新・メタレドの楽しんだもん勝ち!

様々な作品について語ったり語らなかったりするサイト

機動戦士ガンダム 水星の魔女 感想(総評)

目一杯の祝福を君に

ガンダム初心者に向けた新たなガンダムと言える作品だった

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

 去年の秋に放送を開始した『機動戦士ガンダム 水星の魔女』。久々のガンダムテレビシリーズだった他、シリーズでも珍しい女性主人公という点で大きな注目を浴びていた本作もついに完結。毎回衝撃かつホットな展開でSNSを席巻し、普段ガンダムを見ない・見たことがない人たちの間でも話題になったことでかなりのヒット作になったと思われます。かくいう僕も、本作の良きも付かせぬストーリーに毎回大いに楽しませてもらいました。

 

 

 先に評価点について語りたいと思います。

 本作でまず魅力的だと思ったのがキャラクターの動線のわかりやすさ。良くも悪くも登場人物の劇中の行動が明快で、ストーリーそのものを追えなくても主人公たちから目を離さなければ自ずと理解が及んでくる内容に仕上がっていました。すれ違いといった関係性の変化がスムーズに進み何が起きているのかも把握しやすく、登場人物の多さに反して各々が印象に残りやすかったと思います。中でもスレッタとミオリネのサイドを中心に、グエルなどのメインキャラそれぞれのストーリーが展開しながらもごちゃついていなかったのは本作の地味に上手いところと言えますね。

 またガンダムの物語の重要な要素でもある「戦争」を「決闘」に置き換えることで学園モノとしてのフォーマットを確立させているのが面白かったですね。『Gガンダム』のガンダムファイトのようなポジションであちらが政治的な戦争を繰り広げていたのに対し、あくまで学生同士のいざこざとして描かれていたのもあって戦争らしさはあまり感じられなかったのは見やすさに大きく影響していたように感じます。(とはいえ各陣営の勢力争いなどはもちろんありましたが)MS(モビルスーツ)を駆使した戦いながらも命のやり取りが比較的薄い序盤は従来のガンダムとはだいぶ異なるテイスト(例えるなら『ガンダムビルド』シリーズに近いです)でシリーズファンとしても新鮮な感覚で楽しめました。

 無論そういった平和なものばかりではなく、差別や争いから来る問題を取り扱っていたのもポイント。最初こそ鳴りを潜めていたものの、話が進むにつれそれらの要素が表面化していく過程は中々にハラハラさせられました。中でも最大の転機となったのが1クール目の終盤で、決闘ではない本当の殺し合いが始まることでスレッタたちが否応なしに血みどろの非日常に放り出されていく感覚を味わうことになったのもかなり刺激的でしたね。その後の2クール目からドンドン避けられない争いに発展していく過程も相まって、日常が壊れていく感覚は大きかったです。(その分最終回の大団円にホッとさせられます)

 

 物語としてはガンダムという異端」と「許しとの折りの付け方」といった問題を“呪い”として扱っていたのが特徴的でした。まず前者に関してはガンダムの扱い方に驚かされます。ガンダムという機体はほとんどの作品でもある程度畏怖される存在となっているのですが、パイロットを殺しかねない機体としてここまで危険視されるのはかなり珍しいです。GUNDフォーマットという医療技術の転用そのものは素晴らしいものなだけに、本来人々の助けとなる技術がその人を殺しかねない兵器になってしまっている設定に複雑な想いを巡らせてしまいます。

 そして後者に関しては言うまでもなくサマヤ親子の復讐問題。魔女としての烙印を押されて家族を失った彼女たちの壮大な復讐劇に、スレッタという異物を入れることでどのような結果がもたらされるのかという物語に見どころが大きかったです。個人的に興味深かったのがプロスペラ(エルノラ)のキャラクターですね。最初こそ自らの復讐のためにスレッタという人形を利用していたように見えていましたが、徐々にスレッタへの愛情や復讐を遂げなければならない考えに縛られていた悲劇的な面が掘り下げられたことに深く見入ることになりました。上のガンダム然り、表向きは恐ろしい存在も裏では何かしらの事情を抱えている水星の魔女のテイストの代表格だったと思います。

