でした。他にも冒頭ではママの電話をうっとおしがっていたサトシがココととうちゃんに触れたことでラストに自分からママに電話する、というラストも良かったです。ココたちがサトシに助けられただけでなく、サトシもまたココに大切なことを教えてもらったと言えます。

 

 

ロケット団

 ご存じ我らがラブリーチャーミーな敵役3人組(+α)。本作ではピカチュウや研究所のデータをゲットするために暗躍していましたが、物語そのものに大きく関わってこないのでサトシたち以上に影が薄かったです。サトシとピカチュウとは違った形で人とポケモンの理想の共存関係を持っていただけにその設定が触れられなかったのは少々もったいないと感じました。

 とはいえゼッド博士の研究データを暴いたりサトシたちを脱出させるなど結果的に彼らの助けになるなど活躍自体はしっかりしていたのは良かったですね。特にゼッド博士の所業をリークして博士逮捕に貢献したシーンには驚かされました。博士の悪事を見逃さなかったのは彼らなりの”悪としてのプライド”あってこそでしょうか。また本作のマスコットであるウッウとのやり取りなどギャグ描写も多く、基本的に湿っぽい本作の数少ない癒し要素となってくれていたので大いに笑わせてもらいました。

 

 

ゼッド博士

 本作の山ちゃん枠兼悪役。明るい未来を夢見る優しい博士に見せかけて、実は目的のためなら手段を問わずに他者を傷つける容赦のない性格が特徴的なキャラです。ココにとっては実の両親である「モリブデン夫妻」を消した憎き仇なのですが、その夫妻を手にかけるシーンがあまりにもリアルで衝撃を受けました。車ごと突き落として事故に見せかけるなどの生々しさ、何よりアニポケでは初となる「殺人犯」として描かれていた点がこの男の狂気を加速させていました。(登場当初は穏やかで理知的だったのにだんだん余裕のなくなり狂気的な声色に変化していくところに声優の偉大さを感じましたね)

 一方であくまで自分の研究を人々のために役立てようとする発言があったのが印象的でした。私利私欲ではなく人類のために行動していたのは立派ですが、そのために犠牲となる自然やポケモンに対して目を向けようとしなかったのが実に人間的です。決して善人ではありませんが、悪人とも言い切れない不思議なバランスがこの博士の魅力だったと言えます。

 

 

ザルード

 本作の幻のポケモン神木の周辺に集落を構え、掟に従い神木を守る者たち。神木と自分たちのみを守ればいいという考えから他のポケモンたちにとって攻撃的である「凶暴な部族」として登場しており、ゼッド博士とは異なる形で「侵略者」として描かれていたのが印象的でした。そこからココととうちゃんザルードの行動に胸打たれて自然の一部になってくれたことに前述の「共存」のテーマが響きます。

 複数個体登場しており「長老」や「サブリーダー」などの個性がそれぞれありましたが、中でも個人的なお気に入りは「リーダー・ザルード」。とうちゃんがココを育てるために群れを離れる決意をした時に心底失望してからは抜き身のナイフのような存在でしたが、とうちゃんと共闘するシーンでは非常に上機嫌になっておりどこか微笑ましかったです。その後とうちゃんが群れに戻ってから声色が優しくなった辺りとうちゃんが好きなツンデレだったんだなぁこいつ・・・・・・とつい顔がにやけてしまいましたね。

 

 

セレビィ

 ザルードに並ぶ本作の幻のポケモンオコヤのジャングルの守り神として劇中で散々説明されており、守り神としての登場が期待されましたがそういった活躍は全く描かれませんでした。ラストにとうちゃんの前に登場するだけで終わるという出番の少なさには視聴時非常に残念に思いましたね。

 しかし「セレビィが出てくると周囲の草木が生い茂る」「セレビィが現れた場所は輝かしい未来が待っている」といった設定を考えると本作のセレビィは「平和な森の象徴」であることが推測出来ます。そう考えればセレビィが現れたことこそがオコヤが平和になった証拠、もっと言えば「物語のゴール」だったと言えますし、ラストに少しだけ出てくることにも納得がいきますね。(余談ですが前述の説明以外にも「セレビィが姿を消した森の奥には「未来から持ってきたタマゴ」がある*2といったゲームの説明を反映しているのは嬉しかったです)

 

 

 というわけで遅くなりましたがアニポケココの感想でした。延期という憂き目に遭いながらも無事公開し、素晴らしい物語を見せてくれたことには感謝と言うほかありません。

 アニポケ映画は2017年の『キミにきめた』以降、テレビシリーズに縛られない独自の方向性を取りましたが、おかげでテレビシリーズとは異なるアプローチで作品の可能性を広げてくれたと言えます。(同時にテレビシリーズも映画のようなスケールのデカい物語を自由に出来るようになった点も素晴らしいです)今後もこれまでのアニポケでは見られなかった「新しい物語」を見せてくれることに期待したいですね。

 

 

 ではまた、次の機会に。

*1:リーファタウンにてポケモンバトルが行われる描写がありましたが、ひとまずここでは除外します。

*2:このタマゴが一体誰なのかは敢えてここでは伏せておきます。