未来を築く、
希望の光!!
通じ合うこと・わかりあうことについて、時代の変遷を感じさせる物語だった
先週テレビシリーズが無事完結したウルトラマンシリーズ最新作『ウルトラマントリガー』。あの『ウルトラマンティガ』の令和版という宣伝文句で放送前から多くの人に衝撃を与えました。実際にティガを意識した要素も多く、監督の坂本浩一氏の絵作りもあってかなり挑戦的な内容だったと思います。
先に評価点について語りたいと思います。
まず本作は「光と闇」の在り方についてストレートに表現した点について。こちらは過去の感想でも書いてきましたが、光が善で闇が悪といった考えではなく、どちらも共有しあえるものとして描いていたのが特徴的でした。ティガでは「人は誰でも光になれる」といった言葉が残されましたが、そこに闇を加えることで「光も闇も関係なく受け入れる」という考え方に変化していったことが本作には示されています。この変化は異なる価値観を認め合う現代の気風に合わせていると言えます。
そしてその在り方を劇中の登場人物の多くに反映させていたのも面白いところ。まず主人公のケンゴは「闇だったトリガーが光になったもの」というかなりややこしいところがありますが、同時に「闇だった自分を受け入れる」ことでウルトラマントリガーに変身しているのが本作の考えを強く示していると言えます。ケンゴの「みんなを笑顔にしたい」という姿勢が分け隔てないものになっている辺りにもその傾向が見られますね。
もう1人特徴的だったのがイグニス。復讐のためにトリガーダークの力を得るものの、復讐以外に見つけた大切なものを守ろうと変わっていく様子がわかりやすく描かれていたのが興味深いです。闇を抱えたままでも誰かを守れるという、一見ネガティブなようをポジティブに捉えていく描写はシンプルながら見ていて気持ちが良かったです。上述のケンゴと合わせて、異なる2人のウルトラマンの物語としても見どころがありました。
そして本作は何と言ってもメインキャラクターの描写の濃さが魅力でした。例えばアキトは人間サイドのキャラとしては特に出番が多く、序盤から終盤まで物語に大きく関わっていました。ほぼ全てのメインキャラとの関係を築いている点からも、本作における彼の存在の大きさが伺えます。主人公の相棒としても良く出来たキャラだと思いますね。
メインヴィランである闇の巨人側も個性的なメンバーが揃っていました。嫉妬深いカルミラ、真面目なダーゴン、あくどいヒュドラムと一目でどんなキャラが見分けられる点には感心を覚えます。
そして本作はそれらのキャラが「通じ合うこと」に重きを置いていたのも特徴的。例えばケンゴやイグニス、アキトはそれぞれが最初はぎこちない関係だったものの、戦いの中で絆を深めていく様子がじっくり描かれていました。彼らがわかりあう過程を丁寧に見せてくれたおかげで、終盤以降の共闘も違和感なく見ることが出来たと思います。
同時にダーゴンなど敵とわかりあうシーンが多かったのもグッド。互いに敵対する関係ながら、その間柄で生まれた友情についてもわかりやすく見せてくれていました。最終回ではカルミラにすら手を差し伸べる展開にも納得させられますね。
他にも「誰かと分かち合う」描写が多かったのも印象的でした。ユザレの力を抱えて悩むユナやみんなのために1人で戦うケンゴを良しとせず、仲間と共に考え、同じ悩みや苦しみを共有して解決していく姿勢は最初から最後まで一貫していました。登場人物全員の団結もその在り方に沿っていましたね。本作はそんな「異なるものたちが通じ合い、力を合わせていく」過程に力を入れていたと言えます。
そして目玉のアクションは坂本監督ということもあって大迫力。巨大なウルトラマンや怪獣がスピーディーに動いて戦うシーンはどれも見応えがありました。また『ティガ』を意識したタイプチェンジをより現代チックにリファインしたかのような特撮も多く見られ、時代を経て技術と表現力が進歩したことを感じさせてくれます。中でもスカイタイプの飛行戦闘のシーンはどれも見事でした。
