新・メタレドの楽しんだもん勝ち!

様々な作品について語ったり語らなかったりするサイト

Vシネクスト 仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド 感想

夢の続き、見せてやるよ

Open your eyes for the 20th Φ's?

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

 2003年に放送された平成仮面ライダーシリーズ第4作目『仮面ライダー555(ファイズ)』。変身ベルトの争奪戦を軸に、ライダーと怪人それぞれの物語を描く夢とエゴの物語は当時大きな話題を呼びました。変身者が固定されておらず様々な人物がライダーに変身する点や怪人側にもスポットが当たる物語など、後の平成ライダー・令和ライダーそれぞれの物語に大きな影響を与えたシリーズの歴史上かなり重要な作品でもあります。僕自身当時はカニカルなファイズのライダーシステムに魅了されつつ、オルフェノクになってしまった人々の悲劇に目が離せなくなった記憶がありますね。何より前作『龍騎』に続いて、幼い身ながらに正義やヒーローの価値観についてを考えさせられました。

 そんなファイズの新作が20年の時を経て発表された時は驚きました。これまでも『平成VS昭和』や『仮面ライダー4号』などで主人公の巧たちのその後を描いていましたが、テレビシリーズ本編の正統続編はこれが初めて。しかも監督に田崎竜太氏、脚本に井上敏樹氏と当時と変わらない面々が手掛けていることもあって期待も大きかったです。そんなわけで映画館で観に行ったわけですが、結果「僕らがかつて見た仮面ライダーファイズ」を濃密に浴びせられました。ギスギスとした問題や人の心の弱さに触れた描写の数々、そこから立ち上がるヒーローの在り方とスカッとした戦闘シーンである程度の爽快感を与えてくれる……まさに当時のファイズらしさ全開で驚きと共に感動しましたね。困惑させられるものも多かった分、そうそうファイズってこんな作品だったよな!と思わずテンション上がってしまいました。というわけで今回はそんなファイズのVシネの感想を書いていきたいと思います。

 

 

※ここから先は映画の内容に触れているのでネタバレ注意!!

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

  • 目を覚ませ The time to go 強くある為に

 さて本作は最初、本編からどうしてこうなったのかわからない状況に困惑させられるところから始まりました。スマートブレインはオルフェノク狩りを行い、それに対し真理たちは善良なオルフェノクを匿い戦っている構図がまず衝撃的。しかも死んだはずの草加や北崎も特に説明なく登場し、巧はスマートブレイン側になっているという意外性。全体を通して本編や劇場版とは「真逆」の物語がこれまでのファイズにはない感覚を呼び起こしてきました。(オルフェノクに助けてもらった老婆が後でスマートブレインに通報するシーンなどは特にショッキング)これは果たして僕らの知るファイズなのか?と疑問符を浮かべながら見ることになりましたね。

 しかし物語が進むにつれ巧が抱えていた問題やオルフェノクの生き辛さ、それ故に裏切ってしまうこともある彼らの弱さなどに触れていき、徐々に見覚えのある展開が増え見ている側も既視感を覚えることになります。中でも新キャラの玲菜の強烈なキャラクターはファイズという作品の登場人物らしさ全開で、愛する人を手にしたいエゴのために暴走する様にドン引きすると同時に凄まじい懐かしさも奮い起こされました。極めつけは最後の戦闘で巧が新型のネクスファイズではなく、お馴染み旧型のファイズに変身して戦う場面でその時にはもういつもの空気感が戻って来ましたね。主題歌「Justiφ's」がバックに流れる演出も相まって、見終わるころにはファイズを見た時の満足感を味わうことが出来ました。

 あとはやはりアンドロイドという衝撃設定には度肝を抜かれましたね。草加や北崎が生きているのには何か理由があるのだろうとは思っていましたが、どちらもスマートブレイン社製の機械人形というオチは予想だにしていなかったです。というかファイズの世界観的にあり得るものとは思うのですが、人間そっくりのアンドロイド技術が突然明かされたことにはポカーンとするほかありません。この辺りの脈絡のなさは『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』を彷彿とさせるものがあり、ある意味で井上脚本の“味”というものを感じます。総じて井上氏が描く作品の要素が集結し、「当時の仮面ライダーファイズ」をさらに発展させた形でファンサービス込みでお出しされたと言ってもいいのかもしれません。

