新・メタレドの楽しんだもん勝ち!

様々な作品について語ったり語らなかったりするサイト

Vシネクスト 仮面ライダーセイバー 深罪の三重奏(トリオ) 感想

その過去を愛に変えて

難解ながらも感動させられる、実にセイバーらしい内容だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 去年の8月にテレビシリーズが完結した『仮面ライダーセイバー』。その続編として製作された『深罪の三重奏』が先日、期間限定で公開されました。予告の時点から漂っていたシリアス、かつてないほどの絶体絶命な雰囲気に対して戦々恐々の想いが公開前から僕の中で渦巻いていました。大団円を迎えた本編に何かしらのケチがつくのではないか、という心配も少しありましたね。

 そういった胸中で劇場に足を運んだわけですが、予想よりもスッキリとした内容に驚きました。想像通りシリアスで不穏な内容だったものの、不思議と視聴後は心地よかったです。不明瞭な部分も多く頭に疑問符が浮かぶ点もありましたが、最終的には感動させられる、いつものセイバーらしい作品だったと思います。と言うわけで今回はそんなVシネセイバーの感想を書いていきたいと思います。

 

※ここから先は映画の内容に触れているのでネタバレ注意!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  • 「愛」の想いを受け止める

 さて改めまして、『仮面ライダーセイバー 深罪の三重奏』もとい深愛の四重奏(カルテット)について。

 本作は全体的に「愛」をテーマとしており、内容もテレビ以上にドラマ性が重視されていました。過去の戦いで犠牲になった人たちに焦点を当て、剣士に恨みを抱く者たち相手に、飛羽真、倫太郎、賢人それぞれが「犠牲になった人たちの想いを背負う」「今を生きている彼ら・彼女らを救う」といった答えを出していく内容となっています。主人公たちの答えはベタながら真っ直ぐで、見ていて気持ちがよかったのが素敵でしたね。

 そして劇中では彼らに剣士を消そうとする刺客が襲いかかってきましたが、それぞれが憎悪や責任感とは別に対象への「愛」を抱いていたのが特徴的。最も顕著なのが賢人パートで、婚約者の「立花結菜(たちばな・ゆいな)」との愛憎劇は非常に複雑なものになっていました。本来の婚約者を剣士たちの戦いで失った結菜は復讐のために賢人に近づくものの、彼に対する愛情も大きくなってしまい苦悩する一面があります。「自分よりも長く生きていてほしい」と願うシーンは中々に心にきます。

 他にも倫太郎パートでは父の「篠崎真二郎(しのざき・しんじろう)」との戦いの中で使命感とは別に息子への愛を見せた真二郎が描かれていましたし、飛羽真パートではより複雑な内容が展開されていました。そのどれもが「憎しみであれ愛であれ、相手を深く想っている」のが興味深いです。それぞれの想いを前に迷いながらも、真正面から受け止めていくことで解決していくのが物語のキモだったかと思います。

 この“想い”の物語はテレビシリーズでも見られたセイバーの特徴であり、本作が正統続編と言われる所以ではないかと個人的には考えます。問題や苦悩を1人で抱え込まず、大切な者と共有していく在り方はまさにセイバーという作品の姿勢だったと言えます。テレビシリーズよりも重苦しい一方でテレビシリーズから変わらぬ在り方を貫いてくれたことは、個人的に非常に好ましいですね。

 

 

  • それぞれの「過去」を乗り越えて

 そして本作もう1つの特徴だったのは飛羽真と彼を取り巻くゲストキャラとの物語。「陸(りく)」という言葉を失ってしまった少年、そして飛羽真の幼馴染である「間宮(まみや)」が登場しましたが、この両者が同一のキーパーソンだったことが明かされたシーンには衝撃を受けました。

 何と言っても間宮は上映開始時点からかなり異質でした。テレビシリーズでは語られなかった幼馴染がいきなり登場したのはともかく、剣士たちの事情にも詳しくまるでテレビでも存在していたかのような振る舞いをしており見ていて困惑させられます。陸や結菜それぞれの出会いは回想で丁寧に描かれているだけに、間宮の存在にはとてつもない違和感を覚えました。

