新・メタレドの楽しんだもん勝ち!

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16bitセンセーション ANOTHER LAYER 感想

ゲームだと思えば

張り切れるのです

ノスタルジーを駆使して描く潔い“好き”への賛美に大感謝

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 昨年2023年には様々なアニメを見て感想を書いてきましたが、実は他にもちょくちょくチェックしている作品がいくつかありました。まとまった時に見るなど他作品よりもマイペースに視聴していたので語る機会がなかったのですが、せっかくなのでここでも可能な限り書いていきたいと思います。

 というわけで今回感想を書いていくのは2023年秋アニメの一角『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』。ギャルゲーやエロゲーといった美少女ゲーム(アダルトゲーム)&秋葉原オタク文化を題材にしたアニメということで以前から注目していたのですが、話が進む度に予想外の展開が襲い掛かってくるのでいつの間にか視聴が止まらなくなりました。原作アリとはいえほぼオリジナルアニメであることを活かしつつ、廃れつつある美少女ゲームの懐かしさに触れさせてくれる内容は当時を少々知っている身としても楽しかったですね。そうして個人的に秋アニメのダークホースその3になった本作を、このまま語っていきたいと思います。

 

metared19.hatenablog.com

↑2023年秋アニメのダークホースその1と2については上の記事を参照。

 

 

 

  • 実在作品が物語の世界へと誘う

 さてこの16bitセンセーションの特徴としては実在のアニメ・ゲームといった作品群がそのままの名前で登場した点が挙げられます。後述のタイムリープ(タイムスリップ)要素にKanon』や『同級生』『こみっくパーティー』といった往年の名作美少女ゲームがそのまま登場した1話に早速度肝を抜かれましたね。ゆずソフトユーザーなメタレドとしてはそれらのパッケージの登場がもっと衝撃的でしたけど……エロゲーだけでなく「コネクト」といったアニソンなども流れますし、他にも最終回のパワーアップしたでじこデ・ジ・キャラットなどこれだけ実在のコンテンツを出してきたことには舌を巻くほかありません。実在するゲームメーカーの名前も出てくるので、それらを知っている人ほど本作の世界観を身近に感じることが出来たのではないかと思います。

 そしてそれらオタク文化に、かつてノベルゲームなどでよく見られた「時間を飛び越えるタイムリープ要素」を加えて話のスケールが広がっていったのが面白かったです。主人公の「秋里コノハ(あきさと・コノハ)」が貰ったゲームで過去に飛ぶSF作品であることは事前に知っていましたが、当時の秋葉原の世相などが色濃く描かれることでより没入感が増していました。(「開いたゲームの発売日に飛ぶ」という設定も斬新)僕自身は昔のアキバや文化についてそこまで知っている身ではないものの、話に聞いていた要素の数々には心躍りましたね。

 その一方でコノハの行動によって歴史が変化していく過程が重要なポイントにもなっており、結果視聴者が知っている文化が少しずつ消えていく恐怖感が味わえたのも興味深いところ。特に10話以降の高級住宅街になってしまったアキバの変容(そしてアメリカナイズされたFateとか)には困惑させられましたね。そのため変化に戸惑うコノハの心情を理解することが出来ましたし、それを変えようとする終盤の展開にも応援したくなるパワーを得られたと感じます。終盤の展開はかなり素っ頓狂でしたが、ディストピア感溢れるゲーム制作への危機感は半端なかったです。

 全体を通して、昔のアキバや美少女に魅せられた・当時を生きていた人に徹底して刺さる作品だったと言えます。狭い層へのアピールになってしまった印象は否めないものの、実在作品を徹底して出して好きな人をノスタルジーに浸らせてくれる真摯さは大いに評価したいです。

 

 

  • その“好き”が世界を変える

 そして本作のもう1つの要素として、変わっていく歴史などを通して「“好き”に対する姿勢」といったものが描かれていたのが特徴的。上述の懐かしのオタク文化が廃れていく中で、それらを好きでいつづけることの難しさ、それでも好きであることを止めない想いが全体を通して語られていました。

 コノハに関しては言うまでもなく理想の美少女ゲームを作りたいという欲求が目に留まります。最初こそ自分の思い通りにいかない現状に癇癪を起している印象だったものの、思い描くゲームでアルコールソフトを救ったり、その結果かつてのアキバを失ったことにショックを受けたりと様々な形で一喜一憂していくの様子に魅せられることになりました。(また上述の点もあって感情移入が容易でしたね)それでも自分の作りたいゲームに対する想いは一貫しており、それが結果的に世界を変える展開は実に面白かったです。そのため1話からコノハが描いていたヒロインが主役のゲームが最終回に作られるラストにはウルっとくるものがあります。

 コノハ以外だともう1人の主人公「六田守(ろくた・まもる)」の“98”ことPC-9800への異常なまでの愛情も見逃せません。Windowsに取って代わられたというかつてのメインPCにしがみつき続ける守が、その姿勢をコノハに肯定され応援される4話はかなり印象に残りました。愛するモノが歴史の裏で衰退していくことを実感する中、それらに対する想いを捨てずに続ける描写には不思議と励まされるものがあります。その後の守が徹底して98によるゲーム制作を続ける様子には笑ってしまいましたが、そのブレなさにはある意味でカッコよく感じるところがありましたね。

 あとは「エコー」は語った“想像力”や、それに付随する“情熱”に関する話も印象的。変化した未来でAIがサブカルコンテンツを作っている現状で、人間でないと生まれない“熱”についての話には少々惹かれました。これらが語られる8話は難解でしたが、「想像力が現実を定義する」といった言葉はコンテンツが生み出す影響力について語っているようにも思えました。ゲーム1本が歴史を変える特異点になりうる、誰かの“好き”が現実に大きな作用をもたらす……まさに終盤の展開そのものを指した話は、視聴者の“好き”に対しての肯定とも取れましたね。何かに魅了された人たちへの応援歌として、これらの要素を好意的に受け止めたいと思います。

 

 

 というわけで16bitセンセーションの感想でした。こうして書き出すとSF作品としても割と本格的で面白かったと改めて感じることが出来ましたね。原作漫画は16ビットパソコンが使われていた1990年代のゲーム制作現場を当事者たちの体験談込みで描いていく同人誌だったものらしいのですが、そこからここまで壮大な内容に変化させたことには驚くほかありません。(そもそも原作では「上原メイ子(うえはら・メイコ)」が主人公で、コノハは原作に存在しないアニメオリジナルキャラクターという事実も衝撃的)

 その過程で美少女ゲームという文化が失われつつ現状に対し、一抹の寂しさを描きながらも誇らしく描く内容も見事。それらを愛してくれた人へのご褒美でもあるアニメだったと言えます。(タイムリープの理屈やエコーの正体などは結局明かされることはありませんでしたが、まぁ物語においては重要ではないので匂わす程度で良かったかもしれません)僕自身美少女ゲームに関してはある程度知っている程度で最近は御無沙汰なところもありましたが、本作のおかげで当時の情熱などを思い起こすことが出来ました。

 あの頃の“好き”との再会を手伝ってくれて、本当にありがとうございました!!

 

 

 ではまた、次の機会に。