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ゴジラ-1.0(マイナスワン) 感想

生きて、抗え。

これはゴジラがもたらす負(マイナス)の悪夢と、それに立ち向かった人々の物語

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 日本に怪獣という巨大生物の概念を作り出し、今もなお多くの人々の記憶に残る怪獣映画の金字塔『ゴジラ。そんな2024年に誕生70年を迎えようとしているゴジラシリーズの最新作にして70周年記念作品『ゴジラ-1.0(マイナスワン)』が先日ついに公開されました。久々の新作にゴジラファンとしても非常に楽しみにしていた作品であり、いざ映画館に足を運んだ結果、とてつもない衝撃と感激に包まれましたゴジラの恐怖やそれに立ち向かう人々のドラマなど、見たかった要素を全力投球でやってくれたという印象です。山崎貴氏が監督を務めることに公開前から多くの方々が期待と不安をない交ぜにしていましたが、それらが杞憂に終わるほどの面白さで本当に安心させられました。というわけで今回はそんなゴジラマイナスワンの感想を書いていきたいと思います。

 

 

※ここから先は映画の内容に触れているのでネタバレ注意!!

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 まず本作に登場するゴジラの描写について。こちらは冒頭からゴジラサウルスと思われる小型のゴジラがいきなり登場する意外性のほか、同時にゴジラに対する恐怖を引き出してくる演出などにまず唸らされました。人間を虫けらのように踏み潰す・電車に喰らいつく・人に噛みついて投げ飛ばすと直接的な表現で人々が蹂躙されていく様子は見る者に命の危険を感じさせるほど鬼気迫るものだったと言えます。サイズこそ50.1mと初代ゴジラより少し大きいだけの小ささですが、むしろ人の創造しうる巨大さだからこそ恐怖を掻き立てられましたね。何よりここ最近のゴジラは強大な力を持った王者だったり得体の知れない存在として描かれていた分、シンプルかつ掛け値なしの「危険な巨大生物としてのゴジラ」を見られたことへの喜びを覚えます。

 そして本作のゴジラは何と再生能力というとんでもない特性持ち重巡高雄や戦車隊の砲撃を受けて傷付くほどでしたが、即座に体が元通りに戻っていく光景は絶望感を誘いました。どんな攻撃を受けてもビクともしないより、ある程度効いたうえで体を再生していく方が人類側のどうしようもなさを助長していたように思います。(元々もケロイドのような肌だったのが、さらにボロボロになっていくのが痛々しくもあり怖かったですね)代名詞である放射熱線を発射するシークエンスも興味深く、徐々に展開していく背ビレを撃鉄のように押し戻すことで発射すると同時に自らの体が焼け爛れていく姿はこれまた衝撃的。上述の通り生物としての要素も強い一方、通常の生物の枠組みを超えた存在としての異質感・脅威を肌で感じ取ることが出来ました。

 

 そんなゴジラを魅せる演出に関しては、こちらが期待していた通りのものでした。海上での『ジョーズ』が如き追いかけっこも緊迫感がありましたが、最も印象的なのはやはりお馴染み「ゴジラのテーマ」のアレンジ版をバックに満を持して闊歩するゴジラの登場シーン。銀座の街を破壊し、熱線で全てを焼き尽くし、きのこ雲が上がる空に向かって咆哮する……予告などで既に片鱗が見られましたが、ここまでの暴れっぷりには恐怖と同時に清々しさも感じられますね。(名所破壊として国会議事堂をぶっ飛ばしていたのもここすきポイント)これらは多くの人が想像しているであろう、ゴジラのパブリックイメージに最も寄り添っていたかと思います。個人的にも最近ご無沙汰であった、あらゆるものを容赦なくなぎ倒していく原子怪獣・ゴジラを見られて非常に満足度が高かったです。

 またこれはファンとしての余談ですが、2001年に公開された『ゴジラモスラキングギドラ 大怪獣総攻撃』に登場するゴジラを彷彿とさせる要素がいくつか見られたのも本作の面白いところです。白目ゴジラやGMKゴジラと呼ばれているあちらのゴジラのような屈強な肉体や攻撃性は序の口、クライマックスの海神作戦で浮上させられた時はまんま白目になっていてモロだ!と驚かされました。極め付けに内部から破壊され熱線をまき散らしながら崩壊していく最期に、深海に沈んだ肉片が動くどころか再生していくラストにもGMKが思い起こされましたね。初めて観に行ったゴジラ映画であり、僕をゴジラの世界へと引きずり込んだGMKの要素強めな点に思わず舞い上がってしまいましたよえぇ。あとはハム太郎の代わりにすみっコぐらしを同時上映にすれば完璧にGMKだな!

