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SAND LAND: THE SERIES 感想

必ず届けるから信じていて

“鳥山明”を体感せよ────

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 『Dr.スランプ アラレちゃん』や『DRAGON BALL(ドラゴンボール)』などで知られる故・鳥山明氏が2000年ごろに短期集中連載で執筆した作品『SAND LAND(サンドランド)』。昨年夏にまさかのアニメ映画化し、先日ゲームまで発売するほどの展開を始めてきました。しかし映画の方を観に行った身としては実際非常に面白い作品でしたし、ここまで推されるのも結構納得がいきます。鳥山作品特有の、異質ながらわかりやすい世界観と作風が3DCGの世界にピタリとハマる感覚は本当に見事の一言でした。

 

metared19.hatenablog.com

↑映画の感想については上の記事を参照。

 

 そんなディズニープラスにて『SAND LAND: THE SERIES(サンドランド ザ・シリーズ)』のタイトルで連続アニメ化配信されること、そのうえ映画の続きである完全新作エピソードが作られることも報じられました。これに関しては綺麗に終わった作品にわざわざ続編をやるのはどうなのか?と最初は思いましたが、いざ見てみたところ、またもや盛り上がってしまいましたよえぇ。前章から順当にスケールアップした世界観とストーリーで描くファンタジー冒険活劇に、シンプルな面白さを見た次第です。というわけで今回はそんなサンドランドの感想を書いていきたいと思います。(映画に未公開・新規カットを加えた「悪魔の王子編」については上の映画感想もあるので割愛して、完全新規の「天使の勇者編」をフィーチャーして書いていきます

 

※ここから先は作品の内容に触れているのでネタバレ注意!!

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  • お約束と馴染む新要素

 本作の新章・天使の勇者編は上述の通り、前章から物語のスケールが大幅にアップした内容となっていました。物語の舞台もサンドランドの隣国「フォレストランド」にまで広がり、魔族の存亡や世界の危機もあったりとかつてないほどの危機感を誘う敵側の謀略に立ち向かう様子が大きな特徴となっています。

 個人的にまず感じたことは、ミリタリー色の強かった前作から打って変わってSF作品としてのイメージが出来てきたこと。敵が起動させようとする古代兵器「ガラム」はこれまでの作中兵器と比べても空飛ぶ円盤のような印象があり、本作としてはかなり異質だと思いましたね。それらを止めるくだりでも謎ロボットなどの技術が惜しみなく投入されているのが読み取れますし、かつて造られた兵器ながら近未来感溢れるものとなっていました。とはいえ違和感があるわけではなく、劇中の戦車たちとは武骨さが共通しているので場違いな雰囲気になることなく受け入れることが出来ましたね。

 また新キャラたちとベルゼブブたちの絡みも印象的。何といっても新ヒロインのアンはベルゼら男衆と無理なく馴染んでおり、視聴を続けている内に「この章の主役」としての存在感を出していったのでこれまた自然と彼女の魅力を見ることが出来ました。オッサンばかりで女っ気のない本作にこんな女子を投入すると聞いた時は首を傾げましたが、ベルゼと言い争いをしながらも意気投合していく様子は見てて微笑ましかったです。(ラオとシーフは良くも悪くも大人のポジションなので、主人公と同じ目線のキャラがもう1人いるのはむしろバランスが良いのかもしれません

 といったように新要素を多く取り入れながらストーリーとしてはサンドランドのイメージそのもので、期待していたものを期待通りに見られた次第です。またラスボスをブチギレたベルゼが殴り飛ばすシーンもお約束の如く用意されており、何だかんだ終盤まで見続けてしまう勢いと面白さがあったと感じています。

 

 

  • 意外なキャラと設定回収

 あと取り上げたいものとしては前章の要素を上手いこと回収している点があります。これまでは短い出番のキャラや単なるフレーバー的な設定を、物語の幅を広げる存在として生かしていたのが目に留まりました。

 まずキャラに関しては大将軍になったアレなどの出番もしっかり存在しており、さらには序盤に登場したゲジ竜が意外な方法で助けになる展開に度肝を抜かれました。中でも個人的に嬉しかったのがスイマーズで、フォレストランドのレジスタンスとの繋がりを明かす場面から決戦時の活躍まで幅広く目立っていましたね。映画の時点で彼らのキャラが気に入っていたので、本作で全員見せ場を用意してもらったのは喜ばしい話です。(他にもアンに感謝されて赤面するシャークがここすきポイント)

