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2023年アニメ映画簡易感想 その1

 

 

 2023年がもう少しで終わる中、まだやり残していたことはないかと色々準備している今日この頃。不肖メタレドは今年の作品に関する記事がいくつか手つかずのまま残っており、今現在それらを書き切るのに必死の日々を送っています。特に今年はアニメ映画を多く観に行きながら、そのほとんどの感想を放置していたので今更ながら公開している真っ最中です。

 そのため今回は今年観に行ったアニメ映画の感想消化の1つをやっていきたいと思います。例によって公開が終了して半年以上経過している作品ばかりですが、お付き合いいただければ幸いです。

※ここから先は映画の内容に触れているのでネタバレ注意!!

 

 

 

 というわけで以下、今回の映画感想です。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 


プリンセス・プリンシパル Crown Handler 第3章

 まずは美少女×スパイアクション×スチームパンクのを目玉としたシリーズプリンセス・プリンシパル』の劇場版第3弾の感想について。前章がアンジェたちスパイのアクションメインになっていたのに対し、今回はアルビオン王国王族たちの心理描写が大きな見どころとなっていました。本性を現したリチャードに対し、プリンセスの葛藤と迷いが全体を通して描かれていたと思います。様々な要因から彼女が追い詰められていき、その結果予想していなかったラストに繋がったのはあまりにも衝撃的でした。

 何といってもリチャードの大望を抱いたキャラクターが魅力的。2章での時こそその邪悪そうな笑みにゾッとさせられましたが、プリンセスに対して世界の差別や貧困に目を向けた話をしてきた時はそのイメージが一気に覆りました。形は違えど、プリンセスと同じように王国の歪みに目を向ける点が面白く描かれていましたね。プリンセスの度量を認めているうえ、世界規模で世の中の変革を考えるなど、突飛ながら視野の広さにはある種驚かされるところがあります。

 ただ目的達成のためなら手段を選ばないこと、そしてそれらを「ゲーム」と称して楽しんでいる点からプリンセスとは相容れないことがわかるのも興味深いです。実際幼いエミリーすらも謀殺を計り、プリンセスの心を揺さぶってくるシーンにはゾッとさせられました。最後はノルマンディー公によって捕縛されるあっけなさだったものの、度し難い敵キャラとしてのインパクトは十分でしたね。

 そして今回のメインであるプリンセスの動揺と選択はかなり身に迫るものがありました。上述のリチャードとのやり取りはもちろんのこと、エミリーの過酷な境遇などを目の前にして彼女が亡命を選択した時の衝撃は計り知れなかったです。結果的には失敗してアンジェたちが捕まる大惨事になってしまったものの、彼女の視点から物語を見ているとどうにも責める気にはなれなかったです。それどころかエミリーが心身とも疲弊していく様子が見ていて辛かったのもあって、途中までプリンセスの選択にも肯定してあげたくなりましたね。とはいえ次期女王の座を狙う野心に対し、優しさ故に覚悟が伴っていなかった少女の選択ミスは避けられない事実としてのしかかってきました。

 あとはやはりノルマンディー公にスパイ関連の秘密がバレてしまったのも見逃せないポイント。そのうえ要所要所でリチャードとの牽制を繰り広げていた中、アンジェたちの奮闘の裏で全てを片付けていたことには度肝を抜かれました。以前から油断ならない敵キャラがとうとう牙を剥いてきた……それを実際目の当たりにした時の絶望感に打ちのめされた気分です。ノルマンディー公が本気を出した時の恐ろしさが身に染みたと同時に、彼に二重スパイを強いられることになったアンジェたちの物語がどうなっていくのか、それらのハラハラ感を残して映画館を去っていくことになりました。第4章の情報は未だに明らかになっていませんが、ここまで来た以上見逃せませんね。

 

 

青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない

 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』などでお馴染みの『青春ブタ野郎』シリーズの劇場版の1作。本作では主人公の妹である花楓にスポットが当たり、テレビシリーズでも残されてた問題に決着をつけてくれる重要なストーリーになっていました。僕自身アニメでの“花楓”と“かえで”に関しては思うところがあったので、個人的にもかなりのお気に入りエピソードになりましたね。

 まず本作は思春期症候群がほとんど話に絡んでこなかったのが特徴的。このシリーズの目玉と言える超常現象要素があまり出てこないと確信した時は最初驚かされました。(一応花楓の体に浮かび上がる傷など最低限の症候群の描写はありましたが)しかしその異質さのおかげで、登場人物の感情の機微がより鮮明になっていたのもあり、物語に集中出来たように感じます。元々少女たちの心理描写が醍醐味の作品でもある中、本作は特にそれが強く描かれていたとも言えますね。

 そして上述にもある通り花楓をメインに据えた物語ですが、彼女の進学を通してトラウマやもう1人の自分の関するものに対する付き合い方を得ていく過程が印象深かったです。中学時代のいじめから不登校までを経験した花楓の道のりは困難を極め、鑑賞しているこちら側にも胸が痛むシーンが数多く挿入されていました。兄と同じ峰ヶ原高校に通うという目標も無理しているのが明らかだったので、願書提出や試験当日の様子などはハラハラしっぱなしでしたね。それだけにテレビシリーズではほとんど出番がなかった花楓のキャラクターを掴み、彼女への感情移入がすんなり出来たとも言えます。