 

 

  • 命を奪うものから“生き残る”ということ

 もう1つ本作を彩る魅力といえば登場人物たちによる人間ドラマゴジラと言えば怪獣ばかりが目に行きがちですが、それらを取り巻く人間たちの話も忘れてはいけません。(元を辿ればそもそも初代ゴジラもヒューマンドラマがメインの作品ですし)主人公の「敷島浩一(しきしま・こういち)」が戦時中にゴジラに襲われ生き残り、戦後も続く悪夢と向き合っていくストーリーには序盤から引き込まれました。いわゆるPTSDを発症していたであろう敷島があまりにも深刻で、「大石典子(おおいし・のりこ)」や「アキコ」と共にそれを乗り越えたかと思ったらまたゴジラに蹂躙される……戦争とゴジラに振り回される彼の様子に、同情の念を抱かずにはいられなかったです。

 それらの敷島に襲い掛かる苦難があったからこそ、周囲の人々の温かさや共にゴジラと戦う強さと共に彼が生き残っていくストーリーに胸打たれました。臆病故に多くの人を亡くしてしまった彼がゴジラに特攻する覚悟を決める流れにハラハラしつつ、最後には生き残って典子と再会するラストは涙が止まらなかったです。敷島は劇中で「僕の戦争はまだ終わってはいない」と言っていたように、戦時中に残した禍根と決着をつけることで解消していく展開は心に残るものがあります。他にも新しい時代に後を任せようとする船長たちや再び死ぬ可能性に怯えながらも戦う元軍人の人々など、戦争が残した負の遺産清算していく光景も素敵でした。登場人物の多くに愛着が湧いてくることもあり、戦争という悲惨な時代の先に「生き残ってしまった人々」が、希望を取り戻していくベタさにスッキリさせられましたね。

 

 また本作は「ネームドがほぼ全員生き残る」という、ゴジラ作品にしては珍しい特徴があったりします。大戸島や銀座の被害など死者の多くはモブで、名前を持った人物のほとんどは生存して終わったことには大いに驚かされました。海神作戦の参加者は宣言通りほぼ全員帰ってきましたし、死んだと思われた典子も上述の通り無事だったオチも結構衝撃的です。(典子の件は都合が良すぎると思わなくもないですが、正直敷島たちへの感情移入の方が強かったのでみんな生き残って良かったねぇ!細かいことはまぁいいかぁ!となりました)

 この展開に関してはキャッチコピーの「生きて、抗え。」もそうですが、戦後という時代だからこそ生き残ることに価値があることを描いた結果なのではないかと思います。学者こと「野田健治(のだ・けんじ)」が「思えばこの国は命を粗末にしすぎでした」のくだりを語っていたように、多くの命が失われていくことの悲惨さは全編を通して訴えられてきました。まず戦争での身近な人の死は、「太田澄子(おおた・すみこ)」など本来は気の優しい人物であろう人々の心すらも荒ませてしまうことがわかります。加えてゴジラ襲来時の多くの被害で、戸惑う人々の恐怖や喪失感なども味わうことが出来ました。このように戦争とゴジラという2つの死をもたらす存在があるからこそ、命を捨てることを良しとせず生きて帰ることの尊さが表現されていたように感じます。

 無論全員生き残ってハッピーエンドというわけではない点も重要です。敷島も典子もゴジラによって被曝していることは確実ですし(典子の首筋のシミのようなものはまさにその被曝の証なのかもしれません)、肝心のゴジラは上述の通り……とその後の安泰がすぐに崩されることが予想出来ます。ただそんな決して平和とはいかない状況に晒され続けるため、彼らの生き残ろうとする意志の強さが示されているのでしょう。ゴジラ放射能への恐怖は未だに消えずとも、敷島たちが懸命に生き残ろうとする姿を魅せるからこその「生きて、抗え。」なのだと、つくづく思う物語でした。

 

 

 ここまで書きましたが、こうして振り返ってみると本作は1954年に公開された初代『ゴジラ』へのリスペクトが非常に強い作品であることがわかります。戦後という時代設定やゴジラの暴れっぷりやそこから感じられる恐怖はもちろんのこと、何といっても戦争に対するアンチテーゼが多かったのが最大の注目ポイントだと思いますね。

 上述でも触れたように命を簡単に奪い去る戦争と、同じように被害をもたらすゴジラ。これらの大きな壁を生き残るという答えで打倒する展開は、まさに初代と同じ戦争の否定に繋がっているように考えられます。「初代ゴジラ反戦映画である」と考えている身としては、同じように抗う人間を描いた本作は初代を踏襲していると言ってもいいかもしれません。そして本作マイナスワンは令和の時代に作られた新たな初代ゴジラとして申し分ない作品である、と大きく主張したいです。

 

 

 というわけでゴジラマイナスワンの感想でした。いやぁ本当に素晴らしいゴジラ映画でしたね。ゴジラが迫りくるシーンの迫力には終始圧倒され、敷島たちの人間模様には何度も心を揺さぶられました。(ゴジラはやはり大スクリーンで観てこそだよなぁ、とも改めて思いました)捻りというものが少ない分実にストレートな要素を煮詰めたような作品であり、王道の良さをこれでもかと追及したからこその良さがあったとつくづく思います。2016年の『シン・ゴジラ』とはあらゆる点で対照的なのも特徴で、むしろよくここまでわかりやすい“ゴジラ像”を復権させてくれたと嬉しくなってきますね。今現在ゴジラファンに限らず多くの人々が本作を観に行っているようですし、この調子で本作がますます勢いづいてくれることを願うばかりです。

 そしてゴジラがここまで人気だと次なるゴジラについても楽しみになってきますね。本作の続編は難しそうですが、山崎監督には今度は『モスラ』とか他の怪獣映画を撮ってほしいかもとはつい考えてしまいます。他にも怪獣プロレスを大いに押し出した新作なども見たいですし、はたまた『ちびゴジラ』のアニメ2期とかもアリかもしれません。11月3日のゴジラの日に開催された「ゴジラフェス」での新作映像など、2023年に様々な新作が作られたゴジラシリーズ。それらが今年に留まらず来年・再来年も展開し続けていくことに期待したいです。

 

 

 ではまた、次の機会に。