 そういった形で歪んでしまったガンドアームの技術、そしてサマヤ親子の運命といったものを壊していくのが本作の面白いところ。スレッタたち主人公陣営がそういった雁字搦めにされたものに正面から立ち向かい、解放していく終盤は非常に気持ちが良かったです。中でも最終回のガンダムのパーメットの力を解放するシーンは印象的で、危険視されていたガンダムを有効活用し、さらには対話を以て様々な人物のしがらみに決着を付けていく際のカタルシスは計り知れなかったです。いわば周囲が「こうでなければならない」という考えを覆していくかのような、「固定観念の破壊」が物語のテーマだったようにも感じます。そういった意味“呪い”を“祝い”に変えた点では、ある種新しいガンダム像を作り出してくれたかもしれませんね。

 

 そしてMSといったメカニックに関してはガンダム以外にも様々な個性豊かな機体が出ていたのが魅力的でした。ガンダムの強さは一定していたものの他機体のコンセプトも面白いものが多く、それらが活躍する戦闘シーンはどれも作画・構図共に見応えがあったと思います。(本筋に関わらないモブ機体に限って面白いギミック付きでしたね)個人的には劇中の戦闘シーンがどれも面白いダリルバルデや決めるところは決めるデミトレーナー(チュチュ専用機)、あとはプロドトスのようなマイナー機体がお気に入りです。

 またMSの開発競争という争いが行われていたこともあり、各機体を開発している企業ごとにMSの特徴やデザインが異なっている点が興味深かったです。特にジェターク、ペイル、グラスレーの御三家の機体はそれぞれ一貫したコンセプトがはっきりとしており、同社の機体で共通点が多く見られました。(この辺りはそれらの機体のガンプラを組んだことがある人ほどより理解出来るかと思います)それらの共通点やコンセプトを見つけ出すのも、本作のMSを見ていて楽しいところでしたね。

 

 

 

 

 さてここからは本作での不満点と問題だと思った点。見たくない方はブラウザバックを推奨します。

 まず挙げられるのが情報量の多さ。これは毎回の如く話がハイテンポで進み、放送後トレンドにのるほどの本作ならではの問題と言えます。2クールで全て終わらせる都合もあり、何が起きているのか把握するのにかなり苦労させられる側面もありました。情報の暴力とばかりに様々な事実が発覚していくため、それらを咀嚼するのが苦手は人は混乱させられっぱなしだったと思います。上述の通り登場人物に目を向ければ何とかなりますが、それにしたって展開の早さが凄まじかったですし、人物に興味がない場合はかえって見辛くなっていたことでしょう。

 他にも専門用語の説明不足も目立ちました。この手のガチガチに設定が固まっている作品にありがちな固有名詞の多さに反し、それらが一体どういうものなのかはあまり解説が入らなかったのはいただけなかったですね。そのくせパーメットといった用語が終盤に入るにつれかなり重要なものとなっていき、それらが当たり前のように会話に入ってくるので意味を調べておかないとこれまた話に置いてけぼりを食らってしまいます。一応公式HPなどで説明がされているものの、せめて番組内で人物の口から語ってほしかったです。

 あとは毎回が重要回ということに疲れることもありましたね。いわゆる話が進まない日常回のようなエピソードが全くと言っていいほどないのは少々もったいなかったです。学園モノでもあるので学園にフォーカスを当てた回などは合っても良かったという声は多く聞きますが、個人的にもそれは欲しかったところ。スレッタやミオリネたち、地球寮の面々の関係の深さは本作の時点で完成されていますが、それらの回で掘り下げたらより魅力的なものになっていたと思います。

 