 何より花楓のかえでに対する想いも見逃せません。上述の花楓が無理をしていた理由がかえでが残した“願い”から来ていると知り、花楓なりにもう1人の自分の意思を組んでやっていたとわかった時はほろりときてしまいました。同時に咲太がかえでがいなくなったうえで花楓のこともしっかり尊重してくれていたので、2人それぞれへの心情がバランスよく描かれていたと思います。テレビシリーズの終盤、花楓の人格が戻ってきたことでかえでが消えてしまった時にショックを受けた身としては、今は無きかえでに対しても大きく取り扱ってくれたのが嬉しかったですね。本作は視聴者が劇中の人物と共に、かえでの件を受け入れたうえで前に進むための過程をじっくり体験させてくれる趣きがありました。

 他には新キャラである「広川卯月(ひろかわ・うづき)」にも注目したいところ。良くも悪くも明るくマイペースすぎて周囲を引っ掻き回す性格ながら、自分に合った進路を家族と相談して見据えていく様子には結構感心させられました。普通の学校では馴染めなかったからこそ通信制という道を選んだ話にも、上述の性格も相まってそこそこ重めのドラマがあったことが伝わってきます。そんな卯月だからこそ花楓の道を広げていったわけですし、「自分自身との付き合い方は1つじゃない」というメッセージを残してくれたかと思います。進路指導の描写のカッチリとした空気もあって、思春期の子どもにこそ刺さるものがあったのではないでしょうか。

 

 

しん次元! クレヨンしんちゃん THE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜

 最後は今年公開されたクレしん映画の感想をば。本作はまさかのフル3DCGアニメーションとなっており、中々のハイクオリティCGでクレヨンしんちゃんの映画が繰り広げられたのが衝撃的でした。他にも例年の春ではなく夏に公開と、全体を通していつものクレしん映画とは別物であるということが大きく印象付けられましたね。*1

 まずCGの質感には大きく唸らされました。予告の時点から感じていましたがアニメや漫画のしんのすけを思わせる柔らかさがそのまま出ており、かつアニメ調のままでCGによる立体化を果たしている点が魅力的。CGの製作期間に7年をかけていたというのも納得のクオリティです。昨今の日本のCGアニメは手描きアニメの質感を残しているのが大きな特徴となっていますが、本作はその要素もありつつ3DCGらしい面もしっかりと出していることに驚かされます。当然それを駆使した戦闘シーンも見事で、終盤の巨大カンタムロボによるバトルシーンは迫力満点でした。クレしんの滑らかな動きというものを、しっかりCGに昇華していたことには感服するほかありません。

 ストーリーは本筋のある部分を除けば「いつものクレヨンしんちゃん」といった感じ。基本はギャグで話を進めながら、ゲストキャラにまつわる問題をシリアスに絡めつつ解決していくストーリーには笑いつつ見入ることになりました。まずギャグに関してはちょっと古めのネタが多かったのが印象に残りましたね。しんのすけが習得した超能力を高める音として深キョンこと深田恭子の曲が流されたりと、現代の子どもが置いてけぼりをくらいそうな空気はまさにクレしんらしかったです。それでいてケツだけ星人ひろしの靴下などシリーズのお約束もしっかり回収されていたので、子どもたちに向けたギャグのバランスは良かったと思います。(実際映画館で見た時は周囲の子どもの笑い声が度々聞こえてきましたね

 そしてゲストキャラの「非理谷充(ひりや・みつる)」の鬱屈としたストーリーも特徴的。家庭の不和やいじめなどの問題に晒され孤独に陥っていた青年をしんのすけが救う、と書くといつものクレしんなのですが、本作はかなりリアルに描かれていました。極めつけともいえる充の精神世界のいじめのシーンでは、助けに入ったしんのすけまでもがそこそこの暴力を受けるので見ていてショックが大きかったです。倒し方こそコミカルでしたが、普段のクレしんの文脈があまり通じない“厳しい現実”が敵として立ちはだかっていたように感じます。

 とはいえそんな現実的な困難に打ちのめされていた充がいたからこそ、そこに手を差し伸べるしんのすけが輝いていたのもありますね。劇中でも語られていましたが、充には現実の理屈を超えてくるしんのすけが仲間になってくれたからこそ救われたのでしょう。どうしようもない問題に負けそうになる時、それを助けてくれるヒーローのような存在として「作品としてのクレヨンしんちゃん」が助けに来てくれる構図が繰り広げられていました。本作は映像がCGになったことだけでなく、ストーリーに関しても若干のリアル志向でクレしんをやってみたのかもしれません。

 その試み自体は非常に面白かったのですが、一方で日本の未来に関する発言など引っ掛かる点があったのも事実。特に劇中で何度も「この国に未来はない」といったことが語られながら、「未来は暗くてもみんな頑張って生きていくんだ」とも言うべき答えで締めたことには首をかしげてしまいました。クレしんの醍醐味である素っ頓狂ながらも明るく楽しく暗い問題を跳ね除ける展開を期待していた身としては、正直モヤモヤすることが多かったです。本作は様々な形でリアルに寄せていましたが、未来はないといった具体的な言葉で表す必要までは無かったとも感じます。クレヨンしんちゃんに必要な「問題を劇中で抽象化する」という面では、微妙でもあったと思わざるを得なかったです。

 

 

 さて今回書いた感想の内の1つ、青春ブタ野郎シリーズの映画最新作は皆さん観に行かれたでしょうか。僕自身この感想を執筆している時点で既に鑑賞しましたが、おでかけシスターを続けて主人公の家族の問題に大きく踏み込んだ内容だったのでこれまた見入ることになりました。特に咲太が目をそらしていた問題と向き合う決意を固めてからは涙がボロボロ出っぱなしでしたね。今回感想を書いた前作と同じくらい感動したので、そちらの感想も後々書いていきたいと思います。

 

 

 ではまた、次の機会に。

 

*1:公開延期の結果だが、2021年の『クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』も一応夏公開の映画である。