 続いて数々の設定の回収。これについてはやはりピッチ人の存在が大きく、上述のガラムをかつてのピッチ人が作った話には衝撃を受けました。さらにアクアニウムが劇中のキーアイテムとして描かれているほか、最終回のピンチを脱する時もベルゼがピッチ人から貰った玩具が役に立つという展開。前章で驚異的な科学力を誇ると説明を受けていたピッチ人ですが、今回登場した発明品の強大さのおかげで大いに納得させられます。(ゼウがラオ共々ピッチ人を消そうとした理由をここにきて理解するとは……)本作のSF色を一気に押し進めた立役者として、ピッチ人はかなり存在感があったと言えます。

 とここまで書きましたが、何よりサンドランドのテーマの1つである「水」を取り上げていたことには好印象を受けましたね。アクアニウムの存在然り、フォレストランドの滝で遊ぶベルゼ然り、さり気ないところまで本作の水に対するこだわりが多く見られました。そして雨が降るラストもあって、水が生命・幸福の象徴として物語の基盤にあることを実感した次第です。砂漠から密林の国に舞台を変えても変わらない水の在り方に、ニヤリとさせられました。

 

 

 では以下、各キャラクター(天使の勇者編からの新キャラクター)についての所感です。

 

 

アン

 本作のヒロイン。上にも書いた通り子どもとオッサンがメインの本作で貴重な女子として存在感を放ちまくっていました。ベルゼとは険悪なようで割と気が合う関係性を築いていたが印象深く、物語を進める潤滑油にして清涼剤としての役割があったかと思います。またメカニックとしての技術を終盤活用しまくっており、仲間の1人として最後まであきらめずに戦っていたのも好感が持てましたね。

 そしてフォレストランドの王女にして、ベルゼの姉である悪魔リリスの娘という衝撃的な設定の数々を引っ提げてきたのも特徴的。ただ前者が父・国王を救いたい一心で行動していたという動機付けになっていた一方、悪魔の血を引く設定が物語であまり活かされなかったのは残念でしたね。(ベルゼと気が合う理由として同じ悪魔だから、という意味合いもありそうですが)個人的には彼女の悪魔の力を持ってみせてほしかったところです。

 

 

ムニエル

 ラスボスにしてタイトルにある「天使の勇者」に該当すると思われる天使。とはいったもののおかっぱ頭の可愛らしい見た目に反してかなり悪辣なキャラクターとして描かれおり、フォレストランドや魔物の住処を蹂躙するやりたい放題には軽く引いてしまいました。動機も子どものわがままや癇癪のテイストで描かれており、ゼウとはまた異なるベクトルで邪悪なイメージを抱かせてきます。

 まぁその分ラスト2話でベルゼと戦い、彼にぶっ飛ばされる光景が最高に気持ち良くて、敗北することでカタルシスを用意する敵キャラとしてこれ以上ないものとなっていましたね。最後に天界で雑用の罰を受ける末路も、無理に死者を出さない本作としては妥当な扱いで溜飲も下がりました。タイトルからしてキーキャラクターになるかと思っていただけに、終始その傲慢さに意表を突かれた気分です。

 

 

ブレッド

 フォレストランドの大将軍。ムニエルに与する国の裏切り者であるものの、フォレストランドを想う気持ちは本物だったのであまり憎めないキャラでした。かつて過ちを犯したラオとの会話もあり、真面目故に苦悩する軍人キャラとして結構お気に入りです。体を機械化している実質サイボーグみたいな設定からも、自分の身を犠牲にしてでも大義を果たそうとする姿勢が伝わってきましたね。アンとのやり取りも素敵だったので、最後には改心して国に尽くしながら罪を償うことになってホッとしました。

 

 

 というわけでサンドランド ザ・シリーズ「天使の勇者編」の感想でした。蛇足になるかと思っていたシリーズ化でしたが、思っていた以上に楽しめて本当に良かったです。鳥山明氏が生み出した世界観が、冒険モノとして正統進化したような印象で見ることが出来ました。「悪魔の王子編」で物語を振り返りつつ、本章でさらなる広がりを堪能するという、充実した時間を過ごすことが出来て満足度が高かったです。

 そしてサンドランドの世界を創り、続編の原案やキャラデザを担当してくれた鳥山氏にも感謝を今年の3月に鳥山氏の急逝したことが発表された時は本当にショックでしたし、氏が生み出す作品をこれ以上見れないのかと深く絶望したものです。しかし本作を経て物語を続けてくれる人たちがいることが伝わり、その悲しみもある程度癒えたかなと思います。これからも鳥山明が遺してくれた作品と、その火を受け継いだ方々の物語を楽しんでいく所存です。

 

 

 ではまた、次の機会に。