そんなトリガーのアクションは他のウルトラマンとの共演によってさらに昇華されていたように感じます。トリガーダークの他にゼットやリブットといった客演回では、各ウルトラマンの能力を最大限に活かしたコンビネーションを魅せてくれていました。極め付けである19話でのティガとのタッグは同時タイプチェンジなど、ファンにとって「これが見たかった」という光景をきちんと映像にしてくれていましたね。
さてここからは本作での不満点と問題だと思った点。見たくない方はブラウザバックを推奨します。
まずあげられるのがストーリーそのもののわかりにくさ。上述で書いた光と闇のモチーフに関しても抽象的な表現が多く、ただ見ているだけでは何が起きているのか理解しにくいシーンがチラホラ見られました。説明してほしい部分が不明瞭のまま進むので、頭に疑問符が浮かんだままになってしまいがちです。それでいてケンゴの出生など、重要な情報がさらりと流されるので、ストーリー全体を把握するのにも一苦労といった有り様でした。
加えて1つ1つの話に数多くの要素が詰め込まれているため、それぞれの要素があっさり描写され気味だったように思えます。例えば17話はメツオロチを倒すだけでなくイグニスの復讐劇やカルミラの暴走などが混じり合ってしっちゃかめっちゃかになってしまっていました。そのため重要なエピソードなどで、あまりカタルシスを感じられなかったのが非常に残念です。
他にはメインキャラクター以外の扱いに関しても苦言を呈したいところ。上述の通りアキトやイグニスといったメインキャラがじっくり描かれていた反動か、タツミ隊長らGUTS-SELECTの隊員たちにスポットが当たらなかった点が気になりました。テッシンとヒマリに至っては物語の主役になったことが一度もなかったせいで、フレーバー以上のキャラ付けが見い出せなかったのが悲しいです。
怪獣についても同様で、本作の怪獣は敵キャラとしての脅威として印象がかなり薄かったように思えます。こちらは闇の巨人たちをメインの敵に据えているためでしょう。魅力的な怪獣が多かったので、彼らが単なるやられ役で終わってしまったのはこれまた惜しかったです。(最もこういった怪獣の扱いは坂本監督作品ではよく見られる事態なのですが)メインキャラに注力するあまり、周囲のサブキャラたちがおざなりになってしまったという印象が否めませんね。
最後に『ティガ』を意識した作品として。こちらは良くも悪くも「光と闇」としてのティガの側面ばかりがリスペクトされていたように思えます。ティガの魅力は「1つ1つの短編に散りばめられた伏線が少しずつ回収され、それらが最終的にストーリー全体の大きな戦いに収束していく」構成にあると個人的には考えているので、短編ごとのバラエティ豊かな要素はあまり見られなかったのは残念ですね。
またティガとの関連性についても疑問が残ります。トリガーとティガの類似点など、それらに関して一切説明がないまま終わってしまったことには面食らいました。結局のところただのオマージュだったのか、それとも「平行同位体」のような設定があったのか、そういった謎をはっきりと視聴者に明かしてほしかったです。
総評としては「これは“ティガ”ではなく“トリガー”である」といったところでしょうか。ティガをリスペクトした作品としては中途半端に終わってしまったことや、話の難解さも相まって視聴者にとって不親切な作品として終わってしまったように思えます。ティガを意識してみるとがっかりする要素も多いかもしれません。
とはいえ“トリガーという作品”そのものをやってみせた点は見事でした。ティガそのものに頼りすぎず、本作だけの魅力をきっちり作り上げてみせたと言えます。僕個人としても、ケンゴたちの物語を最後までやりきったことには好感が持てますね。最後まで見逃せない、面白い作品だったと思います。