 

 

  • 護ることと戦うこと Dilemmaは終わらない

 ストーリーに関してはまずファイズのテーマの1つである「夢」の末路について触れていたのが最大の特徴でした。ある日姿をくらました主人公・巧が何故かスマートブレインの手先になっており、海堂ら善良なオルフェノクを倒そうと襲い掛かる展開は予告の時点で大きなショックを与えていましたが、そこに巧の夢の続きが関わっていたのが興味深かったです。残りわずかになった寿命から「世界中の洗濯物を真っ白にする」という夢が叶えられなくなったと絶望する巧の様子に、否が応でも彼の絶望と無気力を感じ取ってしまいます。この巧を通して夢を生きがいにしていた人から夢が奪われるとどうなってしまうのか、そのやるせなさを残酷にも描いていました。

 同時に真理がオルフェノクになってしまう衝撃展開を経て、人間とオルフェノクの共存というもう1つのテーマに触れていた点も見逃せません。オルフェノクの理解者になろうとしていた真理自身がオルフェノクになったことで、彼女の視点でオルフェノクの殺人衝動や力の制御の難しさを見せてくれたのは面白い描写だと思いました。理想を語っていたヒロインがいざ異なる種族の側に立つことでどうしようもない現実を前にくたびれる……これまた過酷ながらしかし大切とも思える展開だったと言えます。オルフェノクがスマートブレインによって狩られている現状と合わさって、彼らが解決しようとしている問題の大きさがより顕著になっていましたね。

 そんな問題の数々に対し、巧が真理に出した答えが「答えはない」「問いかけ続けるしかない」というのがまた興味深いポイント。困難かつ苦しい現実を散々見せながら、それでも前に進んで歩き続けるしかないと語り掛けるようでした。一見すると現状への誤魔化しではありますが、簡単に答えを出さずに諦めることなく生きることを選択させるのはなるほど本作らしいと考えられます。そもそもテレビシリーズでもオルフェノクの問題などが全く解決しないままでしたが、巧たちの前向きな姿もあった悲壮的にならずに済んでいたこともあります。あの時と同じように、巧と真理も解決出来ない問題の答えを考え続けることで生きていくのは当然なのかもしれません。夢や理想に対する人間の脆さに触れながらも、最後には爽やかに終わらせた本作はここで見事ファイズの続編として相成ったのだと感じましたね。

 

 

 本作について他にはPG12作品ということでそういったエログロ描写の数々が見られたのも特徴的。冒頭の解剖シーンから血が飛び出るわと直接的なものは極力避けているものの見ていて気分が悪くなりそうなところもあり、一方で巧と真理が交わるシーンには妙な緊張感が走りました。とはいっても後者は2人がオルフェノクの姿でキスするわ触手だけで絡み合うわと絵面がやたらシュールなのもあって僕たちは今何を見せられているんだ?と呆然となるところもありましたが……

 あとはやはり戦闘シーンが何だかんだでカッコよかったのが注目ポイントです。満を持して登場した新型ファイズ仮面ライダーネクスファイズ」は自力でアクセルフォーム(頭が回るところはちょっと微妙ですが)になって高速戦闘を繰り広げるシーンが見事で、ミューズと合わせて新型ベルトの力を存分に見せつけていました。それでいてラストには旧型のガラケーファイズになって「俺はやっぱりこっち」と呟く巧に大いに頷かされます。本作の前に観た『ガンダムSEED FREEDOM』もそうですが、馴染み深い旧型で戦って勝つ展開はロマンがありますね。

 

 

 では以下、各キャラクターについての所感です。

 

 

乾巧/仮面ライダーファイズ/ウルフオルフェノク

 ご存じファイズの主人公。本作では上述の通りスマートブレイン側の人間になっていたりと衝撃要素が多かったものの、いざ真理と話してからはいつものたっくんのままだ!と感じさせてくれましたね。それどころか夢を叶えられなくなったことへの絶望に加え、死ぬことも許されずに北崎たちの傀儡にされた時の諦めなどがかえって見ている側の胸に痛みを与えてきました。真理に助けを求めて泣き縋るシーンなどは、彼が抱え込んでいた感情の重さが感じ取れましたね。

