新・メタレドの楽しんだもん勝ち!

様々な作品について語ったり語らなかったりするサイト

大奥(NHKドラマ10) season2 & きのう何食べた? season2 感想

 

 

 新年早々去年の話になりますが、2023年秋は個人的にもドラマを視聴する機会が多いクールでした。パリピ孔明』や『ポケットに冒険をつめこんで』などはともかく『相棒』やら『おいしい給食』、『家政夫のミタゾノ』といったシリーズ物が多くなった印象があります。これらは以前から見ているシリーズ作品が重なっていることもあり、必然的にそうなってしまった次第です。おかげで2023年秋アニメと合わせて見続けるのが本当に大変でしたよえぇ……

 その中でも特に気合を入れて見ていたのが『大奥』と『きのう何食べた?』のシーズン2。いずれもドラマ2期という位置づけであると同時に、両作品ともよしながふみ氏の漫画原作である奇妙な共通点を持っています。同じ原作者の作品が同時期にドラマ化するという珍しい事態で、かつ個人的にお気に入りの作家だったこともあり結構見入ってしまいましたね。今回はそんな2作品を見終えての感想を簡単に書いていく予定です。久々のドラマ感想ですが、よろしくお願いします。

 

 

 というわけで以下、ドラマの簡易感想です。

 

 

 

 

 

 

大奥 season2

 まずはNHKで放送された『大奥』のドラマ版2期から。1期が2023年の冬に放送され約半年後の放送となりましたが、最初から2期までやる予定&そのためスタッフがそのまま続投だったこともあり、当時と変わらない地続きの世界観を味わうことが出来ました。1期を思う存分楽しんでいた身としても非常に嬉しかったです。

 

metared19.hatenablog.com

↑1期の感想については上の記事を参照。

 

 さてそんなドラマ大奥ですが、序盤は何といっても奈落の底へ真っ逆さま!とも言うべき急展開が大きな特徴となっていました。最初に始まった「医療編」で赤面疱瘡撲滅に乗り出す田村意次とその配下たちの和気あいあいとした様子に癒され、それが一橋治済の謀略によって呆気なく崩壊していく過程に胸を痛めることとなりました。青沼や平賀源内といった登場人物に愛着が湧いてくる分、彼らが無念の死を遂げたことにショックを受けてしまいます。そしてこの残酷かつ無情な世界観こそ、本作の醍醐味であると改めて思い知らされました。

 同時にそんな絶望的状況を少しでも好転させようとする人々の活躍も印象的。母・治済に反抗する徳川家斉や彼に付くお志賀の方(滝沢)などはまさにそれで、どこかやるせないところがあるものの何とか次に繋いでいく構図に胸打たれました。これは続く「幕末編」においても変わらず描かれていたと言えます。幕末編でも家定と和宮の友情に癒されたのも束の間、家定の死をきっかけに残された者たちが明日に繋ぐために奮闘していく構図が鮮烈に映っていました。

 本作は1期同様「世の中そんなに上手くいくわけないだろ!!」と言わんばかりの過酷さに劇中人物を放り込みながら、その流れに必死に抗う彼女らの精神的ブレなさに着目していたと言えます。どうしようもない理不尽な現実に打ちのめされても立ち上がり次の世代に繋いできた女性と、それを支えてきた者たちの信念の強さには改めて感動させられます。そんな女性たちの物語だったからこそ、ラストの胤篤(天璋院)の「この国はかつて、代々女が将軍の座に就いていたのでございますよ……」というセリフで締めた時の感動もひとしおでした。(この話を聞いているのが今度の新五千円札に描かれる津田梅子というのもタイムリーでここすきポイント)

 

 さてドラマ大奥を盛り上げた要因の1つとなっているのはやはり悪役。上述の治済だけでなく、徳川家慶井伊直弼などが主人公たちを大いに苦しめていました。中でも治済は別格で、自分の孫たちを毒などでどんどん間引いていく謀略の数々にはゾッとさせられます。何より上述の登場人物たちが持っていた「信念」というものを持ち合わせず、ただただ己の退屈を紛らわすためだけに人々を弄んでいるのが恐ろしかったです。人の皮を被った化け物・心を持たないサイコパスとしてのキャラクターの完成度は多くの創作の中でも随一だと思いますね。

 他の面々に関しても治済のような恐ろしさでは劣るものの、いずれもこちらの印象に残る悪辣っぷりでした。家慶は自分の娘に手を出す点が気色悪さや生理的嫌悪を引き出していましたし、井伊は家定や胤篤たちに対する嫌らしい口ぶりででプレッシャーをかけまくる油断ならない態度に思わずたじろいでしまいます。本作の理不尽要素の多くを担っていたと言っても過言ではなく、物語を盛り上げてくれた立役者として理想の悪役になってくれていたと思います。

 そんな悪役たちを演じた方々の演技力も見逃せません。仲間由紀恵さんや髙嶋政伸さん、津田健次郎さんといった錚々たる面子が悪役の魅力を存分に引き出していました。特に治済役の仲間さんがこれまた印象的で、妖艶かつ得体のしれない演技の数々は実に強烈なものとなっていました。言うなれば原作漫画の治済の垢抜けなさとは別の、妲己といった傾国の妖女に知略が加わったかのようなイメージです。おかげで本作をより楽しめることが出来たと思います。

 