では以下、各キャラクターについての所感です。
マナカ・ケンゴ/ウルトラマントリガー
本作の主人公。スマイルスマイル言うところは若干ウザいものの、基本的には相手の想いに寄り添えるキャラクターでした。他人への配慮も行き届いていて、決してめげずに敵味方関係なく動ける姿勢は現代の作品の主人公らしいと感じられますね。
そして彼の出生に関してはかなり難しいところ。良くも悪くもスピリチュアル要素が強く、理解するのがかなり大変でした。一度わかれば何となく受け入れられるものの、その一度が難しい。ある種本作の難しさを象徴しているように思えます。
シズマ・ユナ
本作のヒロイン。ユザレの生まれ変わりという使命を持ちながら、それをやり切ったすごい女子です。回を重ねるごとに勇ましさが増していくのが特徴的で、5話でダーゴンを引っぱたいてからはドンドン行動的になっていました。ただ守られるだけではない辺りにものすごく好感が持てますね。
ヒジリ・アキト
メカニック担当にして真のヒロイン。全話を通してケンゴの相棒としてのポジションを貫いてくれたのが素敵です。最初はツン全開だったものの、あっという間にデレていくのが見ものでした。
最初は自分がウルトラマンになれなかったことに不満を覚えていたものの、気が付けば自分に出来ることを精一杯やってケンゴたちのサポートに回るようになったのも印象的。上述の「誰かと通じてわかりあう」本作の作風をわかりやすく体現していましたね。
イグニス/トリガーダーク
物語をかき乱すトリックスター、かと思いきや結構いい人だった枠。飄々とした態度で登場し、敵か味方かわからない立ち位置が面白かったです。ギャグキャラなのか?→やっぱりシリアスキャラなのか?といったように、回を重ねるたびに印象がコロコロ変わっていきました。
復讐のために行動していたものの、最後まで他人を巻き込むことには葛藤し続けていた辺りから何だかんだで印象は良かったですね。見逃せない要素多めの、本作屈指の良キャラクターだったと思います。
カルミラ
メインヴィランの1人でめんどくさい人。ヒステリックで嫉妬深いキャラが一貫しており、このめんどくささを受け入れられるかどうかが本作視聴の鍵になっていたように思えます。
またトリガーに対する一方的な愛憎はかなり見ものでした。トリガーへの愛は本物であるものの、彼を表面上でしか見ていない盲目ぶりは非常に哀れで放ってはおけません。どこか可哀想なラスボスとして、個人的に強く印象に残りましたね。
ダーゴン
闇の巨人の脳筋担当・・・・・・ではなく真面目担当。当初はカルミラとは別でトリガーに固執するキャラクターのように描かれていましたが、むしろカルミラたちに振り回される苦労人としてのポジションを確立していて驚きました。勝手な仲間にいつも説得していたように感じます。
一方でアキトやユナたちと関係を育んでいく様子は良かったですね。人間の底力を認めて、変わっていこうとする姿には感動しました。最後はあまり救われなかったものの、敵側で最も成長出来た存在だと思います。
ヒュドラム
闇の巨人の策謀担当。慇懃無礼な策士を装っているものの、キレると野蛮な素が出てくる二面性が面白いキャラクターでした。裏で暗躍しているものの妙に詰めが甘いなど、仲間たちに負けないポンコツ要素も多かったですね。トレギアを見習えトレギアを!
それでいてイグニスが関わると、ギャグ一切なしの外道として大暴れしていたのが印象的。ひたすら憎たらしい一方で、適度に痛い目を見るので安心して見られる悪役に仕上がっていたと言えます。
さてトリガー本編は一旦終わり、次は3月の劇場版が待っています。その後の『ウルトラギャラクシーファイト』の続編でも何かしらの新情報がありそうですし、トリガーはまだまだ視聴者を楽しませてくれそうです。まずは直近の『エピソードZ』で、ケンゴの復活と活躍に期待したいですね。
ではまた、次の機会に。
↓以下、過去の感想一覧です。