 かつて本編で木場さんが言っていたように叶えられなかった夢が「呪い」となっていた巧ですが、オルフェノクになってしまった真理を助けようと行動するなどしていつものがむしゃらさを取り戻していったのが良かったです。旧型のファイズで戦う場面や草加が本人でないと知って「やりやすい」と答える瞬間といい、ぶっきらぼうながらお人好しである自分を徐々に掴んでいくのがわかりました。本作は夢の呪いに縛られながらも、大切なもののために立ち上がることが出来る巧の再起の物語だったのかもしれません。

 

 

園田真理/ワイルドキャットオルフェノク

 本作最大のショッキングな要素を与えられたヒロイン。前半巧の行動に嘆く様子が目立っていましたが、玲菜によってオルフェノクにされてしまった時のインパクトは計り知れなかったです。彼女の存在を勝手に聖域だと思っていた身としては、その展開を用意してきたことの意外性に驚くほかありません。その後ショックで自殺を試みて失敗したり、「人間のままが良かった」と本音を吐露する場面は真理にとって必要だと思うものの辛かったです。

 劇中で何かとオルフェノクのために行動していたものの、いざオルフェノクになってしまったらその苦しみに耐えられなくなってしまう……巧とはまた違った弱さを見せつつも、彼と添い遂げることで何とか乗り越えようとする場面も見られて安心しました。目指すものが困難であっても笑って過ごそうとする辺りは流石は真理といったところです。最後には啓太郎の甥の条太郎もオルフェノクになることを誘う冗談を言うなど、彼女なりの踏ん切りがついたこともわかってホッとさせられます。

 

 

草加雅人/仮面ライダーカイザ

 みんな大好き草加雅人はまさかのアンドロイド!という感じで主役2人とはまた別の衝撃を与えてきた存在。真理たちと一緒に行動していることに疑問符を浮かべていた中、終盤サイコガンのような腕を出してきてさらに困惑が止まらなくなりました。しかし中盤まで真理以外にも優しくて正直気持ち悪いと思っていたので、本人ではないことにちょっと安心してしまうこともありましたね。その後は2機目のアンドロイド草加がスマートブレインの社長になったりやりたい放題でしたが、まぁ草加そのものとは別物だと思えば特に問題はないかもしれません……?

 

 

海堂直也/スネークオルフェノク

 ある意味でいつも通りだった人。オルフェノクの若者を保護してラーメン屋を経営していること自体は意外でしたが、それ以外は概ね本編と同じ海堂さんが見られました。保護した若者らへの気遣いやオルフェノクの殺意に呑まれた真理を止めようとする様子なども相変わらずで、貴重な癒し枠となってくれたので結構ありがたかったです。(ネクスファイズ・アクセルフォームの攻撃をラー油で止めるギャグもここすきポイント)長い時を経て人が変わってしまうことを描いている本作においては、変わらないことの良さも魅せてくれる存在だったと思います。

 

 

胡桃玲菜/仮面ライダーミューズ

 本作の新キャラにして井上敏樹作品の女性キャラ要素全開だった人。冒頭人前での変身を恥ずかしがる様子と倒したオルフェノクの灰を踏みつけるシーンのギャップを見せつつ、巧への仄かな恋心を抱く女性として存在感を放っていました。それだけでは飽き足らず邪魔な真理をオルフェノクにしてしまうなど、自分のエゴのために相手を易々と陥れる躊躇のなさは実にファイズの登場人物らしいです。それでいて巧を手にすることが出来ないとわかるや否や彼らを逃がそうとするいじらしさ、そしてアンドロイド北崎に惨殺される最期も相まって最終的には憎めない恋する乙女に仕上がっていたと思います。

 

 

 というわけでファイズのVシネの感想でした。いやぁどんなことになるのかと公開前からザワザワしていたのですが、いざ蓋を開けてみた時のファイズの味は凄まじかったですね。約60分という短い上映時間で巧たちそれぞれが過ごした20年間とその先を体感させ、感情移入を捗らせてくれる手腕は流石井上敏樹です。僕としてもファイズの物語を久々に堪能出来て満足度はかなりのものとなりました。
 また続きを示唆する終わり方でもありましたが、続編を敢えて作らずここで終わらせるのもアリだと思います。それくらいには本作を気に入りましたね。

 

 

 ではまた、次の機会に。