 そういった尺の都合はMSの戦闘シーンの少なさにも影響しており、戦闘シーンが1回か2回だけの機体が多かったです。メインの機体を除くとほとんど印象に残らない機体もあり、個性の強さもあってどこか惜しいと思ってしまいました。設定上のカタログスペックが本編で活躍しない場合もあるのはガンダムシリーズの常ですが、本作はそれらの欠点がモロに表に出てしまった感じがしますね。

 他にはガンダムの強さとそこから来る戦闘シーンの単調さも気になりました。ガンダムエアリアルをはじめとしたガンダムガンビットによるオールレンジ攻撃が主力ですが、それが強すぎてほとんどワンサイドゲームになりがちだったことに引っかかりを覚えます。特にエアリアルは基本相手にすると苦戦らしい苦戦もなく、最後まで強かった故にラスボスのような印象を受けましたね。(実際にラスボスの機体となったわけですが)

 非ガンダムタイプに関してもオールレンジ攻撃が強く、全体を通してそれらが圧倒的過ぎてのは一貫していたと思います。そのため大体の場合ガンダムがビットによる攻撃で無双するか、相手がそれを対策して追い詰めるかの2択の展開ばかりで徐々に新鮮味が失われていく感覚がありました。ガンダムの強さ・恐ろしさを強調するために必要なことだったとはいえ、変わり映えしない戦闘ばかりという印象はどうしても否めなかったです。

 

 

 総評としては「多くの視聴者に向けた令和のガンダム」といったところでしょうか。ガンダムシリーズを普段見たことがない人でも興味を持ってもらえるようなキャラ重視の描写、そしてそれらを推しだしたわかりやすさなどを全面に出していました。またSNSの存在から広報にも力を入れており、トレンドに残る展開で毎週のように話題をかっさらっていったのも現代らしいと言えます。

 ただその分設定面の説明やメカニック、戦闘シーンなどで不満が出ることもありましたし、従来のガンダムシリーズを知っている人ほど面食らう内容でもありました。2クールだったので重要なポイントのみを駆け足でまとめたような展開ばかりで、それらも見ていて疲れる要因になっていたと思います。しかしそれもまた個性と考えると何だかんだで楽しめますし、個人的にも毎週見ていて面白かったガンダムでしたね。

 

 

 では以下、各キャラクターについての所感です。

 

 

スレッタ・マーキュリー

 本作の主人公。臆病な田舎娘という最初の印象から徐々に母親の言いなりであることに恐怖し、そこから乗り越えていく過程を応援したくなる……そんな見方がドンドン変わっていく少女でした。自分がないという点でもまだまだ未成熟な赤ん坊とも言えるキャラクターで、ミオリネやプロスペラに突き放された終盤は少しずつ自我を獲得していく様子に感動させられましたね。

 一方で自分の言葉を強く押し通す性格は一貫していたのも面白いところ。序盤の頃から譲れない者にははっきりと物申す様子が見られ、それが自我が形成されていくと同時に「わがまま」に昇華されていくのもお見事でした。その結果代償を払いながらも、欲しいものを全部守り切ったという点でまさに主人公に相応しい活躍だったと言えるでしょう。

 

 

ミオリネ・レンブラン

 花嫁にしてもう1人の主人公。内気なスレッタに対して最初からぐんぐん突っかかってくる押しの強いキャラとして強烈な印象を残してくれました。自分の置かれた状況が気に入らず、それを壊そうと躍起になる点では「固定観念の破壊」という側面を一手に担っていたキャラでもあるかもしれません。最初こそ子どもの癇癪に過ぎなかった面も、徐々に本当に大切なもののために耐え忍ぶ強さに成長していくのが流石です。

 またミオリネに関しては父・デリングの業を背負わされているのも大きな特徴。そのほとんどが当人が生まれる前から始まったものばかりなので、正直見ていて気の毒になってくる時もありました。そんな彼女がそれらの業と決着をつけ、親の呪縛といったものから解放されていくのがその分輝いて見えるところもあったので、何だかんだでカタルシスが大きかったですね。

 

 