 他にも最終回の家光と有功の再登場や宮野真守さんの俳優出演といったサプライズ、毒入りカステラからくるカステラのに対するトラウマ(ドラマでカステラが出てくるたびに実況TLがザワつく感覚は本当に楽しかったです)など、面白い要素が非常に多かったドラマ大奥。原作既読済みとしてはカットされたエピソードの多さにどうしても不満が出てしまいますが、やるべき場面をキッチリ最高の絵面で仕上げてくれたことには感謝しかありません。短い尺の中で原作の世界を最大限引き出してくれた、愛のあるドラマだったと感じました。

 

 

きのう何食べた? season2

 続けてテレビ東京で制作された『きのう何食べた?』のドラマ版2期。こちらは2019年に1期、翌年に年末スペシャルでさらに翌年には映画と大体1、2年に制作されている印象です。そして2年ぶりに始まったドラマシリーズ2期では当時から少々年を取ったようなビジュアルのシロさんとケンジの2人に妙な感慨深さを覚えました。

 

metared19.hatenablog.com

↑映画の感想については上の記事を参照。

 

 さてそんな何食べ2期ですが、ストーリーの流れとしてはいい意味でいつも通り。シロさんとケンジの日常を描きつつ、他の登場人物にもスポットを当てていく内容にどこか癒されました。特に序盤、小日向さんと航くん(ジルベール)の関係性にちょこっとフォーカスしたエピソードはどれも面白かったですね。元からオーバーかつ愉快だった2人が、さらに愉快なバカップルへと掘り下げられた感覚を味わえました。同時に2人の馴れ初めを聞いてジルベールというあだ名の由来*1と合わせてドン引きしたり……

 他にもシロさんとケンジのやり取りが朗らかになっていたのも個人的な注目ポイント。1期の頃は自身がゲイであることを隠すシロさんの態度もあってピリピリとした空気が至るところで見られましたが、本作ではそこまでの雰囲気にならず両者の仲の良好さが押し出されていたように感じます。恐らくですが、映画などでシロさんの両親とのギクシャクした関係に決着がついたことなどが関係しているのではないかと思われますね。彼にとって最も悩みどころだった“ゲイ”としての自分と周りの向き合い方に、ある程度の折り合いをつけた余裕が本作の朗らかさに繋がったのでしょう。おかげでケンジとのアットホームな雰囲気を思う存分堪能出来て満足です。

 

 そんなBL作品としての付き合い方に慣れてきたのは嬉しい反面、それと同時に「逃れられない変化」という新たな壁が出てきたのが本作最大の特徴となっていました。1話から行きつけのスーパーの閉店を目の当たりにしたり、その他現実にもありそうでちょっと凹む出来事が襲い掛かってくる様子が印象に残ります。中でも鮮烈なのがシロさんとケンジがそれぞれ職場で要職に就いた(あの美容室の店長が海外に行ったのが地味に衝撃的)ことで、その結果時間が合わなくなり2人揃ってご飯を食べる機会が少なくなる展開はかなり切なかったです。仕事で互いの生活がズレていくリアル感もそうですが、シリーズの見どころである食事シーンの機会が削られる展開に妙なショックを覚えてしまいますね。

 何より2人がアラフィフに突入したことで、自身の「老い」について考える展開も随所に盛り込まれていました。当初はシロさんが老眼になったくらいでしたが、自分ももう若くないと感じていく様子に見ているこちらも胸が詰まる思いになりました。最終回はまさにそれが顕著になっており、両親の老後だけでなく自分の老い支度についても向き合っていく物語は妙な生々しさがありましたね。このように劇中時間が少しずつ経過し登場人物が年を重ねていく以上、避けられない事態を真摯に描いているのでしょう。だからこそ少しずつの変化に適応して自分たちなりの「家族の形」を確立していくシロさんとケンジに胸打たれますし、どんな状況でも食事の際の穏やかな時間は本作の得難い癒しになっていたと言えます。

 

 他にも何食べといえば料理のシーン!ということで様々な料理が登場した点も見逃せません。例によって実際に調理している様が描かれているのもあり、見ていてお腹が空いてくる飯テロ作品としての雰囲気は健在です。2期で作られたりお店でお出しされた料理はどれも美味しそうですが、敢えて好きなものを挙げるならクリスマス回のビーフシチューと上述の時間が合わない状況で作ったヤケクソの油淋鶏でしょうか。いずれも健康と家計が第一の料理としては珍しくガッツリ系の肉料理だったので、新鮮かつ本当に魅力的に映りました。(また最終回で登場したケンジの特製弁当辺りも好きです)いつか作ってみたいと思えるものばかりで参考になったのもチラホラありますね。

 原作とは大幅に異なりしんみりする要素も多くて湿っぽいところもありますが、だからこその良さが出ていると感じる何食べのドラマ版西島秀俊さんと内野聖陽さんがそれぞれ演じる主人公2人は個人的にもかなり刺さるものがあって好みですね。そんな路線を押し出しつつ料理も美味しそうに魅せる本作を見られて本当に楽しかったです。

 

 

 ここまで書くと大分原作と異なる実写化だったなぁとしみじみ感じる2作。しかしその分実写としての強みを活かし、独自の面白さを確立していったとも思いました。物語の至るところに世知辛さや容赦のなさを盛り込みつつも、日々を生きようとする人々の健気さを描いてきたよしなが氏の作品の良さも十二分に発揮されていたかと思います。個人的にも結構理想的な実写ドラマだったので、本当に楽しい時間を過ごせました。2作品ともありがとうございます!!

 

 

 ではまた、次の機会に。

*1:ジルベールの元ネタは竹宮惠子氏の漫画『風と木の詩』のメインキャラ「ジルベールコクトー」から来ている。そしてこの作品は「同性同士の肉体関係」や「性虐待」を取り扱っており……