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超速パラヒーロー ガンディーン 感想(簡易総評)

覚悟を決めれば、最強。

挫折さえも糧にして、超速の英雄は大地を駆ける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 NHKで3週にわたって放送された『超速パラヒーロー ガンディーン』。パラ陸上の車いすヒーローが主役という特殊な特撮作品として以前から注目していました。(ちなみに車いすのヒーロー自体は「神威龍牙*1という前例がいます)

 俳優や演出担当などのスタッフの多くが既存の特撮作品に関わっているということもあって期待に胸を膨らませながら視聴しましたが、期待以上に面白い作品に仕上がっていて驚きました。車いすのヒーローの魅力を余すことなく活かしたアクションとドラマが非常に楽しかったです。今回は個人的に感じたこの作品の印象深い特徴を自身の感想を交えて書いていきたいと思います。

 

 

  • 車いすのヒーロー”だからこそ

 まずあげたいのがガンディーン自身の特徴について。パラリンピックの宣伝を兼ねているからこその車いすヒーローなのですが、車いすの要素を除いた場合でもヒーローとしてはかなり異色な存在であるように感じます。全身に植物のツタが絡みついているようなボディ、縦に並んだ複数の目などヒーローというよりもエイリアンなどの宇宙人を思わせる異形のデザインが目を引きます。1話最後の変身シーンも苦しそうにしているなど、“異質さ”を追求したキャラクターであると感じました。従来の特撮とは異なり玩具の販促がない分このような挑戦が出来たのかもしれません。

 そんなヒーローをカッコよくあらしめるのが車いすの要素。まず専用のマシンのF1カーのような鋭角的なフォルムが非常にカッコよくて、近未来の印象を感じさせます。これにガンディーンが乗ることでさながら宇宙船に乗っているかのようなSFチックなイメージになるので異質さはそのままに非常にカッコよくなります。宇宙人の技術で作られたヒーローの設定と相まって、宇宙の力を得たヒーローとしての印象がグッと強くなりました。「それ単体では異質に終わってしまうデザインに車いすを掛け合わせることでヒーローらしさを引き出す」組み合わせは、子どもの頃車いす陸上に使われる車いすが無骨なマシンに見えた身としてはたまらないナイスなデザインです。

 

 車いすに乗って行われるアクションに関しても見事。ビルを高速で駆け上がったり敵怪獣の攻撃を残像付きで避けたりするなど、バイクに乗ったヒーローが如く車いすを駆る動きが存分に見られました。特に終盤のバトルは非常にスピーディーな絵面が展開されるのでかなり見応えがありましたね。

 戦闘スタイルに関しても素敵です。剣や銃などの武器を使用せず殴って怪獣を攻撃する徒手空拳は「腕の強さ」を見事に強調していました。決戦時に怪獣の体にしがみつき、よじ登るシーンなどは重い車いすを腕の力のみで乗りこなす車いす操者のパワフルなイメージが見事に表現されています。車いすに馴染みのない人たちに車いすの素早さ、そしてそれを扱う人たちの力強さを十分に印象付けてくれたと思います。

 異形の姿をまとめ、アクションでも活躍する車いす。このヒーローはそんな車いすだからこそ成立する要素を上手にまとめていると言えます。何より主人公が車いす陸上や車いすラグビーなどの競技を参考にして戦うという描写もあって車いすのすごさ」というものをきちんと魅せてくれました。パラスポーツの宣伝も兼ねつつヒーローとしても成立させていることに感動を覚えますね。

 

 

  • 絶望だって失望だって今じゃもう立派な武器だ

 特撮に関してはここまでにして、次はもう1つの魅力であるドラマパートにも触れていきたいと思います。本作は特撮が毎回濃い分短くて、代わりに主人公たちの物語に大きな比重が置かれていました。

 まず大きな特徴としてあげられるのが下半身不随の障がいを持つ主人公をはじめとして、登場人物の多くが“マイノリティー”に位置する人たちで構成されている点。主人公の実家の工場に同性愛者や外国人技能実習生が所属しているほか、不登校の女子高生も出てくるなどまだまだ社会的に弱い立場にある人たちを中心に構成されています。しかし彼らの多くがそれを気にすることなく和気あいあいと日々を過ごしている様子が非常に魅力的でした。宇宙人であるグー(フォス)をすぐに打ち解け、異なる相手も受け入れる“多様性”が前面に押し出されていていたと言えます。グーの故郷の「アラート星」が多様性を失ったことにより衰退していった背景から見るに、「異なるものを認め合う」という本作のテーマを感じ取りましたね。

 

 しかしそんな明るい要素ばかりではなく、苦しみや悩みもある点が本作の特徴の1つ。主人公の大志が障がい者であることにコンプレックスを抱いており、そんな自分がみんなを守れるのかという葛藤を繰り広げる様子が描かれました。多様性を重視しているものの、「自分と他人の違い」からくる悩みにも本作はきちんと取り上げているというわけです。

 それと同時にもう1人の主人公とも言える京の過去についても触れており、それが大志の葛藤と重なっていく過程が実に印象的でした。陸上選手として挫折した過去を持つ京にパラ陸上のコーチが勤まるのか、という悩みを物語序盤に描きつつ、大志と同じように“挫折”を経験してきたものとして京というキャラクターは描かれていました。

 そんな両者が過去を受け入れて今目いっぱい頑張るしかない、という答えを出すのが素晴らしかったです。挫折した事実を否定するのではなく、肯定してそれさえも糧にしようとする気概が主人公2人から感じることが出来ました。(「障がいを欠点ではなく個性として見る」現代の在り方を上手にドラマに落とし込んでいますね)闘争心が欠けていると指摘され陸上で勝ちたい意志を示す大志、彼をサポートするためコーチとして日々奮闘する京の物語としてきちんと進行していくので見ていて非常に心地よいです。

 そうやって展開される選手とコーチの関係がグーの介入によって、ヒーローもののバディに昇華されていく点も特撮作品として興味深いです。足が動かなくなったもののパラアスリートとして努力を重ねてきたからこそ、大志が上記の車いすヒーローとしての魅力に繋がっていく構成もよく出来ています。本作は辛い過去も力に変えていくヒーローたちの物語だったと言えますね。

 

 

 というわけでガンディーンの感想でした。車いすであることにちゃんとした意義が存在するヒーローとして見事な作品でしたね。この辺りは『バリバラ』など障がい者を扱った番組に力を注いでいるNHKだからこその“味”と言えます。今回は事故で障がいを持った主人公が主役でしたが、これを機に先天的に障がいを持った主人公や、実際の障がい者の人が演じる作品も出てくればいいな、と思います。

 そしてガンディーン自体は続編があるのかどうか気になるところ。本編がプロローグ的なストーリーだったことに加えて、謎の男によるフラグが建っていた中で期待するなという方が無理です。大志たちのキャラクターも魅力的だったので彼らの物語の続きが見てみたいと思ってしまいます。現状何のアナウンスもないのでまだ何も決まっていないと思われますが、是非やってほしいですね。(あとガンディーンのフィギュアとかのグッズも出してほしいです)

 

 

 ではまた、次の機会に。

 

 

↓以下、過去の感想が書かれた記事一覧です。

metared19.hatenablog.com

 

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*1:東京都を中心にして活動しているローカルヒーロー車いすに乗ったヒーローとしてはこちらが先である。