グエル・ジェターク

 ある種主人公の1人でもある男。鼻持ちならない高慢な少年が挫折な苦難を味わい、少しずつ前を向いて立派になっていく様子は見ていて何度も心が震えました。本作屈指の成長枠でもあり、劇中での代表的なセリフである「進めば2つ」に対して大きな答えを出してくれたのも素晴らしかったです。同時にネタ要素も多くて、殺伐としていながらも懸命な姿を見せてくれる彼の存在はちょっとした癒しになっていましたね。

 

 

エラン・ケネス

 同じ顔と名前を持つキャラが複数いて結構ややこしい子。本来のエランはオリジナルのエラン様ですが、視聴者的には強化人士4号と5号が「エラン」というイメージが強かったです。強化人間枠として無念の退場が最終回でスレッタとの再会で報われた4号、気持ち悪い(直球)初期から徐々に熱い生き残りとなった5号と、それぞれに魅力がありました。個人的にはガンダムシリーズでもかなり生存欲が高めで、最終的に本当に生き残った5号がお気に入りです。

 

 

シャディク・ゼネリ

 本作の策謀枠。見た目の爽やかさと表向きの気さくな態度に反して、裏で様々な糸を引いていたプロスペラに並ぶ暗躍っぷりでした。そのくせミオリネやグエルに対する感情の重さが湿っぽく、その人間的で情けない面が彼の魅力になっていたと思います。多くの主要メンバーが進んだり逃げたりすることで問題を解決していったのに対し、彼は最後まで進退ままならぬまま終わってしまった印象を受けました。(まぁ最終回でのミオリネの選択に満足しているだけマシと言えますか)

 

 

プロスペラ・マーキュリー(エルノラ・サマヤ)

 娘・エリクトと共にラスボスを務め、様々な問題を抱えて苦しんだ母親能登麻美子さんの演技力もあってその威圧感たっぷりなキャラクターは本当に鮮烈でした。それでいてスレッタへの少なからず親心やエリィを救おうとする想い、そして生き残ってしまった責任を背負っている姿はあまりにも悲劇的だったと思います。そのためスレッタがその袋小路を破壊してくれたことである程度胸のつかえがとれたことにウルっとさせられますね。復讐そのものを生きがいにしていた彼女がそれを止めてしまったのはある意味で罰とも取れますが、娘たちと共に罰を受けるからこそ彼女が救われたのかもしれません。

 

 

 

 というわけで水星の魔女の総評でした。どう書けばいいのか非常に難しい作品でもあったので、本編完結から1か月以上もかかっての投稿になってしまいました。個人的にもここまでまとめるのに本当に苦労しましたが、こうして書き上げることが出来てホッとしています。

 水星の魔女はわかりやすさもあるものの解釈が分かれる要素も往々にして存在し、そのため視聴者によってはその受け取り方の違いで衝突することもありました。そういったやり取りがネットでしばしば見られたことに心苦しく思ったものの、それもまた作品の個性かと思います。僕も自分なりにこの作品がどうだったのかをここで書くことが出来て良かったです。久々の本格的なテレビシリーズのガンダムとして、本当に楽しめた作品だったと改めて感じましたね。

 

 

ではまた、次の機会に。

 

 

 

↓以下、過去の感想一覧です。

 

 

metared19.hatenablog.com

metared19.hatenablog.com

metared19.hatenablog.com

metared19.hatenablog.com

metared19.hatenablog.com

metared19.hatenablog.com

metared19.hatenablog.com

metared19.hatenablog.com

metared19.hatenablog.com

metared19.hatenablog.com

metared19.hatenablog.com

metared19.hatenablog.com

metared19.hatenablog.com

metared19.hatenablog.com

metared19.hatenablog.com

metared19.hatenablog.com

metared19.hatenablog.com

metared19.hatenablog.com

metared19.hatenablog.com

metared19.hatenablog.com

metared19.hatenablog.com

metared19.hatenablog.com

metared19.hatenablog.com

metared19.hatenablog.com

metared19.hatenablog.com

metared19.hatenablog.com

metared19.hatenablog.com

metared19.hatenablog.com