 そして今回の事件の黒幕であり飛羽真たちの記憶を改竄していたこと、何より陸と同一人物だったことなど終盤の怒涛の伏線回収もあってかなり混乱しました。陸が間宮、どちらが本質だったのかなど、難解でわかりにくい部分が多かったです。(今にして思えば陸こそが本体で、間宮はそこから分裂したものだったのだろうと考えます)

 

 とはいえ彼らと飛羽真の物語は素晴らしかったですね。上述にも触れた「愛」をテーマにした内容になっており、自分を父親として自分を育ててくれた飛羽真に感謝する陸と間宮には感動させられました。

 そして彼らの物語では「過去を乗り越える」ことが重要になっていたのもポイント。炎と剣士に深いトラウマを抱いていた陸と、それを気遣い変身を躊躇っていた飛羽真の葛藤が前半展開されていましたが、後半のクライマックスに陸がトラウマを乗り越えていく様子が描かれていました。父のために剣を取り、言葉を取り戻す陸の姿には感激を覚えました。子を守るためにセイバーに変身する飛羽真の姿が、陸のトラウマをヒーローに変えていく光景にも唸らされます。同時に間宮が飛羽真への愛情を思い出すのも素敵です。本作開始までの8年間で築いてきた関係が、憎悪という過去を乗り越える内容に仕上がっていました。

 そして復讐を超えて、家族としての愛を築いて陸と間宮が「自立」していくラストは、救えなかった犠牲者の一部を救ってみせたように思えました。戦いの中で零れてしまった人をすくいあげて、1人で立ち上がれるまで見守っていく過程は、テレビシリーズで人々を救えなかった飛羽真たちの過去も乗り越えたのかもしれません。(ラストの「幼少期の飛羽真たちに陸が混ざって遊んでいるシーン」は、救えなかった陸を仲間の輪の中にいれてあげることが出来たことを示しているのだと思います)

 まさに本作は「愛で過去を乗り越える物語」だったのだと、見終わった後に感じました。最後にタイトルが『深愛の四重奏』に変化した意味もそこにあると思いつつ、ある意味でセイバーらしいラストに思いの外スッキリしましたね。

 

 

 他にも上述以外の感想ではやはりアクションについても語りたいところがあります。ドラマ性重視だったため変身してからのアクションは数えるほどしかありませんでしたが、その分限られたパートで力が入っていたと思います。中でもエスパーダと結菜ファルシオンとの戦闘シーンはエフェクトが派手で見応えがありましたね。ついに登場した「アラビアーナナイト」のカッコよさも際立っていました。(ただしライドブックの誕生シーンがあっさりしていたのがちょい残念)

 また飛羽真が満を持してセイバーに変身するシーンも印象的。変身音無しの演出は、炎のエフェクトと合わせて息を飲みました。上述でも触れた陸のトラウマである「炎の剣士」が、彼にとってのヒーローに変わる瞬間も相まって興奮しましたね。

 

 

 というわけでVシネセイバーの感想でした。見る前はどんな暗い話になってしまうのかとビクビクしていましたが、最終的にはハッピーエンドで終わってホッとしました。何だかんだありながらも、登場人物たちの苦労に見合った結末を用意してくれるのがセイバーのいいところですね。セイバーを好きな身としても満足のいく内容で、観に行けて本当に良かったです。

 そしてセイバーの物語はこれで完結。綺麗に終わったものの、セイバーの活躍がこれで見納めだと思うと寂しく思えてきます。今後も飛羽真たちには、過去編といったスピンオフや他ライダー作品へのゲスト出演などで顔を見せてほしいですね。次はいつ彼らと出会えるのかと心待ちにしつつ、今回はここで筆をおきたいと思います。

 

 

 ではまた、次の機会に。