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大奥(NHKドラマ10) 感想

そんな日を 夢見て

これは残酷かつ無情な世界で、美しく生き抜いた者たちの物語

蒲公英

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  • 幾田りら
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 よしながふみ氏原作の漫画作品『大奥』。謎の奇病によって男性が次々と死亡し激減してしまった江戸自体を舞台に、女性たちが社会のメインとなった「男女逆転大奥」を描いていく作品がつい先日までNHKドラマ10枠で実写ドラマとして放送されました。過去2、3度に渡り実写化していった本作ですが、今回のドラマは原作ラストである大政奉還までを映像化することが事前に予告されており、そのことからも察せられるように中々に力の入った実写化のようです。

 

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↑以前当ブログで本作について話題にした際の話は上の記事を参照。

 

 僕自身原作漫画の方を以前からちょくちょく読んでいたのでこれは確認しておこうと見たわけですが、予想以上に見入ってしまいました。鬱屈とした世界観で狂気に冒されていくかのような無情な展開、そんな艱難辛苦を前にしても諦めず進み続ける人の強さを「忠実」と「改変」の2つを用いて魅せてくれていました。というわけで今回は、そんなドラマ大奥シーズン1の感想を自分なりに書いていきたいと思います。

(※以前の実写化の方の記憶が曖昧なので、当感想ではそちらについてほとんど触れないことをご了承ください

 

 

  • 醜くも大切な忠実

 まずは「忠実」な一面について。本作を見て印象に残ったのは原作にもあった無情な展開をストレートにやってくれたことですね。そもそも原作の特徴の1つとして、「赤面疱瘡」によって男性の人口が減ったことで何が起こるのか、女性が将軍職に就くことで発生する問題とは何かについて様々な描写が挙げられます。徳川の世を滅亡させないためにも、将軍が如何にして世継ぎを残すかで愛憎渦巻く物語が展開されていく要素をドラマは真っ向から映像化していました。

 中でもセクシャル描写のストレートぶりには唖然。子を為すために様々な男とまぐわう様子をキチンと描いていたことには舌を巻くばかりです。そんな性的かつ悲惨なストーリーが最も色濃く出ていたのが五代目将軍綱吉編で、将軍の務めを果たそうとするものの人としての尊厳が踏みにじられていくことに耐えきれなくなるストーリーは原作既読の身でも後でも見ていて胸を締め付けられました。世継ぎを産む道具のように扱われる卑しさを、情事の最中のシーンを交えながら伝えてくるのでかなり身に迫る内容だったと思います。

 もう1つ目に焼き付いたのが登場人物の狂気。将軍に限らず、大奥に関わる者たちそれぞれの激情・悲哀からくる物語もこの作品の魅力が演者たちによって余すことなく表現されていました。例えば家光編で多くの人を切り殺しながらも、男女逆転大奥を作り出して世を守ろうとした春日局、例えば上の綱吉編では終始目立たなかったものの、綱吉を愛するが故に手にかけた柳沢吉保と、それぞれを演じる人たちの恐怖すら覚える演技には感激の一言。そのうえ彼女らなりの考えなどもちゃんと伝わってきましたね。

 見る人によってはキツいと感じるものをぼかさずはっきりと映し、それを演者たちによる気迫で表現していく大奥ドラマ。やや深夜枠だからこそ出来た、原作の雰囲気をあまり損ねなかった内容には感謝したいです。

 

 

  • 人を魅せる改変

 続けて「改変」について。原作の最後まで映像化するとは言っても、原作のシーン全てをやり切るのは不可能に近い……ということで色々とばっさりカットしていたのが目に付きましたね。家光と綱吉の間の家綱編はそもそもやらなかったですし、それ以外にも細かなシーンがドラマではありませんでした。個人的に原作で好きなシーンもいくつかカットされていたのは少々残念に思います。(うなぎのかば焼きの話とか好きだったのですが、まぁ本筋に全く関係ないんでカットされて当然なんですがね……)

 とはいえそういったカットを思い切ってやってくれた分、シーズン1は家光&綱吉&吉宗の話を集中的に描いてくれていたと思います。特に吉宗編は彼女個人の心情描写が多く、杉下との関係などがより濃密になっていたように感じました。原作では鉄の女傑といったイメージの強かった吉宗ですが、ドラマで杉下相手に朗らかな態度を見せたりすることで彼女が“1人の人間”であることが強調されていたのが素晴らしかったですね。

 他には吉宗の娘の家重や彼女の小姓・龍(後の田沼意次、そして加納久道とのやり取りはかなり大胆な変化がありました。上述の通り人間臭さが増していた吉宗ですが、家重の心情や久道の謀略を周囲の様々なものをきっかけに知っていく過程が繰り広げられていたのは興味深かったです。おかげで吉宗の人情ストーリーの悲哀を感じることが出来ました。

 また家重の「母上に認められたい」という苦悩に「人の役に立ちたい」想いが加えられていたのもポイント。母に対するコンプレックスの他に、家重にも善意が存在していることがわかりやすくなっていたと言えます。家重という人物をただの暗君では終わらせない制作陣の考えが見えた気分です。原作通りとはいかないものの、原作へのリスペクトが感じられる要素満載だからこそ、そういった改変が面白かったですね。

 

 

 というわけで大奥ドラマの感想でした。原作を読んだのがだいぶ前なので若干うろ覚えな部分もあるものの、それでも十二分に楽しめたドラマだったと思います。ドラマを視聴した後、再び原作漫画を手に取って読み進めてしまうほどに、大奥の世界に再び没入することが出来ましたね。自分なりに思っていたことも何とか綴れたと思います。これを読んでいる方々が、この感想を読んで思うところがあったのなら幸いです。

 そしてドラマのシーズン1が終わり、物語はシーズン2へと突入。シーズン1の最終回では黒木や青沼、平賀源内といった家重時代の主役たちが次々と登場してくれたことでより期待に胸を高鳴らせることになりました。赤面疱瘡根絶のために奔走する彼らの物語は秋からということで、こちらも楽しみにしていたいと思います。シーズン2以降の感想を書くかは未定ですが、もし感想をあげることがあったらよろしくお願いします。

 

 

 ではまた、次の機会に。